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- 2016年02月01日 16:54
宮崎駿監督「自分に与えられたフィールドとチャンスにおろそかになってはいけない」
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BLOGOS編集部
ハンセン病の原因となる「らい菌」の感染力は弱く、国内での新規感染者は毎年数名程度という状態が続いている。一方、かつて国が患者を強制隔離していたことから、治療法が確立されてからも、元患者やその家族に対する差別や偏見が解消されずに残ってきた。今も多くの元患者が全国の療養所で暮らしている。

(左から)佐川さん、宮崎監督、平沢さん
入所者の平均年齢が80歳を超える中、「全生園」の敷地や建物を「人権の森」として残していく構想を提唱している宮崎監督。「全生園」との関わりや、創作活動において大きな影響を受けたことを語った。講演の内容と、その後の記者団との質疑応答の内容をお送りする。
”おろそかに生きてはいけない”と思った

BLOGOS編集部
僕は、全生園から急いで歩けば15分ぐらいのところに住んでいます。50年前に女房とトラックを借りて引っ越しをしたんですけど、所沢街道を通って、右手に立派な生け垣が続いているところに差し掛かって、そこが全生園だってことを、初めて知ったんです。その角を曲がって、自分の住む秋津の方に向かったんです。
その頃もハンセン病についてそれなりに知ってはいたんです。伝染性は極めて弱いとか、特効薬があるかとか。でも、なにせ新婚ホヤホヤで、仕事の方にも夢中でしたから、ほとんど関わることもなく、20年ぐらいが経っちゃいました。
今から20数年前ですけども、後に『もののけ姫』という映画になる、日本を舞台に時代劇を作る企画を立ち上げていました。
原作はもちろんないわけで、主人公が刀を下げた侍ではないとしたら、どういう形になるか。貴族でもなかったらどういう映画が作れるだろうかと。それで参考になったのは、一遍上人の時宗という宗教改革を描いた『一遍上人絵伝』でした。
それを見ますと、ありとあらゆる生業が出てきます。例えば、お寺・神社の周りには、乞食やハンセン病の人がいます。その他、得体の知れない、唐傘を差して一本歯の高下駄を履いている男たちとか、本当に不思議な人達がいっぱい出て来るんです。時代劇で見てきた世界とは全然違う、本当の民衆の姿が描かれているなと思いましたよ。
なんとかして、この人達が登場する映画を作れないか、と。主人公にする上では、それなりに活動する能力を持っていないと映画になりませんので、謎に満ちている「エミシ」という人々ですね。
それから、『一遍上人絵伝』を見て興味を持っていました、”たたら者”っていう、朝鮮半島を経由して入ってきた、製鉄をする人々です。中国地方の山の中で、砂鉄と炭を求めて、山から山へ移って行く集団ですが、その人達が作った鉄が色んな人間を経て、里に降りてくる。農具になり、あるいは武器になり、ということだったらしいんです。
で、たちまち行きづまりました。そうすると、ノートを持ってウロウロ歩き回るしかないわけです。そのうちに、家から15分のところにある「全生園」の前に来たんです。『一遍上人絵伝』の中にあったハンセン病の人達のことを考えると、そこで私が踵を返して帰ることは出来ないのではないかと思って、初めて中に足を踏み入れました。
なぜそれまで入らなかったのかというと、それは大変な、惨憺たる運命に生きている人達に出会った時に、自分がどういう顔をしていいか分からないという、恐れが大きかったからなんです。
冬の日でしたけど、全生園の裏の方から入っていきましたら、すごい桜の並木が見えました。桜の見事な巨木が実に生々しくて、衝撃を受けてその日はそのまま帰ってしまいました。
それから何度か訪ねて行くうちに、資料館にも入ったんです。当時はまだ古い資料館(旧「高松宮記念ハンセン病資料館」)でした。療養所で使われていた、お金に代わる、ブリキで作った通貨など、色々な生活雑器が大量に保存されていました。大変な衝撃を受けました。
そのあと、何度も資料館へ行くようになるんですが、その度に、”おろそかに生きてはいけない”という風に思いました。”おろそかに生きてはいけない”、というのは、今、自分がぶつかっている作品をどういう風に作るかということを、真正面からキチンとやらなければいけない、そういうことだと思います。
実際、『もののけ姫』にはハンセン病の人も出しました。それは”無難な線”ではなくて、当時”業病”と言われたハンセン病を患いながら、それでもちゃんと生きようとした人達のことを、はっきり描かなければいけないと思ったんです。
しかし、本当のことをいいますと、これを患者のみなさんが見た時に、どういう風に受け取るかということが、ものすごく恐ろしかったんです。平沢さんや佐川さんに見てもらうのがとても怖かったんです。でも、とても喜んでもらったんで、本当に僕は救われた思いがしました。



