- 2016年02月13日 10:00
トマト売り、タイプ打ち。25セントで学ぶものとは 開成中学校・高等学校校長 柳沢幸雄
教育費にいくらかかっているのか、うちの子は知っているのだろうか? わが子に金銭感覚を持たせることも、マネープランの大事な一環。各界の第一線で活躍されているあの人たちのマネー教育、聞いてきました。
お金に関して、息子や生徒たちにこんな話をしています。
画像を見る開成中学校・高等学校校長 柳沢幸雄さん
「お金には3つのいい面がある。1つ目は、使うときの喜び。2つ目は、増えるときの安心感。3つ目は、(お金を)得ることで手にできる自由」
教育の目的は、学業の成就はもちろんですが、最終的なゴールの1つは、「子供が自分で稼ぎ、生きていけるようになること」です。
私がこうしたお金に関する価値観を持つに至ったのは、父親の影響が大きいです。生きていれば100歳を超える明治生まれの父は高等小学校卒業後、小僧として社会へ出て、苦労しながら商人として私たち家族を養いました。若い頃は、貧乏暮らしだったのでしょう。幼少の私に、口癖のようにこう言っていたのを今も思い出します。「いいか、“元銭”を作れ」
1万円でもいい、10万円でもいい。「いざというときに、自由に動かせるお金を自分自身で稼ぎ、貯めなさい」と。なぜそうするべきか、父はこう教えてくれました。「まとまったお金があれば、やりたいことに挑戦する自由が得られるから」と。
親の庇護のもとにいる子供は、お金のありがたさをリアルに感じられません。ともすれば、お金はあらかじめ「ある」もの、もしくは、天から降ってくるもの、といった誤った感覚を抱きがちです。両親に加え、双方の祖父・祖母の計6人の財布をあてにできる現代の子供はそんな意識が顕著です。
時間とともに、お金も「有限」のものだ、という鉄則を親は子供に繰り返し伝えていかなければなりません。私自身もそうしました。
画像を見るお金は有限なんですよ!
その意味では、アメリカは子供に金銭教育をするにはいい環境でした。30代の頃、私は家族を引き連れてアメリカに渡り、ハーバード大(ボストン)で教鞭(きょうべん)をとっていました。
子供たちが通った地元の小・中・高校では、修学旅行の費用の一部を生徒自身に稼がせる伝統がありました。フロリダの農家から直接オレンジを仕入れ、近隣の住民に子供たちが売るのです。やりくりして利益を出すまでのプロセスを実体験して、お金を稼ぐことの大変さや手にしたときの達成感を味わわせます。
また、私が住んでいたエリアの家庭では、自宅の庭で育てたトマトなど農産物を子供に1個25セントで売らせたり、庭の芝刈りなどをさせたりして、労働の報酬としてお駄賃を与える文化がありました。私も、1枚25セントで、原稿のタイプライター打ち(A4程度)をさせたことがあります。もっとも、子供も少し賢くなると「こんなに働いて25セントは安すぎる」とストライキを起こされたことがありますが(笑)。
ともあれ一生懸命働くと、自分の生活が少しずつだけれど豊かになることを実感できる経験は、何事にも代えられないと思うのです。
柳沢幸雄
開成高校、東京大学工学部卒。システムエンジニアとして日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。退社後、東京大学大学院工学系研究科修士課程進学、同博士 課程修了。米国ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、同併任教授(在任中ベストティーチャーに選出)、東京大学大学院教授を経て、2011年より現職。著 書に『ほめ力』『なぜ、中高一貫校で子どもは伸びるのか』など多数。
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