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フィリピンから見た天皇訪問 静かな空気が意味するもの - 水谷竹秀

天皇、皇后両陛下がフィリピンに到着された翌1月27日の主要英字紙は、両陛下が専用機から降りてアキノ大統領と対面する写真が一面に掲載され、「比日関係がさらに強固に」「日本の天皇が到着直後におじぎされる」などの見出しが躍った。日本の歴代首相訪比も含め、日比関係にまつわるニュースが大々的に取り上げられることがほとんどなかった過去の報道を鑑みると、今回の訪比への注目の高さがうかがえた。

 マラカニアン宮殿で開かれた晩餐会に天皇が出席された翌28日、質の高い報道で知られる英字紙インクワイアラーは「南シナ海で緊張が高まる中、紛争勃発を阻止する方法として、日本の天皇は第二次世界大戦の記憶を心にとどめるよう比日の若い世代に呼び掛けられた」と伝えた。比中などが領有権を争う南シナ海南沙諸島で、実効支配を拡大する中国を強く意識する文脈を使った。

 天皇による訪比は54年ぶり。最初の訪問は1962年で、フィリピン人約110万人、旧日本兵約51万8千人が戦死した太平洋戦争終結から17年後のことだった。

 比国内では当時、まだ反日感情が強かった。皇太子夫妻は最高学府、フィリピン大学を訪問され、笑顔の学生たちに囲まれている写真が日本の報道記録に残っている。保守的な英字紙、ブレティンによると、その裏で実は一部の学生たちがデモを計画していた。この動きに気付いた副学長は「皇太子夫妻は戦争とは(直接的に)関係ないのだから、迎え入れよう」と説得し、計画を断念させたという。

予想に反して冷静なフィリピン市民

 こういった連日の報道とは裏腹に、マニラ首都圏は予想に反して静かだった。街の声を拾っていくと、天皇訪比を「知らなかった」と答える市民も多く、知っていたとしても訪問の目的を「両国の経済関係強化」と解釈する回答が目立ち、熾烈な戦闘の傷を癒やすという天皇の真意が伝わっていたかどうかは微妙だ。第64回ミス・ユニバース世界大会で優勝したフィリピン代表の凱旋パレードが同時期に重なったのも影響したようだ。

 象徴的だったのは、天皇、皇后両陛下がフィリピンに到着される当日、マニラ空港周辺の沿道や宿泊先のホテルで待ち構える市民の姿がなかったことだ。ちょうど1年前、ローマ法王が来比した際に集まった信者たちの光景とは対照的で、これには日本の一部報道陣も戸惑っていた。

 つまり盛り上がっているのは、日比の報道陣と在比日本人、日系人社会などといったコミュニティーだけで、フィリピンの一般社会では「それほど気にされていない」というのが現場の空気感だ。

 終戦直後は「日本」と聞くだけで憎悪の念が生まれた対日感情。しかしそれは1956年の日比国交正常化、その6年後の皇太子夫妻の訪比を転機に少しずつ和らいだ。やがて両国の民間交流も活発化し、日本の政府開発援助(ODA)や日系企業による投資などの積み重ねを経て関係はさらに改善し、時代の移り変わりとともに戦争の記憶はフィリピン人の中でも薄まっていった。

 今回の天皇訪比に対してそれほど反応しないフィリピン市民の感覚は、「無関心」という決してネガティブな側面はなく、逆に反応する必要がなくなったという意味において日比関係が成熟していることの裏返しなのかもしれない。

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