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なぜ日本の芸能人は「独立」ができないのか - 松谷創一郎

ライター、リサーチャー 松谷創一郎=答える人

SMAP解散騒動はなぜ沈静化したか

年が明けていきなり日本を大きく騒がせたSMAP解散騒動。そもそもきっかけは、メンバー4人がマネージャーとともに、他の芸能プロダクションへの移籍を企図したことだと報じられている。結局は元の鞘に収まることとなり、生放送での不可解な「謝罪会見」を招いたが、それによって芸能界独特の慣習の存在が、広く知れ渡ることにもなった。もし移籍や独立を敢行すれば、仕事を干されるリスクが待ち構えているのだ。実際これまでにも、それで辛酸を舐めた芸能人は少なくない。

なぜこうしたことが生じるかというと、それは芸能プロダクションが芸能人を雇用する立場であるからだ。芸能人は、あくまでも芸能プロダクションの被雇用者、つまり契約社員であることがほとんどである。

テレビ局や広告代理店などのクライアントも、芸能人個人ではなく芸能プロダクションと取引をする。もし退社して個人事務所などを立ち上げれば、所属していた芸能プロダクションから圧力がかかることもある。「おたくが○○を出演させるなら、うちのタレントは今後すべて引き上げる」ということだ。また、そうしたことを見越して、テレビ局や代理店が自粛するケースもあるだろう。なんにせよ、旧所属先とのパワーバランスによって、その後の仕事の多寡が決まってくる。

しかし世界的に見れば、日本の芸能界のあり方は非常に独特である。たとえば、アメリカには「芸能プロダクション」はない。アメリカで働く芸能人は、最初から独立した個人として活動するからだ。

アメリカで芸能プロダクションの代わりに存在するのは、エージェント、あるいはその組織であるエージェンシーである。これは芸能人の窓口となる代理人であり、成功報酬の10~15%を受け取ることで成立するビジネスだ。芸能人は、このエージェントと個々に契約して仕事を進める。つまり、アメリカの芸能人とは、被雇用者ではなく雇用主なのである。

両国の違いは、「バーター」と呼ばれる抱き合わせ商法においても見られる。

芸能プロダクション単位で仕事が動く日本では、大手に所属すればするほど有利となる。たとえばドラマでは、主演俳優と抱き合わせで若手俳優を4番手や5番手の役で出演させることが一般的だ。同じプロダクションの俳優を使うために、原作にはない役をドラマでわざわざ創らせることも珍しくない。いわゆる“ゴリ推し”だ。大手のプロダクションは、こうして次世代の俳優を成長させていく。

抱き合わせ商法は、アメリカでも珍しくはない。エージェンシーは、俳優だけでなく映画監督や脚本家も抱えており、それらをひとつのパッケージとして映画会社に売り込むことが常套化している。俳優としては、大手のエージェンシーと契約すればするほど有利となる。

ただし、これらにおいても主導権を握るのは、日本は芸能プロダクションだが、アメリカは芸能人である。

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日米では雇用関係が逆転している

被雇用者である日本の芸能人と、雇用主であるアメリカの芸能人――この違いは、活動の自由度において大きく顕れる。日本では独立することにリスクがともなうが、アメリカではエージェンシーとの契約はいつでも打ち切れる。あくまでも主導権が芸能人側にあるのがアメリカ、芸能プロダクション側にあるのが日本である。

この差異は、組合の有無や公正取引委員会の機能などの社会的基盤に依るところが大きい。アメリカではエージェンシーと契約する前に、必ず組合であるSAG-AFTRAに加入しなければならない(※1)。 最低賃金なども組合によって保証される。しかし日本の芸能界には、声優が中心となる日本俳優連合を除けば、主だった組合はない。

またアメリカの公正取引委員会は強い効力を見せるが、日本のそれが芸能界に対して影響力を示すことはない。芸能人が独立してその活動を妨害されれば、本来それは独占禁止法の「不当な取引妨害」に抵触する。実際に日本の公取委に問い合わせたところ、「独占禁止法はあらゆる事業体が対象になります。参入妨害や排除など公正な競争を妨げる行為があった場合には、当然、対象になります」との回答も得たが、適用される気配は一向にない。

韓国は法改正により芸能事務所に罰金も

ここでひとつ補助線を引くならば、日本の芸能界と似たシステムを持つ韓国の状況であろう。韓国では、特定の芸能人に対して露骨な圧力が続いたことにより、法改正にまで至ったのだ。

2010年、人気男性グループ・東方神起を脱退した3人のメンバーは、JYJとして独立した。しかし、彼らには苦難が待ち構えていた。映画やドラマには出演できても、音楽番組にはいっさい登場することができない日々が続いたからだ。背景には、前所属プロダクションであるSMエンタテインメントの圧力があるとされている。JYJは、11年にそれを禁止する判決も導いた。SMエンタが圧力をかければ、1回につき2000万ウォン(約200万円)の罰金が科せられることとなった。

しかしこれ以降も、JYJは音楽番組に出演できなかった。そこで韓国の公正取引委員会は、13年に業界団体とSMエンタに対し、活動妨害を禁止する命令を出す。が、それでもJYJが音楽番組に姿を見せることはなかった。この状況を重く見た野党の国会議員が、15年に入って放送法改正に乗り出し、11月30日、ついに放送法が全会一致で改正された。それは圧力をかけた者に、罰金が科される内容だった(※2)

年明けにはまたJYJメンバーが音楽イベント『ソウル歌謡大賞』に出演できない事態が生じた。ファンの批判を受けて、イベントの後援でもあるソウル市・パク市長は主催者に対し、再発すれば後援を中断すると通告した。この法改正は、徐々に効力を持ちつつあるとも見られる。

韓国の芸能界は、日本をモデルとしてきたことで知られる。グループアイドルの形式や早い段階からの育成などはもとより、芸能プロダクションがタレントを抱えるシステムも日本とほとんど同じだ。

JYJだけでなく、韓国芸能界では過去にはKARAの独立も大きな騒動となったことがある。そうしたときしばしば使われるのが「奴隷契約」という表現だ。判断能力の乏しい10代半ばの未成年者が、不利な立場で芸能プロダクションと長期の契約を結ぶことが問題視された。そしてたとえJYJのように独立しても、その後の活動は不利な状況となる。これらも日本と酷似している。

韓国芸能界は、JYJやKARAが社会的に問題視されることで、急速に状況を改善しつつある段階だと言える。法改正するほどの動きを見せたのは、芸能が国にとっての主要産業であり重要なソフトパワー政策だという認識もあるからだろう。

対して「クール・ジャパン」のお題目のもとにコンテンツ輸出およびソフトパワー戦略を活性化してきた日本では、国会で安倍総理がSMAPに対し「存続して良かった」と述べたように、さほど大きな問題だとは捉えられていない。だが、日本の芸能人も、韓国同様ほとんどが10代から芸能プロダクションに所属し活動を始める。その最初の選択で、後の人生を大きく左右してしまうリスクがある。芸能人の自由な活動を国が保証しないかぎり、今回のような騒動は繰り返されるだろう。

※1:正式には、「映画俳優組合─アメリカ・テレビ&ラジオアーティスト連合(Screen Actors Guild-American Federation of Television and Radio Artists」という。
※2:韓国・放送法85条に、「放送事業者の従業員以外の者の要請により(略)放送番組制作と関係のない理由で放送番組に出演をしたい人を出演させないようにする」ことが「禁止行為」として新設された。違反した場合は、是正命令を下すか、または売り上げの2%以内の課徴金を賦課されるとある。

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