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日本人は貧困化しているのか? ~エンゲル係数上昇から分かる事と分からないこと~ - 皆川芳輝

2017年4月の消費税率の引き上げをにらんで、軽減税率について様々な議論がなされています。先日も学校給食は軽減税率の対象、カラオケ店の飲食は対象外といった線引き案が記事になりました。軽減税率は低所得者の負担軽減の意味合いもあって食品を中心とした生活必需品が主な対象となっていますが、食費と家計と聞くと、エンゲル係数という言葉が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

先日もエンゲル係数に関して日経新聞にこのような記事がありました。
エンゲル係数 上昇中 食費の負担、バブル期並み
消費支出に占める食費の割合を示し、生活水準が上がったか下がったかどうかの目安となる「エンゲル係数」に異変が起きている。本来なら経済成長とともに下落するパターンが崩れ、急ピッチで上昇しているのだ。世帯人数の減少に伴う個食化や外食化に加え、増税や原料高が重なったためで、新たな食スタイルが生まれつつある。  日本経済新聞1月24日
ただこれを読んだとき、確かエンゲル係数というのは生活水準が低いと大きくなると習ったのに何か変だな、と違和感を覚えました。

■エンゲル係数とは何か

多くの方は学校教育のどこかで学んだことがあると思いますが、エンゲル係数とはドイツのエルンスト・エンゲル氏が19世紀半ばに提唱した概念で、家計の消費支出に対する食費の割合のことです。食費は生命維持のために極端に減らすことは不可能なのでエンゲル係数が高いと相対的に生活水準が低い(ゆとりがない)というエンゲルの法則が説明され、私もそのように習いました。エンゲル係数=食費÷消費支出です。

図表1はエンゲル係数の推移です。2000年代に入って23%前後で推移していたエンゲル係数は確かにこの1,2年でバブル期並みの24%半ば程度に大きくなっています。

【図表1】エンゲル係数の推移(出所:総務省家計調査)
画像を見る

■違和感の原因は

エンゲルの法則が正しいとすると、バブル期とこの1,2年の生活水準(ゆとり度合い)が同等であるということになります。しかしこれにはかなり違和感があります。さて何が変わってきたのでしょうか。

そこでバブル期と現在の指標をいくつか拾ってみました。

【図表2】バブル期と現在の指標(2015年は推計値)(出所:総務省家計調査、内閣府)
画像を見る

消費支出はバブル期の方が3万円弱大きいですが平均消費性向は75%程度とあまり変わりありません。インフレ率も1990年と2014年は近い数値です。大きく違うのは高齢者比率です。さらにエンゲル係数についてもう少し調べてみると興味深いことがわかります。

【図表3】年齢階級別エンゲル係数(出所:総務省家計調査)
リンク先を見る

そもそも高齢者になるとエンゲル係数が高くなる傾向にあるのです(図表3参照)。これは年次が違っても同じ傾向です。逆に他の年齢階級ではエンゲル係数にそれほど差が出ません。データの都合上1990年と2014年を直接比較できないので正確なことは言えませんが、高齢者のエンゲル係数が高くなる理由は消費支出が減少する(せざるを得ない)なかで、食費(分子)はそれほど減らせるわけでもないため、消費支出(分母)が小さくなった分、エンゲル係数が大きくなるからです。ただし勤労者世帯の高齢者ではエンゲル係数の増加が抑制されることから、勤労者世帯なのかどうなのか(=年金以外の収入の有無)でエンゲル係数に大きく差が出ることが推察されます。

以上から、大きな構造的要因としてもともとエンゲル係数の高い高齢者の比率が上がったことによってエンゲル係数が底上げされた(特に2012年に団塊の世代が65歳に達した影響も大きい)ところに、円安、消費増税などによる食品価格の上昇、そして個食化や外食・中食などの増加といった個別の要因が重なってエンゲル係数がバブル期並みに上昇したと考えるのが自然に思えます。

つまりバブル期と現在のエンゲル係数が近いといってもその意味合いは違っていて、その裏には高齢化が関わっていたのです。ただし、高齢化=貧困化と考えるのは早計です(これは高齢者に資産が偏在していることを考えてもわかります)。エンゲル係数については従来から収入の大小が問題とされることが多かったのですが、今後ますます高齢化が進んでいくことや高齢者が活躍する社会(≒勤労世帯の増加?)の到来も含めて考えると年齢別に見ていく必要もあるのではないでしょうか。

■経済指標から見えるものと見えないもの

多様な現実を考えやすくするという意味でモデリングや指標というものは便利です。しかし同時にその性質上多様性を反映しにくいものでもあります。エンゲル係数は重要な政策を決定づけるほどの指標ではないでしょうし、一つの話のネタで済むことかもしれません。しかし例えば年金の所得代替率のように今では多数派とは言えない夫婦世帯が今でも前提モデルになっているというような笑い話で済まないものもあります。

時代の変化と共に経済環境は変化し、指標のもつ意味合いも変わってくるのは仕方のない面があります。しかし、昔からそうだからとか、慣例だからとか、といって無批判に鵜呑みにするのではなく、間違った結論に達しないようにするためにも今一度その指標が意味すること、その裏に隠れていることを丁寧に拾っていく努力も必要でしょう。

【関連・参考記事】
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 本田康博
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■アベノミクスによって資産は増えた?減った?もはや他人事ではない為替のインパクト。 皆川芳輝
http://sharescafe.net/45149629-20150612.html
■準ミス日本東大生の偏差値93.7はどれぐらいすごいのか? 村山聡
http://sharescafe.net/43113315-20150128.html
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか? 中嶋よしふみ
http://sharescafe.net/44507403-20150429.html
■アベノミクス2.0の前に、この一年一般庶民の暮らしぶりはよくなったのか検証してみた。 皆川芳輝
http://sharescafe.net/47285065-20151221.html

皆川芳輝 ファイナンシャルプランナー/証券アナリスト グローバルライフプランナーズ合同会社代表

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