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「日経は英語圏でアピールを」〜FT買収後の課題を在英ジャーナリスト・小林恭子氏に聞く(前編)

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「海外の知識層70万人が購読」というFTの強みに鈍感

—海外では買収によるネット企業との融合もそう珍しいことではありません。ライブドアによるニッポン放送買収や、楽天によるTBS株取得が世間を賑わせてから10年以上が経過しましたが、その後の事例はほとんどなく、議論にも不慣れなのではないでしょうか。

TBS株取得で会見する楽天の三木谷社長(05年10月)
小林:欧米の新聞社や通信社、放送局は自分たちが“デジタル・コンテンツのプロバイダー”という意識が強くなってきています。その一方、日本の新聞業界には、デジタルと紙とを分けて考える方がまだまだ多いように思います。

Amazon創業者のジェフ・ベゾスが『ワシントン・ポスト』を買収した時もそうでしたが、どこか遠い国の話という感覚がまだあるのではないでしょうか。

今回、執筆のために日経を含め複数の新聞社の方にお話を伺いましたが、「日経によるFT買収」という事象について、「もっと深く知らなくては」という意識が皆さんにあまりないように感じました。

と言いますのも、「FTって、なんか小さいよね」ということを皆さんよくおっしゃるんです。それがずっと頭に残っているのですが、重要なのは数ではなくて、「誰が読んでいるか」ですよね。数百万部という日本の大きな新聞の規模に比べれば、FTは確かに小さい。しかし、「海外の知識層70万人が読んでいる」という事実を十分に理解していないように見えました。

現在、新聞の電子版に関して言えば、ページビューではなく、“どのぐらいエンゲージしているか”、といった議論に移ってきていますよね。ページビューをベースにした広告料収入だけではダメなので、購読料を取る方向に力を入れるようになっています。そのためには、読者が何を欲しているかを考えなくてはなりません。

FTはオーディエンス・エンゲージメント・チームを編集室の中央部に置いているそうです。「オーディエンス・ファースト」がキーワードになってきました。

FTの側は、日経と一緒になることで、ジャーナリズムの面で窮屈になることを心配した人もいたと思います。現時点では「幹部は変えない」と日経側は言っていますが、将来的には不透明ですし、“編集の独立”と言っても、すぐ変えられてしまうのではないかと身構えたわけです。しかし、実際にはそうじゃなかった。

本来、やはり買収する前に、“こういう風に変えたい”というプランがあるわけですが、日経にはそれがあったのでしょうか。「グローバル化とデジタル化のため」という漠然とした目的はあったでしょうが、「内容をこう変えたい」というのは、なかったように感じます。そういう意味では、やはり日本のメディア業界には“不慣れ”な部分があるのかもしれません。

ボヤボヤしてるとFTに利用されるだけの可能性も

-本来は、従来のアセットを使って実現したいビジョンがあるからこそ買収するのが一般的ということですね。買収後の日経については、思いのほか動きが少ないということでしょうか。

日本経済新聞社の岡田直敏社長(AP)
小林:外から見ると、そのように見えますね。実際はいろいろなことをやっているとは思うのですが。

欧米の場合、買収をしたら、普通「変えない」といっても、必ず上の人を変えてしまいます。そういう意味で、FTは助かったと思います。アクセル・シュプリンガー社だったら、もう経営及び編集幹部の人たちを全部変えていたでしょう。

ですので、日経側がボヤっとしていたら、「このプロジェクト、絶対に必要なんですよ」と言って、FTにお金だけ使われてしまうかもしれません。記者のレベルでも、FTのジャーナリストは百戦錬磨ですから、「自分はこうしたい」というものがないと、相手のプランでどんどん物事が決まってしまうかもしれません。

現時点では、ヨーロッパでは、「日経」と言われても、多くの人は「Nikkei225(=日経平均株価)」という単語しか思い浮かばないと思います。知名度は決して高くないのです。

走りながら考える、というのでも良いと思います。ただ、日経関係者の方はもっとBBCなどに自ら出て来て、「日経のジャーナリズムはこうである」「今までこんなスクープがあったんだぞ」と、英語でどんどんアピールしていく必要があるのではないでしょうか。(次回に続く

(こばやし・ぎんこ)1958年生まれ。1981年成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、米投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)の記者・編集者を経て、2002年、渡英。英国をはじめとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に『英国メディア史 (中公選書)』など。

小林恭子の英国メディア・ウオッチ
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