記事

「前払いクーポン割引サービス」の“おせち事件”を繰り返さないために

サービスの収支構造とリスクの正しい理解を



コスト構造の説明がちょっと難しいかもしれないが、すでに存在している類似サービスを考えるとわかりやすいだろう。航空会社の前売り券割り引きと映画の前売り鑑賞券である。両サービスとも季節により一定の座席売れ残りが予測されるので、その券を前もって安く販売するのである。航空券の場合には少ないだろうが、キャンセル・返金が不可能なものがほとんどで事情により放棄するケースもあるだろう。映画の前売り券は未使用率がかなりあるということである。そして、何よりも乗客が一人増えようが、映画の観客が一人増えようがかかるコストはほとんど変わらない。前払いクーポンの手数料率は往々にして高いのであるが、それは適した商材では上記のように大きなコスト負担をすることなく売り上げの増加が見込めるから負担可能なのである。

では例のおせち通販を考えてみよう。まず通常商品ではないので追加の仕入れは必ず発生する上に、商品の未消化は発生しない、提供時期は一括の上、通常商品ではないのでリピーターは期待できない。しかも、生もので返品が効かないということである。費用はほとんどが変動費であり、手数料が折半だと考えると、税抜き1万円のクーポンの店の収入は5000円である。送料や容器代、追加の人件費を考えると定価2万円とうたっているおせち料理のセットにかけられる原資は限りなく少なくなってゆく。また、同じタイミングですべての商品を発送できないと意味がないので梱包・発送作業が集中する。しかも、店舗にとって直接リピーターにつながる可能性が少ないと思われるこの商品は、どう考えても無理があるのではないだろうか? そして通常得られるメリットが少ない場合には仕入れを抑えるというインセンティブにより「モラルハザード(倫理の欠如。倫理観や道徳的節度がなくなり、社会的な責任を果たさないこと)」が発生する可能性が高いのである。

ただし、通販サービスの全てが前払いクーポンサービスに向いていないわけではない、固定費が比較的高く(変動費が比較的低い)、高付加価値なサービスには向いている。例えば、写真のプリントサービスなどである。写真の印画紙や薬品はある一定期間に使い切ることが必要なため、あるいは大量発注で通常商品のコストダウンが期待できる分むしろ効率化に貢献する可能性もある。そして、画像という形で個人情報を開示するサービスは価格だけはなく信頼性が重要なので、一度体験することによってリピートする可能性がより高まるといえるだろう。

市場が急拡大するときには様々な問題が起きるのであるが、大切なのは同じ過ちを繰り返さないことである。運営者側も利用する消費者側も「共同購入」と「前払クーポン割引サービス」をきちんと区別し、サービスのリスクをきちんと理解した上で参加することが必要であろう。また、

消費者はネット上で商品評価の確認を



5日のコラム「『前払いクーポン割引サービス』で“おせち事件”はなぜ起こったのか」は非常に大きな反響を得た。記事の内容は、そもそもおせち料理の通販という商材がこのビジネスに適していないために起こってしまった構造上の問題を指摘したものである。

筆者はこの「前払いクーポン割引サービス」が流行すると見込んで、今までに4本の記事を書いてきた(脚注に記事へのリンク掲載)。このモデルはうまく回ればメリットが大きいと考えている。今後、健全にサービスを提供するために、消費者、サービス提供業者、クーポン業者、マスコミ、行政それぞれが、どのようなことに気をつければよいか考えてみたい。お断りしておくが、本記事は今回起こった事件の当事者を非難もしくは弁護するものではない。

まず消費者は以下のポイントをチェックするべきだろう。(1)その商品は本当に、通常定価で販売されているものか。ホームページや関連サイトでの評価を見るべきである。(2)通販型の商品や返品できない生もの、継続性のない商品には手を出さないこと。(3)サービスの提供を受けたあとは、その評価をインターネット上で何らかの形で行うこと。良い場合も悪い場合も書くことによりネット上に資産として残すことができる。今回の事件もグルメ情報サイトへの投稿が発覚のきっかけであったようだ。

事業者、行政、マスコミらの取り組みが健全な市場発展に必要



サービス提供業者は、クーポン販売で直接利益を追求しないことである。リピーターの獲得や店舗の知名度向上、インターネット上での評判の獲得などを通じた間接利益を狙いとすることが重要である。利益を追求するには仕入れや経費を削る必要があり、モラルハザードに陥る可能性が高いので要注意。また、そのような対応では決して評判は上がらないために長期的には経営は苦しくなるだろう。

クーポン事業者は提供する商品やサービスの事前チェックを厳格化するとともに、サービス提供後の評価をオープンにするべきだ。地域ごとの営業員がノルマに追われ、チェックせず業者と現存しない商品を構築するということが一番懸念されるので、後述するが行政(消費者庁)も何らかの監視基準を設けるべきと考える。参入障壁が低い業態だけに、悪質なクーポン乱立を阻止する方策が必要である。


マスコミは消費者が混乱しないように、サービスの名称を考えるべきだろう。「共同購入クーポン」は実態と違うので筆者は「前払クーポン割引サービス」を提唱したい。

行政はサービスの監視機能を考えるべきだろう。筆者は規制推進派ではないが、何らかの指針を設けてそれを満たしているかを明示化することによって、消費者に業者の適正を伝える仕組みが考えられないだろうか。

筆者は今回の事件は単なる商品の問題ではなく、社会がソーシャル化に向かっている中での一つの象徴的な出来事であると考えている。企業がソーシャルメディアを利用したビジネスや、マーケティングを行う上での多岐にわたる問題点を浮き彫りにしてくれたからである。その意味でもこの業界の動向を注意深く観察したいと思っている。

《関連コラム》



「前払いクーポン割引サービス」で“おせち事件”はなぜ起こったのか(1/5)
クーポン共同購入サービスが流行する理由:2(12/22)
クーポン共同購入サービスが流行する理由:1(12/15)
【参考記事】クーポン共同購入、米社参入で市場活性化(8/25)

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

江端 浩人(日本コカ・コーラ インターラクティブマーケティング統括部長)

日本コカ・コーラが運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を会員数約900万人、月間PV約5億を誇る巨大メディアに成長させた。2009年9月から、缶コーヒー「ジョージア」のIMCリーダーを兼務する。
米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を得て、2005年から現職。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。
個人ブログ : 江端浩人のiMarketer's Eye
個人Twitter: @hirotoebata
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