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アマゾン、アリババ、ソフトバンクもビル・ゲイツが募る革新的エネルギー同盟 2000兆円はビジネスチャンスなのか? - 山本隆三

昨年11月末日からパリで開催された気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の会場で、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、世界の富豪27人と共に、二酸化炭素を排出しない低炭素エネルギーへの投資を行うことを発表し、政府の果たす役割と同時に産業界による投資の重要性を訴えた。

 COP21の結果、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑制する目標と、さらに1.5度未満達成にも努力することが合意された。温室効果ガスの3分の2はエネルギー消費により排出されるCO2が占めているので、化石燃料からCO2の排出が少ない低炭素エネルギーに切り替えることが重要になる。

 現在、世界のCO2濃度は400PPMを超えているとされ、日本の気象庁の計測値も2015年7月時点で産業活動の影響がほとんどない南鳥島と与那国島で400.5PPMとなっている。CO2濃度上昇が、何度の気温上昇を招くのか正確には分からないが、国連の場では450PPM以下にCO2濃度を抑制する必要があるとされている。

 中国、インドなどの新興国では、経済成長に伴い化石燃料の消費量は今後も増加することが予測されている。そんななかでCO2排出量を抑制するためには、低炭素エネルギー源に関連する設備、技術、研究開発への巨額の投資が必要になる。その額は、今後15年間で2000兆円にも達するとの予測もある。

 2040年までには、再エネだけで1400兆円、原子力で300兆円の投資が必要になるとの試算もある。

 大きなビジネスチャンスとされているが、投資を促進するために必要な制度設計次第では電気料金上昇などが引き起こされ、消費者の負担増になる可能性もあると考えたほうがよい。消費者の負担を抑制しつつ投資家が満足する収益率を確保可能だろうか。

ビル・ゲイツと27人の富豪の投資には原子力も

 ビル・ゲイツは低炭素エネルギー導入促進のために、世界10カ国の富豪28人が投資を行う革新的エネルギー同盟を設立した。28人のうち日本でも著名な8人を表-1に示している。うち6名は世界の富豪100位以内だ。この同盟の主旨は次の通りと説明されている。

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○早期に投資を行う
研究開発のシーズの段階で投資を行うことにより、事業リスクを減少させ商業資本の投資を呼び込むことを目的とする

○広く投資を行う
ゼロエミッションに関する最善のアイデアがどの部門から出てくるか不透明なので、以下の幅広い分野での投資を検討する。

・発電及び蓄電部門
・輸送部門
・工業部門
・農業部門
・エネルギー効率改善部門

○大胆に投資を行う
現在の技術の効率、コスト、規模を大きく改善する新規技術とイノベーションに携わる独創的な発想者を求め、消費者が負担可能な大規模エネルギーを提供する。

○賢明な投資を行う
投資の意思決定を裏付ける技術、科学の解析が欠落している問題がある。この問題を先導的な研究所と共に解決する。

○共に投資する
ミッションイノベーションとして知られる国際的な活動に政府機関と共に投資する。

 まだ、具体的な活動は見えてこないが、再生可能エネルギーを中心に大規模な投資が行われるものと予想される。また、明示されていないが、ビル・ゲイツは軽水炉の廃棄物を利用する発電技術の開発を行っているテラパワーに私財を投入しているので、低炭素エネルギーには原子力も含まれている。

抑制される火力発電設備導入量

 CO2濃度を450PPMに抑制するために必要な将来の電源構成については、国際エネルギー機関(IEA)が予測を行っている。2013年との比較では発電部門での2030年時点のCO2排出量は47%減と予測されており、その達成のために必要な発電量と電源別シェアは、表-2の通りだ。

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 2013年の世界の電力消費量は石油換算で16億7700万トンだった。その発電の内訳は図の通りであり、石炭を中心に化石燃料が67.4%を占めている。

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 世界で石炭を最も多く使用している国は中国であり、世界の石炭火力発電所からの発電量9兆6330億kWhのうち、4兆1110億kWhを占めている。この石炭火力が中国を世界一のCO2排出国に押し上げている大きな理由だ。

 石油を利用する火力の発電シェアは減少しているが、世界で最も多く石油による発電を行っている国は日本、天然ガスによる発電1位は米国だ。表-3の通り、化石燃料による発電上位5カ国には全て原発停止の影響を受けた日本がランクインしている。この火力発電からの発電量を今後抑制することが必要とされる。

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気候変動対策にはどれだけの設備投資額が必要なのか

 今後、新興国を中心に2030年に向けて電力消費量が成長するなかで、火力発電所からの供給量を抑制し、さらには削減する一方、風力、太陽光などの再エネと原子力発電設備からの供給を増加させることが必要になる。火力発電設備との比較では、再エネ設備も原子力も操業コストが安いが、設備投資額は大きくなる。例えば、IEAは450PPM達成のための原子力発電設備導入を表-4の通り予測している。2040年に向けて5億kW以上の原子力発電設備が導入されるが、いま原子力発電設備の建設コストは欧州で1kW当たり6000米ドル(72万円)、米国で5000ドル、中国で3000ドルと言われている。

