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ヨーロッパの難民問題(その1)

ニュースサイト「ムーラン」に連載中のコラムの新しい記事が掲載されました。

「パリの空の下から ~国際行政官の視点~」
第6回:ヨーロッパの難民問題(その1)

ヨーロッパが現在直面する最大の課題の一つは、難民問題(refugee crisis)である。シリアでの内戦の悪化等を背景に、多くの人々が陸路で、あるいはボートで地中海を越えてヨーロッパを目指しており、2015年だけで100万人以上の難民申請がなされている。筆者が現在滞在するフランスでも、イギリスへの渡航を目指す人々が、ドーバー海峡に面した国境の街カレーにおいて、「ジャングル」と呼ばれるキャンプ地を形成して長期に渡り滞留し、衛生・健康面で劣悪な状況に置かれている。多くの難民が、無理な渡航の過程で命を落とす中、難民問題は、人道上の危機として、速やかな対処が求められている。

なお、難民(refugee)と移民(migrant)は本来、異なる概念として区別すべきものであるが、本件に関してはこれらの言葉がほぼ同義的に使われることが多く、実際上も、これらの人々が一体化していることが、問題を拡大・複雑化している。

移民とは、旅行等ではなく、長期に渡って他国に居住する人々の総称であり、その動機は、経済的な理由を含め様である。これに対し、難民とは、これら移民のうち、戦争等により自国からの出国を余儀なくされた人々であり、国際法上、保護すべき対象となっている。(正確には、これらの人々が難民申請(asylum application)を行い、許可されることにより、人道的な庇護の対象である「難民」(refugee)として認識されるが、申請中、あるいはこれから申請を意図している人を含め、「難民」と一括して議論することが多い。)

私が昨年7月にパリに渡航し、その後11月にテロ事件が発生するまで、フランスのテレビニュースなどで最も頻繁に目にするのは、この難民問題関係の報道であったように思う。難民はともかく、移民一般に関しては、日本にいるより、ヨーロッパの方が、その存在をはるかに身近に感じる。フランス人というと、日本人の多くはいわゆる白人を思い浮かべるであろうが、パリの地下鉄などに乗っていると、アラブ系ないしアフリカ系の人々を見かけることが多く、地域によっては、ここは本当にフランスなのだろうかと思うぐらい、コスモポリタン化している光景も目にする。こうした人々の多くは、先祖が移民であった二世、三世であり、生まれも育ちもフランス人として完全に同化しているのだが、さらに多くの移民が中東等から今、ヨーロッパの各国へと押し寄せてきている。

難民については、人道的見地から寛容に対応すべきというのが一般的な国際世論であり、ヨーロッパの多くの人も、頭では理解している(少なくとも、公に異は唱えにくい)と思われる。また、難民がもたらす経済的な効用についても、私が勤務するOECDによるものを含め、様々な研究がある。

しかし、実際にそれらを受け入れ、共に暮らしていくという立場からすると、人種・宗教・文化が異なる人々が大挙して訪れることに漠然とした不安を抱く人が多いのも確かであろう。また、雇用環境が良くなく、特に若年層の失業率が高い国も多い中、職を奪われることを恐れる人もいるかもしれない。難民に同情し、定住先が見つかって欲しいと願いながらも、できれば自分の国、自分の住む地域ではなく、どこか他で受け入れて欲しいというのが少なからぬ人の本音ではないだろうか。

また、今回の難民問題をより難しくしているのは、難民の定住希望先が、ヨーロッパならどこでも良いというのではなく、ドイツ、イギリスなど、経済・雇用環境の良い一部の国に集中していることだ。これは、ヨーロッパ統合の基本原理である「人の移動の自由」に関わる問題となる。EU構成国の大半が加盟するシェンゲン協定は、協定加盟国間での国境管理を撤廃している。そのため、ひとたび協定域内に入れば、妨げられることなく域内のどの国にでも行くことができる。他方、EUの別のルール、ダブリン規定は、難民が協定域内に入った場合、その最初の国で難民申請をしなければならないことを定める。だが、多くの難民は、最初に足を踏み入れたイタリア、ギリシャ、ハンガリーといった国々にとどまろうとせず、さらにドイツなどを目指そうとする。こうした無秩序な流入を防ぐため、各国が独自に国境管理を強化すれば、シェンゲン協定自体が崩壊しかねない。

こうした背景の下、元々困難な課題であるヨーロッパの難民問題は、昨年秋以降、様々な紆余曲折を経ている。次回以降のコラムでさらに詳しく論じたい。

※本稿は個人としての見解であり、筆者の属する組織の見解を代弁するものではありません。

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