記事

銃乱射事件で米国は何を学ぶのか

2/2
 オバマ大統領はまず6人の犠牲者を讃え、事件で英雄的な行動をとった市民をも讃えた。その中には、ギフォーズ議員の傷口をおさえ議員の命を救った大学生や、勇敢にもロフナー容疑者が新たに詰めようとしていた弾倉を奪い取った女性などがいた。その後、追悼式はオバマ氏の政治集会のように運ばれて行った。

 「人を指し責めるより、この機会をモラルを広げる場にしよう。十分な優しさ、寛大さと共感を人々に示そう」オバマ大統領は、シンプルな言葉で聴衆に訴えかける。「米国はよくなると私は信じる。我々を結びつける力は、分裂させる力より強い」と大統領の言葉は続いた。人々は共感し、立ち上がる。

 しかし、追悼式終了後、高揚していた聴衆の熱気は去る。ウィスコンシン州から休暇で来たというマイケル・バーテルさんは「スピーチは素晴らしかった」と言う。「でも、大統領には期待していない。この国は悪い方向へと行っている。より分裂していっている」と話す。

 一方、ペイリン氏は沈黙を破り、フェイスブックでビデオ声明を出した。「事件は、単一犯人によるもので、茶会運動や私への批判はメデイアによる中傷。選挙集会での言葉は、憲法の『言論の自由』で擁護されている」と、同氏への批判を「blood libel (血の中傷)」と言い切った。

「血の中傷」は、ユダヤ人がキリスト教徒の子どもの血を宗教的儀式に使うために殺すという偽りの言い掛かりで、ユダヤ人迫害を扇動する時に、中世以来ヨーロッパでしばしば行われてきた。

 今回の事件の被害者ギフォーズ議員がユダヤ系ということもあって、ペイリン氏が自己弁護に使った「血の中傷」という比喩は、皮肉にも新たな批判を招いた。米名誉毀損防止組合は、同氏が自己弁護するのも解るとした上で「血の中傷はユダヤ人歴史にとっては悲しみに満ちた言葉で、あえて使うことはやめてほしい」と非難している。

 ペイリン氏は、かねてよりフェイスブックなどで、扇動的な言葉「武器をとれ」「自由の木に独裁者の血を与えよう」「実弾をこめよう」といった言葉を使ってきた。今回のビデオスピーチで、「『武器をとる』というのは、『我々の投票について語る』という意味」と説明したが、言葉が武器となる可能性が問題になっているだけに、苦しい自己弁護に終わった。

 共和党内でも、カール・ローブ氏始め「ペイリン、しばらく黙っていれば」という声も上がっているが、当のペイリン氏は「黙らない。今後も正々堂々と意見を言う」と強気だ。

振り子はどちらに動くのか



 オバマ氏・ペイリン氏のスピーチは、一方は癒しの言葉、一方は扇動の言葉で語られている。この両氏のスピーチを聴く限り、今回オバマ氏に軍配が上がったといえる。しかし、オバマ氏のスピーチからも、どのように米国をよくするのか具体的な行動案は見えない。言葉が言葉で終わり、前へ進めない保守・リベラルの姿勢に、辟易している無党派市民も多い。

 テキサス州サントニオ出身のローラ・ブルースさんもその一人だ。「政治はゲームのようなもの。振り子みたいに揺れているだけ。どちらが悪いというゲームに参加するのを私は拒否する。だから、選挙も行かない。対立している限り、政治・社会情勢がよくなるとは思わない」と話す。

 今回の事件は、一部保守の「言葉の暴力」へのブレーキになるかもしれない。最近の世論調査で、ペイリン氏の支持率は今回の一件で急減している。茶会運動、ペイリン氏の勢いは衰えるのか、ほとぼりが冷めれば茶会運動は巻き返し、オバマ大統領就任以来、活発になってきている民兵集団の動きと共により過激になるのか。いずれにしろ、今回の事件は保守・リベラルの対立を際立たせたが、そこから学ぶには分裂は深すぎるようである。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。