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 今後の建設コストの平均を5000ドルと考えると、原子力発電設備だけで2040年までに2兆5000億ドル(300兆円)の巨額な投資額が必要とされる。再エネ設備も同様に巨額の投資を必要とするが、常に発電できない再エネ設備は需要家のもとに安定的に電気を送るために、発電設備以外に、例えば揚水発電、蓄電池などの余った時の電気を貯め、不足する時に使う設備など安定化の費用が必要になる。

 その費用はシステムコストと呼ばれるが、IEAは太陽光発電設備のシェアが10%と30%に達した時の発電量1kWh当たりのシステムコストを、6カ国で試算している。その結果は表-5の通りだ。再エネ導入にはこれらの費用、すなわち設備投資も必要とされるということだ。

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国連事務総長も気候変動対策の投資獲得に乗り出した

 1月27日に国連機関、環境関連ビジネスへの投資を推進しているNGO・Ceresなどがニューヨークにおいて開催した投資家サミットには、保有資産総額22兆ドル以上とされる500以上の機関投資家が集まったが、その席上潘基文国連事務総長はCOP21の結果を受け、気候変動対策のためにクリーンエネルギー、インフラへの投資額を2020年までに2倍にするように訴えた。

 IEAは、2015年のクリーンエネルギー設備、技術、研究開発への投資実績額を3020億ユーロ(約40兆円)と見ているが、2030年までに15兆ユーロ(約2000兆円)の投資が必要になると予測している。その中には上述の原子力関連の投資も含まれるのだろうが、やはり大きいのは再エネ関連の投資額だ。

 Ceresとブルームバーグ・ニューエナージー・ファイナンス(BNEF)の分析によると、2040年までに民間部門が6兆9000億ドル(約800兆円)の投資を、化石燃料を代替する太陽光などの再エネ設備に対し行なう道筋が既についているとのことだ。ただし、この見通しの前提は再エネ導入に関する政府の支援制度が存在することだ。

 2度目標を達成するためには、さらに5兆2000億ドル(約600兆円)の再エネへの投資が必要になるとの分析結果が示されている。再エネ部門だけで、今後25年間で12兆ドルを超える投資が必要となる。BNEFは年平均4840億ドル(57兆円)の投資が再エネ部門に必要と計算している。

投資は成長の機会だが

 潘基文事務総長は投資家を前に、「パリCOP21からの強い流れを受け投資家はクリーンエネルギーの成長の機会を掴むべき」と訴え、「持続可能なクリーンエネルギーは成長しているものの、経済不況と人類に害を与える引き金になる過度な温暖化を防ぐためには、まだ不十分であり、投資が極めて重要」と訴えた。

 原子力も再エネも大きな投資を必要とするが、これらの分野への投資が収益を産み、企業の成長に結びつくか、不透明な環境だ。そんななかで投資が集まるのだろうか。

 原子力への投資は、中国、インド、英国、米国、東欧などで行われているが、電力市場が自由化されておらず規制が行われている市場、あるいは英国のように政府が長期に亘り発電された電気を買い取る保証を行う制度がある国に限られている。少なくとも40年以上に亘り収益を確保するためには、自由化され電気料金の保証がない市場での投資は困難だ。

 日本は4月から電力市場において小売が完全に自由化される。政府は2030年に原子力の発電比率を20~22%にする目標を持つが、適切な制度がなければ投資家は現れない。IEAが必要とする表-1の世界の原子力発電の比率も十分な投資が確保できなければ絵に書いた餅だ。

 再エネへの投資にも困難な状況が待ち受けている。システムコストのため需要家のもとに届く段階で価格が高くなる再エネには、制度的な支援が欠かせない。それは、固定価格買い取り制度、あるいは電力の卸市場で再エネから発電された電気を売却した場合にプレミアムが支払われるフィードインプレミアム制度などだ。

投資家は登場するのか

 制度による支援は電気料金上昇の形で現れる。欧州の多くの国は再エネに対する支援制度を大幅に見直し、電気料金上昇を防ぐ政策に転換している。制度見直しの結果は、再エネ先進国と言われたドイツ、スペインなどでの設備投資の急減だ。

 投資家に有利な制度が導入されたスペインでは、風量に恵まれた風力発電設備への投資が大きく増え、設備容量が2300万kWまで達したが、2012年から補助制度の見直しが続いた結果、2015年の風力発電設備新規導入量はゼロになった。再エネへの投資を増加させようとすると、Ceresも指摘するように政府の支援が前提になる。しかし、支援は電力料金あるいは税金で負担するしかない。

 原子力も再エネも大きな投資が必要とされ、企業に成長の機会を提供するが、投資は難しい制度設計が前提となり、電気料金などの形で需要家が負担することが必要になるかもしれない。成長の機会と考える投資家がどの程度登場するのだろうか。

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