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台湾W選挙、ダメ押しの周子瑜謝罪事件 - 澁谷 司

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 既に旧聞に属するが、今年1月16日、台湾では総統選挙と立法委員選挙が同時に行われた。結果は既報の通り、野党・民進党が与党・国民党に圧勝している。

 この結果に若干の影響を与えたのが、選挙直前に起きた台湾アイドル謝罪事件だろう。

 台湾出身アイドルの周子瑜(16歳)は、現在、韓国アイドルグループTWICE(9人で構成される女性ユニット)で活躍している。TWICEは5人が韓国出身、3人が日本出身(モモ・京都、サナ・大阪、ミナ・神戸)、残りの1人が周子瑜(ツウィ)台南市出身の多国籍グループである。メンバー中、周が一番若く、そして背が高い。

 周子瑜は2015年「世界で最も美しい顔100人」中、第13位にランクインした(日本人最高位は石原さとみの19位である)。

 かつて周子瑜は横になりながら、中華民国旗と大韓民国旗を同時に掲げたことがある。これを問題視したのが、中国大陸で活躍している台湾出身の黄安という男性タレントだった。

 黄安は、周子瑜を「台湾独立派」(台湾は中国共産党に統治されていないので、この言葉はおかしい)と決めつけたのである。それに、中国ネットユーザーが同調し、周子瑜への非難が高まった。ちなみに、かつて黄安は、「龍兄虎弟」という台湾テレビの番組で、中華民国旗を持って熱唱したことがある。

 さて、周知のように、中華民国旗(青天白日満地紅旗)はれっきとした台湾の旗である。真っ赤な下地には、左上に国民党の旗(青天白日旗)があしらわれている。

 国民党(系)および国民党(系)支持者は、今なお、選挙のたびに、中華民国旗を振って応援する。グリーン色の台湾の形を模した「台湾独立派」の旗とは、まったく異なる。

 周子瑜が中華民国旗を振るだけで、黄安がなぜ周を「台湾独立派」と決めつけたのか理解に苦しむ。ならば、国民党(系)と国民党(系)支持者はすべて「台湾独立派」なのか。結局、黄安と中国ネットユーザーは周子瑜に対し“言いがかり”をつけたに過ぎない。

 しかし、周子瑜が所属する韓国のJYPエンターテイメントは、早速、周をビデオ出演させ、中国人に対し謝罪させた。周子瑜は無理やり「中国は一つしかなく、台湾と中国は同じ国」であり、「私は中国人です」と公言されられている。そして、周は中国での活動を自粛すると述べた。JYPがTWICEを中国へ進出させたいがための措置であろう。

 実は現在の台湾で、自分は中国人だと思っている人は5%にも満たない。少なくとも60%以上は自分が台湾人だと思っている(その他は、「台湾人でもあるし、中国人でもある」と考えている)。とりわけ、若者は「台湾人アイデンティティ」が強い。

 この周子瑜の謝罪事件は台湾W選挙直前に起きたので、大半の台湾住民が激怒した。そのため、(中国共産党と友好関係にある)国民党が、一定の打撃を受けたことは確かである。

 けれども、今度の台湾W選挙(特に総統選挙)は、すでに2014年11月の統一地方選挙結果(県市長選の得票率が、民進党約47%対国民党約40%)で、ある程度、帰趨は決まっていたと言っても過言ではない。

 同年3月に起きた台湾の「ひまわり学生運動」が、同9月の香港「雨傘革命」を引き起こした。そして、香港「雨傘革命」が進行中、台湾統一地方選挙が実施されたのである。統一地方選挙では、中国と距離を置く民進党が有利であったことは間違いない。

 W選挙後、国民党は周子瑜謝罪事件で50万票から100万票程度失ったと推測している。しかし、蔡英文民進党候補と朱立倫国民党候補の得票差は300万票以上あったので、大勢には殆ど影響がなかったと言えよう。

 サッカーの試合に例えれば、民進党が4対0のスコアで、勝利目前の終盤、国民党側のオウンゴールで1得点し、5対0と差を拡げた感じだろうか。

 仮に謝罪事件の影響があったとしたら、立法委員選挙の方かもしれない。全体的に、民進党は有利に戦いを進めていた。だが、事件で民進党候補に更なる追い風が吹いたと考えられよう。

 他方、(民進党に近い)新政党の時代力量は、台北市と新北市の選挙区で接戦を演じていた。前者には、ヘビーメタルバンド「ソニック」のフレディ・リム(林昶佐)、後者には黄国昌(国立台北大学兼任教授。時代力量主席)が共に国民党の重鎮に勝利している。彼らも事件の追い風を受けたのではないか。

 結果的に、周子瑜謝罪事件が、民進党が国民党に完全に引導を渡す結果になったとも言えよう。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。
専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)等多数。

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