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- 2016年02月17日 08:01
「日経は英語圏でアピールを」〜FT買収後の課題を在英ジャーナリスト・小林恭子氏に聞く(前編)
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フィナンシャル・タイムズ紙(AP)
今回の買収は、日本の新聞業界にどのような影響をもたらすのだろうか。買収に至る経緯やFTの歴史、英国のジャーナリズムについてまとめた『フィナンシャル・タイムズの実力』を1月に上梓した在英ジャーナリストの小林恭子氏に聞いた。【大谷広太(編集部)】
FTと日経、それぞれの狙いは?
-今回の買収は、FT・日経双方にとって、ある意味で生き残りのためという観点と、規模拡大・コンテンツ拡充のためというように、いくつか理由があると思います。
ft.com
FTは紙の部数が約20万部、電子版の会員数を入れても75万ですが、これを2018年までにはトータルで100万にしたい。その目標を達成したい、そしてアメリカでも読者を拡大したいという思いがあるようです。アメリカには『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』といった老舗の大手紙だけでなく、『VICE』や『Quartz』などの新興ウェブサイトもたくさんあります。こうしたメディアと戦っていくには、相当の投資を継続的に行うことが必要です。

日本経済新聞社の喜多恒雄会長(AP)
また、FTのジャーナリズムの手法が日経に入ってくるかどうか、現時点では分かりませんが、人的交流も少しずつ始まっているようです。買収報道が出た際に、FT記者たちがTwitterで一斉に声を挙げていましたが、FTに限らず、欧米の記者はTwitterをやっているのが普通です。こうした手法が日経でも採用されるといいのですが。
「他社を買う」という発想が湧きづらい日本メディア
-小林さんは著書で、欧米におけるメディアは企業が様々な事業を展開する中のひとつであったり、それは時に買収の対象であったことが説明されていますが、今回のFT買収もそうした歴史につらなる事象だと思います。他方、日本ではいわゆる“メディア企業”以外がメディアを持つことへの抵抗感や、“メディア企業”が他の事業をやることへの抵抗感があるように思います。

ft.com
「メディア企業はジャーナリズムだけで稼がなければいけない」という雰囲気があります。しかし今の時代、それは不可能ですよね。どのメディアも、死に物狂いでお金を作ってジャーナリズムを支えていかなければなりません。
例えば、日本人にも馴染み深く、評価も高いBBCも「自分たちでお金を稼ぎなさい」と政府から言われています。そのため日本版BBCのニュースサイトを開くと、広告が表示され、そうやって商業部門が得た売上をジャーナリズムに投資しているんです。
あるいは、日経に先んじてFTを買おうとしていた独アクセル・シュプリンガー社はテレビ局も持つ複合メディア企業ですが、Eコマースの企業を複数買収しています。これによって、何をどうすれば、どのように売れるのかを分析し、そのノウハウをウェブメディアの運営に活用しているのです。
ですから、もうキレイ事を言っている場合ではなく、ジャーナリズムを伸ばすためにもお金を稼ぎ続けることが重要です。要はメディア事業を続けたいのか、続けたくないか、ということです。もちろん、広告主の意向で報道が左右されるようであってはいけませんが、ジャーナリズムを守るためには、不動産業を営むのもまったく悪いことないでしょう。
ただ、日本のメディア企業の場合、こうした取り組みを実現するための人の流動性も低いし、思い切った人員削減もありませんから、他の会社を買うという発想も湧きづらいのではないでしょうか。



