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甘利大臣の辞職 ―たれ込み屋と雑誌社の合作?― 屋山太郎

理事・政治評論家 屋山太郎

甘利明・前経済再生担当大臣の辞職はTPPの立役者だっただけに誠に残念だ。政治力量を発揮していた反面で、旧態依然とした政治活動を続けていたものだなあと改めて思う。

 甘利氏は衆院当選11回。当選7回以下の議員とは政治活動のやり方がまるで違う。7回以下だと初当選の時から小選挙区制度。それ以上の古手は中選挙区制度を経験したという違いがある。

 日本は大正14(1925)年から普通選挙が行われたが、70年間も中選挙区制で漸く平成8(1996)年に小選挙区制の選挙に改められた。改められた動機は中選挙区制は金がかかって金権政治になる。また党内に派閥ができて政党政治が育たない―といった事情だ。田中角栄氏と福田赳夫氏の“角福戦争”は田中マネーが自民党議員の大半を買い取ったような事件だった。田中氏は金があれば総理大臣の椅子も買えると本気で思っていたふしがある。

 こういう政治状況を生み出した理由は2つ。1つは選挙区定数が各区とも3~5人と複数だったことだ。同じ自民党が立候補者を出して党の理念を訴えても仕方がない。当然、ここに高速道路を通すとか、新幹線を通す、或いは公民館を建てるといった利益誘導の競争になった。お金の潤沢な派閥に入って利益誘導をするのが票を集めるのに最適だ。親分は中選挙区に無理矢理割り込み候補させて手下を増やす。94年の小選挙区制度への改正に先立って、まず「中選挙区制廃止宣言が行われたのは、何が何でも中選挙区制度をやめなければならないと皆が認識したからだ。

 同じ選挙区から複数議員を選ぶという中選挙区制度は日本だけのものだ。大正14年の時点で、日本人は党の政策を競わせて政権交代させるという観念は皆無だった。官僚政治が万全だった。議会には、村の名士を送り出してあとは「よしなにやってくれ」と考えていた。商人がどっさり政治資金を寄付する。名士はそれなりに地元の利益を追求するという暗黙の掟があった。その伝統が現ナマをやり取りする習慣を生んだ。欧米では現ナマを寄付するという風習はない。

 こういう悪習を一掃しようということで、小選挙区比例代表並立制が導入され、政治資金も「収支」と「授受」の両面で厳しい制限が加えられた。小選挙区制だけしか知らない議員事務所はほぼ規則通りに政治資金を運用している。しかし8回以上の当選者はこれまでの風習が捨てられず、票を得るために便宜供与を続けているようだ。小渕優子氏の資金管理は父親が残した事務所流で賄っていたのだろう。甘利氏の事務所も4期続いた“昔風”が抜けなかったのだろう。

 甘利氏に同情するのは、今回の事件が“ひっかけ”ではないかと疑えることだ。このネタは当初、読売新聞社会部持ち込まれたそうだが、ネタが怪しいと断られた。そこで週刊文春に持ち込まれ、ネタを補強するために現金授受の現場を写真に収める細工をしている。これはたれ込み屋と雑誌社の合作とも言える。

(平成28年2月3日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。
著書に『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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