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債務史観 vs 生産性史観 その①「清算主義」を清算せよ

リーマンショックから欧州通貨危機に至るプロセスで、我々は歴史の転換点に立っていることが明らかとなった。過去の循環論だけでは解釈不能、対応不可の事柄が続出しているのである。このことから直ちに「大恐慌の再来、暗黒時代への突入不可避」と飛躍する悲観論が蔓延している。しかし、歴史は大恐慌では終らずに、その後に豊かな繁栄時代が続いた。また経済学者達の検証によって「大恐慌は必然ではなかった(避けることができた)」と結論づけられている。ならば金融危機が次の繁栄に繋がる可能性もあるはずであり、それはどのようなプロセスなのか、が追求されなくてはならない。分析家は将来は暗いと決めつける宿命論に付き合っている暇は無いはずである。
現在の思潮の欠陥として、人々はバランスを欠いて債務史観に捕らわれていると考える。ラインハート・ロゴフ両氏による「国家は破綻する」”This time is different”がバイブルとなっているのは異様である。また財政赤字が唯一最大の日本の経済問題であるかのような財務省主導の考え方が、エコノミスト・オピニオンリーダーやメディアの金科玉条と化したのも異様である。
債務を軸に歴史を考えることは時には必要である。しかしそれのみでは片手落ちであり、正しい認識は生まれない。より重要な歴史観は生産性史観である。人類の発展は、技術の発展による生産性の向上が人々の生活水準を豊かに押し上げてきたのであり、債務(信用)はその伴奏に過ぎない。今後数回にわたって、債務史観と生産性史観の複眼的観点から、歴史と現状および将来展望を考えてみる。

(1)「清算主義」を清算せよ
(2) NYダウ100年史、歴史は生産性と信用によって発展してきた
(3) 通貨制度の転換期に起きる金価格の上昇、金価格の上昇は何を意味するか
(4) 高収益・高失業、低支出・高貯蓄の米国経済、持続回復は可能
(5) 債務ヒステリーが蒸し返す危機、を克服せよ
(6) 日本に与えられた歴史的チャンス
(7) 仮説としての展望〜利潤率と利子率の乖離はどのようにして埋まるのか〜

(1)「清算主義」を清算せよ

楽観派の降伏、政策の降伏
世界の株式市場は、再度リーマンショック型の暴落過程に入ったようである。こうした状況では株価底入れのパターンが通常とは全く異なることを理解するべきであろう。普通の景気循環局面での株価底入れは、最後の楽観派が売り尽くすと株価は底入れ回復に転ずる。しかし、恐慌型の暴落の場合、楽観派が降伏しても株価は底入れしない、株価の底入れには政府の政策転換(誤った政策を続けてきた政治家の降伏)が必須である。2008年のリーマンショックでは、銀行非難の嵐の中で銀行救済プログラム(TARP)が決定されたことで事態は転換した。日本でも、2003年5月メディア等の批判に抗して「りそな銀行」を公的資金によって救済した(100%国有化しなかった)時に、長期株価下落は終焉した(もっともライブドア事件以降の「清算主義」の復活=リスクテイクに対するパニッシュメントの復活により株価回復は断たれたが)。大恐慌の時でも、株価の底入れは過去の清算にこだわったフーバー大統領が退陣し、1933年ルーズベルト大統領によって成長政策が導入されて市場は底入れをした。大恐慌からの回復過程で、再リセッションに陥った1937年不況からの立ち直りも同様であった。

単なる不況を恐慌に転化した「清算主義」
それでは、株価底入れに必要な是正されるべき誤った政策とは何なのか、それは一言で言えば「清算主義」と言える。「清算主義」とは、倒産や失業を恐れず、過去のインフレや債務の増加によって膨らんだ経済を清算し、正しい均衡状態に戻すべきだという考えである。つまり過去の付けをまず払え、それなしにはスタートには立てない、とする心情である。それはジャーナリズムやハブル期の強欲批判に凝り固まった大衆受けする議論であるが、政策を将来に対してではなく過去の付けに割り当てるという転倒したものである故に、きわめて有害な心情である。「借金をまず取り立てよ、赤字企業は潰せ、過剰消費を改めよ、向こう見ずの(reckless)リスクテイクに懲罰を」等の勇ましい議論の先は、「恐怖が恐怖を呼ぶ悪循環」がもたらす崩壊しかない。何故なら「清算主義」は経済論というより、正義の仮面をかぶった妬みという側面も強くチェックが効かないからである。経済論なら、その効率性によって理論や政策の有効性・正当性が確認できるが、心情や思想となると検証は不可能であり是正は著しく困難である。ドイツによるギリシャの債務に対する批判、より一般的なソブリン債務批判、銀行のバランスシート問題、米国のティパーティーによる債務批判、など多くの政策は清算主義に影響されて、経済合理性の域を超えてしまった、それが市場の反乱を招いていると考えられよう。欧州情勢に即して言えば、ギリシャのデフォルト、ユーロからの脱退、ユーロの廃棄(ユーロの再構築はあり得まい)などである。これらは過去の貸借関係を一気的に清算させ、信用に依拠している全ての経済主体の活動を停止させる。

悲観論者はこのことを、「リーマン危機が未だ終焉していない、先送りされただけであり今その付けが現れた」と評論するが、そうした見方は一面的である。人類の歴史は確定的、宿命的なものではなく、様々な可能性の中から人々の正しい選択によって発展してきたのである。米国の工業生産が半減し雇用の4分の1が失われた大恐慌は、決して必然ではなく「清算主義」と言う誤った政策選択によって引き起こされ、政策の是正によって回復した。つまり政策次第では回避出来たのである。

ケインズは「どのような経済の実際家たちも、過去のある経済学者の奴隷であるのが普通である。」故に政治家や官僚が間違えるのは、過去の古い間違った思想を適用するからである。「良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益では無くて思想である」と述べている。

株価下落が「清算主義」が一掃されるまで続くとすると、この先にはリーマンショック直後に見られた過度の暴落(=「マイナスのバブル」の発生)も起こり得る。そしてその先には、株価のV時回復が待っている。

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