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マイナス金利は適切だ 急激な円高とデフレを阻止する最善策 - 中島厚志

1月29日、日本銀行がマイナス金利導入を決定した。それは、日銀当座預金を3段階に分け、民間金融機関が日銀当座預金に追加的に資金を預けた場合、その金利をマイナス0.1%として民間金融機関が金利0.1%を日本銀行に支払うとするものである。

 マイナス金利政策は、長らく採りえない金融政策と見られてきた。仮にマイナス金利となれば、金利分だけ資金の出し手が損をし、借手が得をすることとなり、いままでの金融通念が崩れるからである。そんな政策をとった日銀を、筆者は大いに評価したい。

"Safe haven"とまで言われるYen

 その大きな理由は、最近の急激な円高が、経済実態とかけ離れた投機の域に達し、物価と景気に大きな悪影響を与えかねなかったことにある。

 リスクが少ない金融商品は安全資産と言われ、英語ではSafe Assetsである。しかし、近年の円は Safe Haven Assets Currencyと言われるようになっている。本来の「安全資産」という意味を超えて、そこに逃げ込めば損をしないタックス・ヘイブンのようなニュアンスが含まれるほど、投機筋が円買いのストーリーを共有するようになっていたと言える。

 この点を少し敷衍しよう。年初から原油価格は一段と下落し、市場は冷え込んで急激な円高が起こりかねない局面にあった。そもそも、ドルは原油価格と逆相関的で、今回の大幅な原油安では急激なドル高が同時に生じている(図表1)。ところが、主要通貨の中で円だけドル以上に切り上がっている(図表2)。もちろん、急激な円高となれば、輸出や企業の海外売上にも悪影響を与えて景気が強く下押されるのみならず、大幅な原油安と相まってデフレも再度深刻化しかねない。



 従来から、市場ではリスクが高まると円が買われて円高になることが繰り返されてきた。その度ごとに円が「安全資産」であると言われてきたが、ここ1年あまり「安全資産」の意味合いがかつてと異なってきたのである。

 「安全資産」とは、本来的には破綻や価値変動のリスクが少ない国債、現金や金を指す用語である。それが、サブプライム問題とリーマンショックがあった2008年以降、経済ショックが欧米諸国よりも小さいと見られた日本経済の円を「安全資産」と称するようになり、近年のユーロ債務危機やウクライナ情勢緊迫化時にも地政学的リスクが少ないと目された日本の円が「安全資産」として買われた。

投機筋の目論見と日銀の狙い

 ところが、2014年半ば以降は、株安やドル安等市場が荒れたときのリスク回避時に安心して買える「安全資産」として円が定着してしまった。この「安全資産」に本来の安全な資産としての意味が乏しいのは、日本の深刻な財政赤字や少子高齢化を見れば明らかである。直近の「安全資産」円は、市場混乱時に投機資金が最も利益を得やすく、かつ乗じやすい通貨が円であることを言い換えているに過ぎなくなっている。

 日銀は物価の安定を図るのが本旨であり、円相場に直接関与する立場にはない。しかし、市場混乱時に円が投機筋に最も旨みのある資産であることは、日本の物価と景気にとって有害以外の何物でもない。特に、投機筋の理不尽な「安全資産」としての円買いに対しては、実需ではない円資金の国内預金滞留にマイナス金利をかけて利益を削ぐのが最も効果的な対策であると言える。

 今回の決定は、低調な世界経済と年初来の内外市場動揺で、安定した物価上昇と景気拡大が脅かされかねない切迫な状況を鑑みれば適時適切だった。物価がふたたび下落しかねず、景気も低迷しかねない懸念が高まった年初来の経済金融情勢にあって、日銀は円高阻止を通じて物価と景気を支える即効性ある最善策を打ったと言える。

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