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WSJ記者がアイオワで過ごした10日間-党員集会見聞記

 【デモイン(米アイオワ州)】記者は1月22日、首都ワシントンを飛び発つ最終便に近い便に乗り込んだ。吹雪がアイオワ州を襲おうとする前のことで、アイオワ州党員集会までの最後の10日間を同州で取材するためだ。ここで大統領選のレースについて記者が持った印象と、道中で遭遇したいくつかの出来事を紹介したい。

 大統領選レースというものは概して入念に準備されていて気取った感じがするのだが、人々の生活のつらい一面を目にすることもよくある。そんな瞬間に、1月25日に出くわした。それは、アイオワ州中部のアイオワフォールズで開かれたバーニー・サンダース候補のイベントの時だった。アイオワフォールズは人口5000人ほどの小さな町で、選挙運動の決起集会として始まったものだが、告白集会になっていった。

 雰囲気はいつものサンダース氏の集会よりくつろいだ感じで、同氏の周りに数百人が集まっていた。サンダース氏はいつも通りに選挙演説をした後、聴衆にマイクを渡し、自らの話をするよう求めた。

 すると、聴衆の一人のアン・ゴードンさん(65)が、年1万ドル(約120万円)に満たない社会保障給付金で生活していると述べた。そして、淡々とした口調で、家の全ての家具をキッチンおよびダイニングに運んでいるのだと話した。暖房費節約のためだという。

 「外出もしないし、服も買わない。孫にプレゼントも買ってやれない」と彼女は語った。

 サンダース氏は周りを見回し、社会保障給付金の生計費調整額が今後いくらになるか知っている人はいるかと尋ねた。ゴードンさんはそれに答えた。

 するとサンダース氏は、優しい口調で「正解。答えはゼロだ」と言った。

 その後、同じく聴衆のキャリー・オルドリッチさん(46)は、神経疾患で働くことも、生活費を払うことも困難になったと涙声で訴え、「いつも自分を恥じている」と話した。

 前出のゴードンさんはその後、記者たちに対し、過去の仕事で貯めたお金をかき集めてサンダース氏に15ドル(約1800円)寄付できたと明かした。「わたしはバーニー(サンダース候補)が大好きだ。彼は偽物じゃないし、意地悪でもない」

 これらの話に対するサンダース氏の反応も実に印象的だった。ビル・クリントン元大統領だったら、この2人の支持者に歩み寄り、ハグをしたところだろう。だが、それはサンダース式ではない。彼は、感情を表に出し、人の痛みを感じていることをあからさまに見せるようなタイプの候補者ではないのだ。サンダース氏は、他の何百万人もの人々が同じような苦難に耐えていると述べ、話を続けていった。

 デモインは党員集会が近づくと、大学の巨大なキャンパスのようになる。候補者たちもそのスタッフも、そして記者連中も、同じレストランで食事をし、同じホテルに泊まって、集会後には同じバーで酒を飲む。このため、ときに予想外の出来事に遭遇する。

 1月27日、記者はウェストデモインにある「レジデンス・イン」のレストランで同僚と話をしていた。すると、共和党候補のマルコ・ルビオ氏がTシャツにショートパンツとスニーカーを身に着けて歩いて来た。スーツ姿の彼しか見たことがなかったし、これまでに個人的に会ったこともなかったので、記者は最初、彼のプライバシー領域を侵害してしまったかのように感じた。しかし、同じホテルの宿泊客同士が同じ公共の空間に立っているのだと思い直し、自己紹介して、何を聞こうかと内心思った。今ここで、選挙戦について聞くべきだろうか。移民に対するスタンスを聞くのはどうか。

 結局、記者が考え付いた質問は、「ジムに行くのですか」だった。

 ルビオ氏は「そうしようと思っている」と答え、すぐに記者から離れて行った。

 クリントン家の人とも2回遭遇した。1回はうまくいったが、もう1回はうまくいかなかった。

 まず、うまくいかなかったほうから。2日前にデモインで開かれたアフリカン・アメリカン・フェスティバルでヒラリー・クリントン候補の代表取材記者を務めた時のことだ。記者は短い間、彼女の娘であるチェルシー・クリントン氏と1対1で顔を合わせた。彼女はヒラリー氏とその側近たちに続いて登壇しようとしていた。チェルシー氏は今や選挙戦での母の代理人となっている。母親のヒラリー候補を持ち上げ、サンダース氏の政策を批判し、存在感をみせていた。

 チェルシー氏はホワイトハウスにいた頃、ティーンエージャーだった。このため、メディアから隔離されていたことは有名だ。成人後は一時メディアの世界で活躍し、NBCニューズの特別特派員として働いていた。記者はクリントン候補を取材するジャーナリストを代表してチェルシー氏に質問をし、その答えをプール記事として共有することは適切であるように思えた。

 そこで記者は「党員集会でのお母様(ヒラリー・クリントン候補)に関する見通しをどう思われますか」と聞いた。チェルシー氏は記者を見たが、何も答えなかった。

 ヒラリー・クリントン候補に関しては、もう少しラッキーだった。1月26日にマーシャルタウン(アイオワ州)で政治集会が催されたとき、記者はある同僚と話をしていた。この同僚は集会を見学させるため、8年生(中学2年生に相当)の息子を連れて来ていた。すると、クリントン候補の広報担当者ニック・メリル氏が近づいてきたため、記者はメリル氏にその少年を紹介した。その後、メリル氏は少年を呼び寄せ、クリントン氏と対面できるようにしてくれた。

 集会が終わったのは深夜の12時前後だったが、クリントン氏は少年とおしゃべりし、一緒に写真撮影に収まった。彼女がこのようなことをする必要は一切なかったし、疲労困憊してもいたはずだ。選挙戦の中で最も長いと言えるくらいの1日を終えたばかりだからだ。しかし彼女は時間を取り、会えることなど予想していなかった中学生の少年の一生の思い出を作ってくれたのだ。

 投票が始まる前に最後に遭遇した人物は、サンダース氏だった。党員集会の当日の昼食時だ。空港近くのパーキンス・レストランのブースに座っていたとき、隣のテーブルにサンダース氏と妻のジェーンさんがいるのが見えた。同氏は記者と目が合ったが、いらだった表情をしたように見えた。

 彼を責めることはできない。候補者にはほとんどプライバシーがない。アイオワ州での長い戦いが終わりに近づくなか、しばしの間、家族だけの時間を過ごしたいと思っていたのも理解できるのだ。

 記者はさっと自分の持ち物を片付けてそのレストランを出た。ただし、その前に彼の写真を撮ってツイートさせてもらった。

(筆者はWSJ国内政治担当のピーター・ニコラス記者)

By PETER NICHOLAS

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