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アラブの春は結局何をもたらしたのか? - 岡崎研究所

アラブの春から5年経ち、アラブ世界の状況はかつてないほど悪いが、自らの窮状についての人々の理解は進み、そこに希望があるかもしれない、と英エコノミスト誌が言っています。論旨は以下の通りです。

かつてないほどアラブ情勢は悪化したが…

 アラブの春はチュニジアを除いて当事国にハッピーエンドをもたらさず、リビアとイエメンは内部崩壊、エジプトとバーレーンは以前より強硬な独裁制となり、シリアは奈落の底にある。また、他のアラブ諸国も状況は悪い。イラクは事実上、クルド、シーア派、IS支配地域に分裂し、アルジェリアとスーダンは略奪的な軍事政権に支配され、パレスチナは孤立と弱体化を深めている。富裕な湾岸諸国でさえ、石油価格の急落や増える若年層の高い失業率等、体制を揺さぶりかねない深刻な事態に直面している。

 このようにアラブの状況はかつてないほど悪い。しかし、アラブの春は、アラブの社会や国家の仕組みを変えることはできなかったが、そうした仕組みについての人々の理解を大きく変えた。人々はアラブ国家が腐っていることを知ったのだ。

 この腐敗は、何世代ものアラブのエリート層が責任ある有効な統治モデルを創らず、教育も推進せず、60年も独裁制を続けたことでもたらされた。そのため、反動が起きても、それは焦点と方向性を欠くことになってしまった。アラブの春は、有能な指導者、信頼に足る行動計画、有効な思想を生み出せなかった。ただ、政治的イスラムは現実に何を意味するのか、世界におけるアラブの位置やアラブ諸国同士の関係はいかなるものか、アラブ国家・社会の強みと弱みは何なのかをはっきり見えるようにはしてくれた。

 これまでアラブの世論は地域の諸問題を西側の介入のせいにしがちだった。確かに西側にも責任はある。中でも最大の失敗はイラク統治だ。しかし、こうした失敗や、アラブの春への西側のお粗末な対応のおかげで、西側の限界が露呈され、中東に外からの介入が続くのは、西側の悪意ある意図よりも、アラブ自身の弱さに原因があることがわかってきた。アラブ諸国同士の関係の脆さやアラブ国家自体の弱さも露にされた。

 従って、今後新たな反乱が起きた場合、反乱勢力側は、名ばかりの指導者の打倒や実権のない議会の設立以上のものを要求するようになろう。

 ISのことも検討される必要がある。皮肉にも、一連の革命騒ぎが産んだ唯一の新しい統治モデルはISだからだ。ISは極めて残虐だが、その①素早い断固たる司法の強調、②容赦ない腐敗の取締、③保健、教育、社会福祉サービスの提供は、多くのアラブ人にアピールする。石油も他のアラブ諸国のように支配層が独占せず、民間に任せて課税するやり方をとっている。

 ISに欠落しているのは、勿論、人権の尊重であり、コーランや「カリフ」の気まぐれに依拠しない、人々の意思と利益に留意する立法過程だ。アラブの春は、暴君の打倒や選挙のような華々しいドラマよりも、こうした要素の方が成功へのカギかもしれないことを示した。

 そして、アラブの春で高揚した期待は打ち砕かれたが、アラブの人々は、次の事実に元気付けられるかもしれない。欧州でも1848年の革命騒ぎはすぐにはほぼ何の変化ももたらさず、直後はむしろ保守派による反動が起きた。しかし変化は次世代になって長期的な形で起きた。それをもたらしたのは街頭デモではなく、文化、社会、経済で起きた静かな革命だった。こうした変化はタハリール広場の大規模デモのように人々を陶酔させてはくれない。しかし、次の再生の動きを永続的なものにするには、先ずこうした根底的変化が起きる必要がある。

出 典:Economist ‘The Arab winter‘(January, 9-15, 2016)
http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21685503-five-years-after-wave-uprisings-arab-world-worse-ever

*   *   *

社会の構造的問題を知らしめたアラブの春

 論説は、アラブの春は、アラブ社会や国家の仕組みは変えなかったが、そうした仕組みについての理解は大きく変えた、人々はアラブ国家の腐敗を知り、アラブの問題は米国等西側の介入に責任があるのではなく、アラブ国家・社会自身の弱さにあることが分かった、アラブ社会の活性化のためには、しっかりした司法、汚職追放、説明責任といった、良い統治の基本的構成要素が重要である、現在エジプトの若い革命家たちは、街頭行動を行う代わりに、警察や司法の改革についての計画を静かに立案している、と述べています。

 そして、1848年の二月革命は、直後は保守の反動に見舞われたが、その後文化、社会、経済で静かな革命が進行し、新しく、より強力な機関がつくられ、次の世代には革命が成就した、同様にアラブ社会を再生するには、このような根本的変化が起きる必要がある、と言っています。

 その通りなのでしょう。独裁者を倒しても、良い統治の構成要素が無ければ混乱を招くだけで、また元に戻ってしまいます。アラブの春のほとんどはそのような過程をたどりました。

 チュニジアでアラブの春が成果を収めた背景には、もともとチュニジアの教育、文化程度が高かったことがあります。すなわち、民意の程度が高かったのです。チュニジアでアラブの春が進行していた際、時の駐日チュニジア大使が、黙っていられないと言って、駐日大使の職を投げ打って祖国に戻ったのが印象的でした。

 しかし、一般的に独裁政権の下で、司法や警察の改革を行い、汚職を追放するのは至難の業です。論説はアラブの春で少なくともアラブ国家、社会の問題点についての理解が深まったといいます。しかし、問題を理解することと、是正策を講じることは同じではありません。現在エジプトの若い革命家たちが、街頭行動を行う代わりに、警察や司法の改革についての計画を静かに立案しているとのことですが、この計画がどのようにして具体的な改革に結びつくのか分かりません。

 1848年の二月革命の成果が実現するのに1世代かかったとのことですが、アラブの場合、1世代以上はかかるのではないでしょうか。

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