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台湾の総統選挙の結果に想う - 髙井 晉

1 台湾総統選挙とネット効果

 2016年1月16日に中華民国(台湾)の総統選挙と立法院議員選挙が実施され、蔡英文女史が次期総統に選出され、立法院では同女史の率いる民進党が過半数を制した。中国国民党の劣勢が伝えられる中、中華人民共和国(中国)による選挙妨害等もなく平穏な選挙であったと報道された。台湾の総統選挙候補は必ずペアを組む必要があり、選挙結果は、蔡英文ペア(民進党)が6,894,744票(56・12%)、朱立論ペア(中国国民党)が3,813,365票(31.04%)、宋楚瑜ペアが1,576,861票(12.83%)で、蔡英文ペアが他の候補の票数を圧倒した。

 立法院議員の選挙は、民進党が68議席、時代力量が5議席で立法院の113議席の過半数を超える73議席を獲得した。前回の選挙で64議席を獲得した中国国民党は、35議席しか獲得できなかった。民進党の陳水扁政権は、総統選挙には勝利したものの、立法院の議席数が過半数ではなかったので政策運営に苦労したが、蔡英文新総統は、立法院で民進党が過半数の議席を得たことで、政治経済や安全保障の分野で民進党の政策を実施できる環境を手に入れた。

 民進党の飛躍的な大勝利は、2014年3月の「ひまわり学生運動」を抜きにしては語れない。中国国民党が進める中国との経済交流の急速な拡大が、台湾が中国市場へ過度に依存する結果となることを懸念し、対中不信感が一挙に爆発した同学生運動は、中国の経済侵略から「台湾人の土地を守ろう」とインターネットで情報交換しながら立法院を占拠し、政党色のない国民運動として中国国民党の恣意的な政策の転換を求めたのであった。台湾国民は、中国の拡張主義に直面する蔡新総統の政治手腕に大いに注目しているといえよう。

2 分断国家と分離独立

 第2次世界大戦後、イデオロギーの相違から同じ民族が二つの国家に分かれて存在する、いわゆる分断国家が誕生した。社会主義国家の中国と資本主義国家の台湾もこの例に漏れず、蔡新総統の対中政策如何では、中国による台湾の武力統一が懸念されている。

 中国共産党は、中国と外交関係を樹立する国家に対し中国の一部である台湾との外交関係断絶を要求してきた。中国国民党の馬総統は、「一つの中国」を認めた上で「統一せず、独立せず、武力行使せず」を掲げ、経済と文化の面から両岸交流の拡大を推進した。他方で民主党の基本的立場は、台湾は既に22か国と外交関係がある独立国であり、両岸関係の現状変更には台湾住民の同意が必要であるとし、平和的関係の発展次期を経て経済・文化面の両岸関係・協力関係を強化し、相互信頼を醸成していくとの方針を堅持している。

 中台関係のほかに、朝鮮半島における韓国と北朝鮮、インドシナ半島における北ベトナムと南ベトナム、中部ヨーロッパにける西ドイツと東ドイツが分断国家となった。1910年以来日本領であった朝鮮半島では、北緯38度線を挟んで1948年8月に資本主義体制の大韓民国が、同年9月に社会主義体制の北朝鮮が独立宣言を行った。その後、北朝鮮が1950年6月に朝鮮動乱(~1953年7月)を仕掛け、武力による統一を目指したが果たせず、分断国家のまま現在は主権国家として国連加盟国となっている。

 インドシナ半島では、1954年にフランスの植民地支配が崩壊し、北緯17度線を挟んで同年4月に社会主義国の北ベトナム、10月に資本主義を国の南ベトナムが誕生した。その後、1965年に勃発したベトナム戦争(~1975年)により北ベトナムが武力統一に成功し、1976年7月にベトナム社会主義共和国が樹立された。東西ドイツの場合は、1945年5月に資本主義国家の西ドイツが、同年10月に社会主義国家の東ドイツが誕生したが、1989年に冷戦が終結してベルリンの壁が崩壊し、1990年10月に外交交渉を経て平和的に統一しドイツ連邦共和国となった。

 蔡新総統は、台湾と中国の関係について、武力で統一したベトナム、平和的な外交で統一したドイツ、戦闘を経て二つの主権国家として国連に加盟した韓国と北朝鮮のケース、あるいはこれらと異なる方策を案出するのか興味は尽きない。

3 台湾の本省人と外省人

 台湾は、中国との両岸関係の問題とともに、国内に本省人と外省人との関係の問題を抱えている。1912年1月に樹立された中華民国は、1945年9月に日本が降伏文書に調印したので敗戦処理のために行政長官を台北に派遣し、台湾が中華民国の領土になった旨の声明を発表した。翌年、台湾住民の国籍を「中華民国」とし、日本統治時代の住民を「本省人」、国民党とともに大陸から渡来した住民を「外省人」と区別した。

 その後、中国大陸で政権を争った中国共産党が1949年10月に中国を樹立し、敗れた中国国民党は、1949年12月に首都を南京から台北に移した。中国国民党の敗残兵は、台湾で暴虐を尽くし、本省人(主として民進党支持者)と外省人との間に抜き差しならない関係が生じた。中国国民党は、法的措置等の手段で軍隊をはじめとする公的機関等において、外省人をして本省人に対する優越的な立場を擁護してきたのであった。

 本省人は、同じ中国民族でありながら中国国民党による外省人の優越政策に対して反発し、今日では、中華民国人ではなく台湾人であると意識するようになった。このような意識が、中国国民党が推進する中国の台湾経済的進出への警戒と相俟って、総統選挙と立法議員選挙への投票結果をもたらしたといえよう。

 近年、一国家内で自治権の拡大を要求する勢力が、住民投票によって分離独立を目指す傾向が高まっている。カナダのケベック人、英国のスコットランド人、スペインのカタルーニア人などの住民がそれぞれ独立の可否を問う住民投票を行なったが、経済的理由から僅差で独立を否定した。しかし住民投票の結果として大幅な自治権が認められた。

 この度の台湾の選挙は、これらの国の住民投票とは異なるが、国民間の不平等性を解消したいとする願望において共通している。立法院で過半数を獲得した蔡新政権は、本省人と外省人との間の不平等性について、法的手段によってどこまで解消できるのか興味深い。蔡英文女史は、総統就任までに時間があるのでその間に十分戦略を練って、支持者の熱い思いを政策に反映させると期待されているのである。(2016年2月1日)

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