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ハリウッドのダイバーシティ:ワイルド・スピードやフォースの覚醒とオスカーの差

米国アカデミー賞の人種の多様性を巡る議論はアメリカではまだ続いている。おそらく授賞式が終了するまで続くだろう。

オスカーを尻目に、というか反面教師にというかサンダンス映画祭では黒人奴隷を描いた「The Birth of Nation」がグランプリと観客賞を獲得した。さらにサンダンス史上最高額で権利が落札された。Fox Searchlightが1750万ドルで権利を獲得したのだが、この映画の獲得競争にはNetlixやAmazonの名前も挙がっていて、アメリカ映画界のパワーバランスの変化という側面からも面白いニュースだったが、今日のところはそこには触れない。この映画のタイトル「The Birth of Nation」は、アメリカ映画の父・D・W・グリフィスの「國民の創生」と同じだが、グリフィスの映画の内容は、黒人差別を助長するものであり、ハリウッドの負の歴史の始まりとも言えるような作品でもある。「國民の創生」については、詳しくは町山智浩さんのこのコラムをお読みいただきたい。



ハリウッドは実際白人が多い。というかアメリカ全体でもいまだ人口の過半数は白人である。そしてハリウッドが白人優位の業界であるという指摘はずっと昔からあった。ここ数年の話というわけではなく、「國民の創生」の時代からずっと続いてきているものだ。
しかし、ハリウッドというところは、思想的には保守ではなくリベラル寄りなのである。アメリカの古いリベラルの正体なんてそんなもん、という見方もできるのだが、実際ハリウッドは多様性のない世界なのだろうか。

アメリカ映画界の構造問題

今回のオスカーの問題に関して、Marc Bernardinというライターがハリウッドレポーターで以下のように問題点を主張している。

黒人のレヴェナントやラティーノのキッズ・オールライト、アジア人のブラック・スワンはなぜ作られない?問題解決にはより多くの人種についての映画がより多くの人種の手によって作られるべきだ。ハリウッドの重役たちはフォーカスをよりワイドに持ち、黒人の偉人だけを取り上げるのでなく、単に良いストーリーを取り上げればよいのだ。

つまり、今回のオスカーノミネーションの結果は、有色人種を排除しようとした、意図的な結果というより、有色人種をフィーチャーした作品数が絶対的に少ないからで、それは産業全体の問題であろう、ということを主張している。これはその通りであろう。アメリカに住んでいる時にアジア人の女優が言っていた話だが、アジア人の役はすごく少ないから、役柄を選ぶ余裕なんてないし、もしアジア人女性のオーディションの話があればとりあえず受けるし、皆考えてることは同じだから、競争率もすごく高いと。
アジア人のキャラクターなんて黒人のそれよりも少ない。白人以外の人種が活躍する企画自体が少ないので、出演俳優も限られる、結果ノミネートも少なくなるのは当然というわけだ。

ポップコーン映画とホームワーク映画

しかし、ハリウッド作品に多様性の芽が全くないとは思えない。Marc Bernardinはハリウッド・レポーターの同記事の中でアメリカ映画は2つに大別できるとしている。ポップコーン映画とホームワーク映画だ。2つの言葉の意味はその単語名でおおよそおわかりかと思う。ポップコーン映画は気楽な大作映画で、オスカー戦線には関わりのないタイプの作品。ホームワーク映画は、オスカー作品にも良く見られるような、強いテーマ性を持った「格式高い」作品群のことを指している。(今回のオスカーには最強ポップコーン映画のマッドマックスがノミネートされるという、イレギュラーな事態も起こっているが)


今回、ホームワーク映画の祭典のはずのオスカーで多様性のなさを批判されるめにあった。多様性はここ数年社会の重要な価値観の一つであるはずで、それを巡ってアメリカ社会も大きく動いたはずだった。同性婚などは顕著な例だろう。売上だけではなく、社会に対して大事なメッセージを伝える芸術として映画を評価するオスカーはそうした社会の動きを捉えきれなかったのだろうか。

ではポップコーン映画の方はどうなのだろうか。2015年を代表するポップコーン映画として以下の3つの映画を取り上げてみる。

マッドマックス怒りのデス・ロード
本作は、白人ばかり登場する映画であるが、過去の3作はさらに「男」の世界でもあった。にもかかわらず、今回は女の物語となっている。主人公のマックスの存在感は希薄化していて、実質物語はシャーリズ・セロン演じるフュリオサを中心に展開する。主役たちの仲間はほとんどが女性。アクション映画にフェミニズムを持ち込んだと評判だった。ジョージ・ミラー監督はフェミニズムをストーリー上の必然と語る。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ジョージ・ミラー監督インタビュー – TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

