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悪化の一途たどるアフガン情勢 勢い取り戻すタリバン - 岡崎研究所

パキスタンのジャーナリスト、アーメッド・ラシッドが12月12日付で、英国の雑誌The Spectatorにタリバンの攻勢によってアフガニスタン情勢は今後も悪化の一途を辿るであろうとの悲観的な観察を書いています。要旨は次の通り。

半数以上の州がタリバンの脅威に曝される現状

 タリバンは再び勢いを取り戻した。ISIS(イスラム国)という要素の潜在的な拡大も考慮すると、アフガニスタンの状況は2001年よりも悪い。西側の指導者は、この問題は前任者に付きまとった正面から向き合いたくない古い問題と看做しているが、2016年には情勢は甚だしく悪化するだろう。

 アフガニスタン侵攻当時に信じられたことは、狂信者を追放すれば、穏健な勢力も多数有り、国は安定を取り戻すということであったが、撤兵に必要な期間存続可能で安定的、という虚偽の姿を装った政府を達成し得たに過ぎなかった。最近、タリバンは人口30万の都市クンドゥズを奪取したが、これを奪回するのに政府軍は2週間を要した。

 アフガニスタンはどの程度安全か? 米国の外交官はカブールの中でさえ、ヘリコプターでしか移動しない。タリバンは殆ど全ての主要道路を支配しており、何時でも閉鎖してカブールその他の都市を孤立させ、食料などの供給を遮断することが出来る。今や欧州に到達する難民で2番目に多いのはアフガン人である。2015年8月迄に到達した難民65万の15%を占める。彼等の多くは教養のある中間層である。今年は2年前の4倍の16万人が脱出すると見込まれる。34の州の半分以上はタリバンの深刻な脅威に晒されており、春の攻勢が始まると、このうち南部のヘルマンド州を含む6程度の州が完全にタリバンの支配に落ちる危険がある。

 2016年末を超えて5,500の米軍兵力をとどめ置く(2016年はほぼ年間を通じて9,800を維持する)との10月のオバマ大統領の決定は、タリバンを打倒する助けにはならない。タリバンを止められない現在の勢力9,800の半分強でしかない。オバマはアフガニスタンの完全な崩壊を避けるために必要なこと以上には、殆ど何の個人的関心も示していない。一方、パキスタンが仲介した政府とタリバンとの和平協議は7月7日の一回の協議のみで崩壊した。ガニ大統領はパキスタンとの関係改善に努力し、パキスタン軍も和平を仲介することに熱意があるように思われたが、中国、米国および近隣国全てに後押しされたこの和平協議は軍事情勢の悪化とタリバン内部の意見対立のために中断に至った。

 オマールの後を襲った新しい指導者マンスールは、内部の反対勢力に直面しており、進行中の攻勢は彼にとって巧妙な政治的動きでもある。内部対立は和平に反対する新たな分派グループを生んでいる。また少なくとも3つの州でISISが支配地域と力を蓄えつつある。彼等は概ね指導者に愛想を尽かしたタリバンの連中であるが、シリアのISISの指導者と関係を持ち資金的援助を得ている模様である。

 ガニの政府は、弱体でタリバンの内部対立を利用できていない。国防大臣その他の閣僚すら任命できていない。政府の日常業務は停止状態である。腐敗への取り組みや経済の浮揚も出来ていない。資本は流出している。特に湾岸地域へ流出しており、そこで多くの市民が家を買っている。政府軍には戦う能力はある。しかし、今年は昨年の倍の5,000人が既に殺されている。正規軍の他にも雑多な部隊があり統制がとれていない。航空支援を必要としているが、空軍らしきものはない。

 春にはタリバンの全国的な攻勢が始まるであろう。西側がアフガン政府の救助に乗り出すことはなさそうである。タリバンの政権への復帰は――少なくとも南のタリバンの本拠地では――最早あり得ないことではない。その結果はパキスタンや中央アジアの更なる不安定化であり、ISISの拡大にとって申し分のない条件を提供する。これはロンドンやワシントンの誰も認めたがらないことであるが、何百人の命と何十億のドルを費消してなお最悪の事態はこれからだということである。

出典:Ahmed Rashid,‘While we weren't looking, the Taleban surged back in Afghanistan’(The Spectator, December 12, 2015)
http://www.spectator.co.uk/2015/12/while-we-werent-looking-the-taleban-surged-back-in-afghanistan/

*   *   *

報じられぬアフガンの惨状

 筆者の言っていることは、西側の指導者がアフガニスタンの惨状を見て見ぬ振りをしている間に情勢は急激に悪化しつつあるということです。このことは殆ど報じられることがありません。報じられるのはクンドゥズ奪還作戦を支援する米軍が「国境なき医師団」が運営する病院を誤爆した時くらいのものです。この論評が書かれた後、12月下旬には、タリバンが激戦の末、ヘルマンド州の要衝サンギン地区(タリバンの資金源とされるケシ栽培の中心地でもある)をほぼ制圧したといわれます。タリバンはヘルマンド州全域を掌握した後、臨時政府の樹立を宣言するのではないかという噂もあるようです。

 オバマ大統領は米軍撤退の時刻表を、去る3月と10月の二度にわたって修正し、2016年末までに完全撤退するとの公約を反故にせざるを得なくなりました。米軍のミッションはアフガン政府軍に対する訓練、助言、支援および対テロ作戦の二つに限定されています。今後何が起ろうが、この論評が言う通り、ガニ政権の救助に米軍が乗り出すことはあり得ないでしょう。あと任期1年のオバマが現在の限定的な派遣兵力とそのミッションの変更を行うとは考えられません。去る12月、国防総省はアフガニスタンに関する対議会報告を公表しましたが、これまで通り、政府軍の梃入れによる治安情勢の安定化を言うにとどまっています。

 タリバンを制圧出来ないとなれば和平しかありませんが、筆者に和平協議再開の可能性を期待している様子はありません。和平といっても問題は山ほどあり、短期的には幾許かの成果も望み薄です。

 脅威はタリバンだけではありません。ISISが勢力を拡大しつつあるといいます。ISISは少なくとも3つの州でタリバンや政府軍と戦っているとされます。ISISの動向如何で西側の指導者が忘れられた問題に再び真剣な目を向ける時が来るでしょう。しかし、それはオバマの次の大統領になってからのことでしょう。

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