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<村上隆14年ぶりの個展>「五百羅漢図展」「スーパーフラット・コレクション」が圧巻

齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]

***

村上隆のおよそ14年ぶりの国内での個展「村上隆の五百羅漢図展」(森美術館)と彼の膨大なコレクションを展覧する「スーパーフラット展」(横浜美術館)がほぼ同時に開催されている。

前者は11月から後者は1月末から公開されているが、森美術館は会期終了間近かなことと、美術展を紹介する唯一のテレビ番組である「日曜美術館」にとりあげられたこともあってかなり盛況だ。

延100mにおよぶ巨大絵画である村上版「五百羅漢図」も見ごたえがあるが、今回の五百羅漢図制作のきっかけとなった美術史家・辻惟雄との芸術新潮誌上でのシリーズ企画「ニッポン絵合せ」の概要をはじめ、多くの新作がならんでいる。見ごたえどころか見終わって脱力するほどのスケール感とクオリティ、怒涛のような迫力がある。

とりわけ、この五百羅漢図展制作のきっかけとなった、「ニッポン絵合せ」の企画での辻との「対決」(辻が日本美術史上の作品を取り上げてそれをお題にし、それに答える形で村上が何か新作を制作するというシリーズ企画)が興味深い。

各回で狩野永徳の「唐獅子屏風図」、あるいは「村上春樹」、「赤塚不二夫」など縦横なお題と辻のエッセイがでて、村上は新作を作ることで対決する。その中で3回を費やして辻が出したお題が、江戸時代の絵師長沢芦雪と狩野一信がそれぞれ制作した「並でない」五百羅漢図。長沢は方寸(約3㎝)四方の中に五百羅漢図を描いた、つまり極小画。

狩野は100幅もの羅漢図を10年かけて作成したもので、今回の村上版「五百羅漢図」はこの2人の先達の画業に答える形で制作されたものである。ちょうど未曾有の災害、東日本大震災の直後でもあり、衆生を救うという羅漢という画題がマッチしたのだろう。

制作後は震災でいち早く日本を支援してくれたカタールで展覧された。このあたりは世界のアートワールドでは話題になったのかもしれないが、日本国内では「ああそうだったの? へえ」という程度の認識だったのかもしれない。

延べ200人の美大生を動員して村上独自の工房方式(江戸時代の狩野派などの絵師がとった制作方式。多くの絵師を抱えた工房で作品を大量制作した。最後に署名するのは著名な絵師になるが、この絵師は細かな指示を出した後は、折々で作品のチェックをして品質を確認するのみで、むしろプロデューサーの役割に近い。アニメーションの制作にも取り入れられている)で24時間交代でわずか1年未満でこれだけの作品を制作し、その指示書まで公開されている。

指示と異なる部分が発覚した時にはその担当を叱咤し厳しく指導していたと参加した美大生が「日曜美術館」でも語っているが指示書にも檄を飛ばした形跡が残っているらしく、相当に過酷な現場だったようだ。

制作の前に多くの羅漢図を調査したり、背景画の技法を皆で習熟したりと、指示書まで含めた膨大な資料からその膨大で緻密な作業の片鱗が垣間見られるものとなっている。

今回、過去の日本画やサブカルチャーを参照し、それに対して現代の美術作家として何を提出するのかという美術史家・辻惟雄のお題と意図は、「国内の美術界ではその業績の割には評価されていない異端の作家・村上隆」に改めて自らの出自(東京芸大の日本画初の博士号取得者にして現代美術作家)と志向(アニメなどのサブカル)を意識させ、問い直させることで、日本の美術界という文脈の中での再評価の機会を与えたといえるのではないだろうか。

アニメーターになりたかったが、まずはアカデミックな美術教育の中で日本画を専攻し、結果的には自分の志向する日本のアニメやサブカルというものを「スーパーフラット」という概念にまとめ、日本画や現代美術の手法の中に取り入れて欧米のアートワールドにアピールし、戦略的に成功した村上。

それでも、オークションで数億円などと金額が話題にはなるばかりで、批判こそされるものの文句なしの肯定的な評価をされていないという思いがあったのではないだろうか。

彼の提出した概念、「スーパーフラット」を展覧する膨大な村上隆コレクションと合わせてみることで、自分の美術作家としての文脈を再構築する、そんな村上の「まとめにはいった」意図と迫力を感じる展覧会である。どちらも見ごたえのある、そして見終わった後には現代美術作家・村上隆の並外れた過剰さとエネルギッシュさ、猥雑さ、そして異端さを十分に感じることができるに違いない。

  • 森美術館(六本木) 「村上隆の五百羅漢図展」 3月6日(日)まで
  • 横浜美術館(桜木町)「村上隆のスーパーフラット・コレクション ―蕭白、魯山人からキーファーまで―」 4月3日(日)まで

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