ミラー監督 本作にも「財宝」は出てくるが、それは人ーー〈ワイヴズ〉だ。荒廃した地で、唯一健康な女たちだからね。その〈ワイヴズ〉の存在があるからこそ、女戦士が出てくる必然性が生じる。男であってはいけない。だって、「男が別の男から女を奪おうとする」というのでは話の意味が全然違ってしまうからだ。女戦士が、(隷属状態にある)女たちの逃亡を手助けし、マックスはそれに巻き込まれる。本作における〈フェミニズム〉はストーリー上の必然なのでであって、先に〈フェミニズム〉ありきで、そこに無理やりストーリーを付け加えて映画を作ったわけではない。〈フェミニズム〉はストーリーの構造から生まれてきたものなんだ。

ーー物語が必然的に〈フェミニズム〉を要請したということですね。

ミラー監督 そのとおりだ。



スターウォーズ フォースの覚醒
主役が女性でその相棒が黒人男性である。さらにエース・パイロットのポーはグアテマラ出身。上映前の予告編を見て白人ファンがボイコットを呼びかけたなどというニュースもあった。
LAタイムスの契約記者Rebecca Keeganは現代の世界の多様性を反映していると評価している。
‘Star Wars: The Force Awakens’ reflects our diverse, modern world – LA Times

Part of the power of “Star Wars” movies has been how they have invited generations of audiences to imagine themselves as heroic characters in the fantastical, detailed world George Lucas conceived nearly 40 years ago. In 2015 — spoiler alert — it is not only white males who get to harness the power of the Force.
意訳:スターウォーズはいかに何世代ものオーディエンスに自分自身がヒロイックな存在であるか想像させるかを考えられている。フォースの力を使えるのは白人男性だけではないのだ。

多様性あるキャストの配置が現代の人種構成を反映しており、オールドファンを納得させるギミック・展開を用意しつつモダンな価値観をきちんと内包していると評価されている。



ワイルド・スピード SKY MISSION
最後の例はこれ。「ワイルド・スピード SKY MISSION」の北米の観客は75%が非白人だという。
‘Furious 7’ Audience 75 Percent Non-White: Inside the Diversity Stats – Hollywood Reporter

“There is literally someone within the cast that is relatable on some level to nearly every moviegoer around the world, and this has paid big dividends at the box office and also in terms of how casting decisions will be made in the future for these types of large-scale action epics.”
意訳:世界のどこの観客にとっても、キャストの中に自分と関係あると思える人物がいることは極めて重要なことだ。それがボックスオフィスの成績に大きく影響するし、こうした大きなスケールのアクション映画の今後のキャスティングに影響することだろう。

現代の観客はスクリーンに憧れの白人を見たいのではなく、自分に近しい人間の活躍を見たいと感じている。憧れの存在を崇拝するより、身近に感じたいわけだ。

市場主義の作品が思想的映画よりも進歩的?

ポップコーン映画がむしろダイバーシティに寄り添い、「進歩的」であるはずのアカデミー賞がむしろ時代遅れの白人優位主義と言われるようになっている。これはある種の逆転現象と言えるかもしれない。
この逆転現象が起きた理由は、おそらくそれほど複雑な理由ではない。スターウォーズもワイルド・スピードも世界中の人間をターゲットにして製作されている。老若男女どころではなく、白黒黄色その他色々あらゆる人種に見せるために作られている。商売上の合理性を考えたら、ダイバーシティを反映する以外の選択肢があろうはずがない。
マッドマックスは元々男性ファンの多いシリーズだ。したがって女性層を取り込むことがより大きなヒットにつながる。

ではオスカー作品はだれをターゲットに作られているのだろうか。テーマによっていろいろだろうが、オスカーにノミネートしようと思えば、少なくともアカデミー会員に好かれる必要はある。「約6千人の会員のうち94%が白人で77%が男性」と言われるオスカー会員に。
つまり完全マーケット主義で製作しているポップコーン映画は、その社会の多様性の広がりを意識するがゆえにホームワーク映画よりもダイバーシティに関してすでに先行できているのではないか。徹底的に商売第一のマーケット主義が芸術作品よりも進歩的だと言えるかもしれない。人種の多様性という点においてのみの話ではあるが。

多様性を意識しない状態こそ最も多様な状態

当の「フォースの覚醒」の監督J.Jエイブラムスはインタビューでこう語っている。

――物語の主人公は、砂漠の惑星に暮らすレイです。女性を主人公にした理由は?
J.J.エイブラムス監督:その質問には、「フェリシティの青春」「エイリアス」といったテレビドラマを手がけた頃から、ずっと戸惑いを覚えるよ。だって、「なぜ男性が主人公なんだ?」と不思議に思ったりはしないはずだからね。

おそらくフィン役のジョン・ボヤーガに関して質問してもJ.Jは同じように答えたのだろう。本当のところがどうなのかわからないが、極めて優等生的な答えだと思うし、多様性を巡る議論の一つのゴールでもあるだろうからだ。

女性主人公や黒人の相棒というキャストが、特別に奇異なことでもなく、「ダイバーシティの反映だ!」と妙に評価されることがなくなる状態を目指すことが最終ゴールであろう。
オスカーはポップコーン映画にもその姿勢を学ぶべきなのかもしれない。

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