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憲法改正へ動き出した安倍政権 - 關田伸雄

安倍晋三首相が自らの悲願である憲法改正に本格的に動き出した。

衆院解散・総選挙との同日選になることもとりざたされている今夏の参院選で憲法改正を争点に掲げることを明言していることに加え、必勝に向けてアベノミクスの「新3本の矢」や目玉政策と位置付けた「1億総活躍社会」の中で社会的弱者対策に大きく舵を切っていることが、それを象徴している。

現行憲法をめぐっては、国際社会の現実とは無関係に「戦争放棄と戦力不保持」をうたった第9条だけでなく、私学助成を禁じているとの解釈もある第89条、「日本語になっていない」との批判もある前文など、多くの問題点が指摘されてきた。

さきの国会で成立した安全保障関連法も「憲法が行使を認めていない」とされてきた集団的自衛権の限定的行使に踏み込んだことが「解釈改憲だ」との批判を呼んだ。

1月26日の衆院本会議で安倍首相の施政方針演説に対する代表質問に立った民主党の岡田克也民主党代表が「憲法を時代の変化に適応させ、改正することを否定するものではない」と述べたように、「何でも反対」の旧社会党と自主憲法制定を党是とした自民党による「55年体制」によって憲法改正の議論すらできなかった時代は過ぎ去った。

天皇条項を含む現行憲法に反対していたにもかかわらず、最近では前々から「護憲」を主張してきたかのように装っている共産党を除けば、与野党間で憲法改正論議のできる状況が近づいてきたことは事実だ。

しかし、憲法改正は第96条で、国会が衆参両院それぞれ3分の2以上の賛成で発議し、18歳以上(平成30年6月20日までは20歳以上)の有権者による国民投票を行い、過半数の賛成を得なければならないと規定されている。

国民投票法自体、22年5月18日に施行されたもので、それ以前に法律すら存在しなかったことが、憲法改正が戦後一貫してタブー視されてきたことを物語っている。最低でも改憲を容認する勢力が衆参両院それぞれで3分の2を超えるという政治状況はこれまで存在し得なかった。

現在、衆院(定数475)では自民(291)、公明(35)両党で326議席を占め3分の2を確保している。一方、参院(定数242)では自民(114)、公明(20)両党で134議席にとどまっており、ほかの改憲容認派を合わせても3分の2を確保できないでいる。

「平和と福祉の党」である公明党が憲法改正の具体的内容について、どの程度、自民党に同調するかはともかく、安倍首相としては参院でも改憲発議を可能にする3分の2を確保したいというのが本音だ。

来年4月の消費税率の10%引き上げに向けた軽減税率導入にあたって、自民党税制調査会のメンツをつぶしてまで公明党に大きく譲歩したのも、参院選での公明党の全面協力を期待しているためだ。

平成27年度補正予算に、野党側が「ばらまき」と批判した低年金高齢者への一律3万円の臨時給付金支給や、協定締結前にかかわらず3,403億円の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対策費を盛り込んだのも、参院選をにらんでのことだ。

「新3本の矢」では社会保障重視、介護・子育て支援、地方における人口減少対策など社会的弱者対策が盛り込まれ、施政方針演説ではこれまで「研究する」とそっけない答弁を繰り返してきた「同一労働同一賃金」について「実現に踏み込む考えだ」と明言した。「成長と分配の好循環を創り上げていく」とも述べた。

「同一労働同一賃金」や「公正な分配」はかねてから連合が主張し、民主党が要求してきたテーマであり、「アベノミクスによる格差拡大」を参院選の最大の争点にしようとしている民主党の出鼻をくじく戦略といえる。

社会保障や社会的弱者対策で野党側の主張を取り込みつつ、憲法改正に向けた環境整備を目指す安倍首相に、野党第1党である民主党はどうやって対抗していくのか。

岡田氏は代表質問の中で「『憲法は権力者の権力乱用から国民を守るものだ』という立憲主義の基本を理解しない首相の下での憲法改正は極めて危険だ。権力者にとって都合のいいように憲法が変えられる恐れがあるからだ」と警鐘を鳴らした。そのうえで、自民党の改憲草案に「緊急事態」においては政令によって必要な規制を行うと定める「緊急事態条項」が盛り込まれていることについて「民主主義の根幹を揺るがしかねない問題だ」と非難した。

だが、「ダメなものはダメ」が票を集めた土井たか子社会党委員長の時代ではない。批判だけなら「戦争法廃止」を訴えてポピュリズムに走り出した共産党の方が一枚も二枚も上手だ。

維新の党との新党結成や野党勢力の結集といった戦術論も結構だが、形だけで有権者がついてくるだろうか。

当面の格差是正やTPP対策にとどまらず、社会保障、税制改革、安全保障、さらには憲法改正にまで踏み込んで、説得力のある対案を示して正面から安倍政権と対峙する。少なくとも、その気概がなければ、岡田民主党に政権奪還の展望は開けない。そう考えるのは筆者だけではないはずだ。

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關田伸雄(政治ジャーナリスト)

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