記事

日本が採るべき新たなる対中戦略 情報共有と“逆A2/AD戦”の必要性 - 岡崎研究所

新アメリカ安全保障センター(CNAS)のヴァン・ジャクソン客員研究員が、Diplomat誌ウェブサイトに1月6日付で掲載された論説において、アジアで対中バランスをどう維持するかにつき、海域の常時哨戒を行い、中国による一方的行動を速やかに把握してその情報を広くシェアすること、中国に仕掛ける気を起こさせない抑止力を持たせることといった、現実的な提案を行っています。

対中戦略に求められる3つのこととは

 アジアにおける米国の政策の目的は、安定した自由な秩序を維持することだが、最近はアジア諸国間の信頼の欠如、軍事力強化、領土問題とナショナリズムによって、この目的の達成が阻害されている。しかも、中国は微細な主張を強引に通そうとし続け、予想外の紛争を起こしかねない。

 現在の米国の政策は、これらの問題を止めようとしていない。しかしこのまま進めば、米国のアジアにおける利益は阻害される。何ができるだろう? 戦争にもならず、一方的に譲歩することにもならない解決策が今ならいくつかある。

 一つは、米国の同盟相手及びパートナーのうち、中国と紛争に陥る可能性が高い国、例えば日本、台湾、ベトナム、フィリピンの軍事力を高めることである。これは、これら諸国に中国と同等の軍事力を備えさせるということではなく、抑止力を高め、中国の行動を慎重にさせるためである。

 もう一つは、情報をできるだけガラス張りにすることである。中国は南シナ海領土紛争で、軍ではない力を行使し、「これは力の行使ではない」と強弁するが、情報をガラス張りにすれば、このようなことを難しくすることができる。そうなれば、いずれの側が仕掛けたかもわかるし、中小国が団結して中国を非難しやすくなる。

 そのためには、米国はアジアの関連国の海上偵察能力を向上させるのが良い。それは既にフィリピン、インドネシアで行っていることであり、シンガポールにP-8哨戒機を供与することも正しい一歩である。しかしこれはまだ「大海の一滴」であり、2017年に予定されるMQ-4C Triton無人偵察機配備等で米国が収拾する情報は、同盟国、友好国ともっとシェアするべきである。

 もう一つは、いくつかの同盟国・友好国の軍事力を高め、中国がこれら諸国との初期段階の小さな戦闘では勝てないようにしておくことである。これは、中国が米国に対して取っている「接近阻止」戦略を逆に行くものである。そのためには、これまでのMD(ミサイル防衛)、巡視船の供与だけでは不十分である。水中機雷、潜水艦、巡航ミサイル、種々の無人機の供与が不可欠だが、これは例えばベトナムに対する従来の政治的・法的制限そして融資上の制限措置を解除することを意味する。もっとも重要なことは、先端ミサイル、無人機の供与を制限しているミサイル技術管理レジーム(MTCR)を改正することである。

 以上では生ぬるいと言う者がいるだろう。逆に以上の措置は、戦争の危険をかえって高めるという者もいるだろう。米国の技術流出を心配する者もいるだろう。

 しかし、以上の措置は、戦争と一方的譲歩の中間を行くものである。今日の技術開発は軍事研究より民需部門で行われており、技術の流出を過度に心配しても仕方ない。如上の3つの方策は並立し得るものでもあり、将来の大統領の対アジア政策を最も柔軟なものにできるだろう。

出典:Van Jackson,‘Rethinking US Asia Policy: 3 Options Between Appeasement and War’(Diplomat, January 6, 2016)
http://thediplomat.com/2016/01/rethinking-us-asia-policy-3-options-between-appeasement-and-war/

*   *   *

米軍自身の言及なき提案

 この論説の筆者ヴァン・ジャクソンは、空軍の朝鮮語専門の情報担当としてキャリアを開始、その後一貫してアジア太平洋関連の国防畑を歩み、2009年から2014年まで国防長官の顧問として朝鮮半島等を担当してきた人物です。この論説は、アジアで対中バランスをどう維持するかについて現実的な提案を行っており、オバマ後の政権を主たるターゲットとした提言でしょう。

 提案の肝は、海域の常時哨戒を行い、中国による一方的行動を速やかに把握してその情報を広くシェアすること、同盟相手・友好国に中国との小規模戦闘では勝てる力をつける、つまり中国に仕掛ける気を起こさせない抑止力を持たせること(中国が米国に対して適用している「接近阻止:の戦略を逆用)、そのために水中機雷、潜水艦、巡航ミサイル、種々の無人機の供与まで検討することです。

 しかし、気になる点もあります。まず、米軍(特に海軍、海兵隊)自身についての言及がほとんどありません。豪州の役割についても言及がありません。この論説の趣旨には賛成できますが、アジアの安定を地域諸国の間のヤジロベエ的相互抑止に委ねてしまおうという発想であるとすれば、要注意です。

 そして、日米同盟の役割について言及がありません。日本で論議を呼ぶのを警戒したのか、それとも、国防省でも日本担当者以外のマインドはこの程度のものなのかは分かりません。

 東アジアのバランスについては、中国、北朝鮮の核兵力、ロシアの新型巡航ミサイルが呈する脅威等も議論する必要があります。3月末には米国で核安保サミットが開かれるので、立場を整理しておく必要があります。

 日本の対中抑止力を整備するためには、日本の空母保有を米国が明示的に認めること、F35の供与を急ぐこと、巡航ミサイル、無人機技術を供与することが有効でしょう。

あわせて読みたい

「中国」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    アビガン承認煽る声に医師が苦言

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    賭け麻雀苦言の労連トップが朝日

    和田政宗

  3. 3

    外国人選手が逮捕 試合なく薬物

    阿曽山大噴火

  4. 4

    安倍首相の言葉と行動大きく乖離

    畠山和也

  5. 5

    羽田で4人感染 ブラジルから到着

    ABEMA TIMES

  6. 6

    布マスクは金の無駄 飛沫防げず

    諌山裕

  7. 7

    森法相の国会答弁ねじ曲げに呆れ

    大串博志

  8. 8

    誹謗中傷の規制急ぐ政治家を危惧

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    森法相の迷走 元凶は安倍首相

    猪野 亨

  10. 10

    慰安婦団体 真の目的は日韓分断

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。