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「出会い系」に翻弄される21世紀のゲイたち - かずかず / フリーランス・エッセイスト

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オンライン・プラットフォーム特有の弊害

「疲れ」は切り捨て可能性に加え、リアルとバーチャルの乖離をもたらしやすいオンライン・プラットフォームの特徴によっても引き起こされています。

まず、ゲイアプリの使用はユーザーの相手に対する理想を過度に高めてしまいます。ここで、恋愛において、人々の間に需要と供給という概念があり、それに基づいて「恋愛市場」がイメージされていると仮定します。

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従来「恋愛市場への参入」は現実世界で起き、生身の人間と接触し他人の目にさらされることで、自分の市場価値を意識することができました。しかし、ゲイアプリを使うと恋愛市場に参入するという行為がオンライン化し、客体としての自分を意識するタイミングが遅れ、それまでの期間に自分の市場価値に見合っていないゲイ男性とのファンタジーを抱いてしまいます。

相手に対する理想は、ゲイアプリの設計によっても高められてしまいます。ゲイアプリ上では、どのユーザーも平等に、他のどのゲイ男性にもコンタクトを取ることができます。それに加え、MemberタブのFilter機能によって、自分の好みの男性のみを表示することができます。この見せかけの平等と偏ったゲイ男性閲覧生活が、理想の上昇に拍車をかけています。

また、オンライン・プラットフォームはユーザーに自分を取り繕わせてしまいます。人々が統一されたフォーマットを使って自分を紹介することで、プラットフォーム上で比較に使われる項目が明確になります。そしてSNS上のプロフィールやメッセージでは、自分のイメージを簡単に操作することができるため、その項目一つ一つにおける自分の最大値を提示してしまうのです。そしてオンラインの自分の像をつくることが、どんどん作品作りのようになってしまっています。そういう意味で、ゲイアプリを使うゲイはみんなアーティストなのかもしれません。

例えばゲイアプリ上のプロフィールに登録されている写真は、そのユーザーの奇跡的に写りが良かった写真(盛れ写、詐欺写)がほとんどです。また、Instagramをはじめとする画像編集アプリの登場により、写真と実物の乖離にはますます拍車がかかっています。写真とプロフィールはもはやリアルするかどうかの判断基準とならなくなってきているため、合う前に電話をして判断要素とする人達も見受けられ、隠したい欲と知りたい欲がせめぎあっています。

また、ゲイアプリ上ではしばし男らしさの追求、又は女らしさの排除が求められます。これを踏まえて、リアル前のメッセージの段階での顔文字・絵文字・スタンプの使用(女らしさ)や、初期のリアルにおいてスカーフの着用を控えるなど、普段の自分を隠しつつ相手の出方を窺うゲイ男性が存在します。このように、切り捨て可能性を恐れてコミュニケーションが過度に慎重なものになり、ゲイアプリはITツールとしての性質上それを助長してしまうのです。

切り捨て可能性と、オンライン・プラットフォームの弊害。この二つによって実際に築かれる人間関係が持続不可能なものになってしまい、ゲイ男性たちはその量産された出会いのほとんどが不毛であると感じ、疲れてしまいます。

就活との類似性

以上を踏まえると、ゲイアプリが引き起こす問題の背景にある構造は、現代の大学新卒就活市場の構造と多くの点で共通していることが分かります。2年前の冬、当時大学3年生だった僕は、忙しい就活の合間を縫ってJack’dを使いできる限りリアルをしていました。しかしある日、就活でもプライベートでも同じ構図で疲弊している自分に気付いてしまったのです。

現代の大学新卒の就活では、多くの有名企業とほぼすべての学生がリクナビやマイナビと言った就活サイトに集結します。これらのナビサイトは学生に企業との出会いを提供するインフラ的存在であり、ゲイにとってのJack’dそのものです。ここで学生たちはどんな会社がホットなのか、どういう会社が人気なのかを知ります。

トップページには様々な種類の人気企業ランキングが表示され、ここで多くの学生たちの価値観が築かれます。ちょうど自分の価値をかえりみることなくFilterを使って自分の好みの男ばかりを見てファンタジーを抱いているゲイ男性のようです。

さらに公平性・透明性が問われる現代社会では、どんな学生も、受けてきた教育の内容やレベルを問わず、表面上は全企業の選考プロセスへの参加権が保証されています。僕もそろそろ身の丈に合わないイケメンマッチョにばかりメッセするのをやめた方がいいのかもしれません。

しかし、「これだけ沢山いるし、だれか一人くらい返事くれるんじゃないか」という気持ちは、「人気企業もこれだけあるし、沢山受けとけば何個か引っ掛るだろう」と思っていた去年の12月の僕のようです。

採用プロセスの根幹である面接も、ゲイ界のリアルとよく似ています。企業は18時に帰れる日のスケジュールは紹介しますが繁忙期には言及せず、学生も学業と課外活動の両立の話をしても、その学業が代返によって支えられていた事実は明かしません。

そして、学生も企業も少しでも自分と合わないなと感じたらメール一本、もしくは無言で縁を断ち切れます。就活においても切り捨て可能性が存在するのです。

個人が実践できる試み

毎年全国で100人以上の20代が自殺する就活というイベント(自殺未遂はその10倍と推測されています)と同じことが起きている、疲れて当然なゲイアプリ上の出会い。最後に、僕たちユーザーがどのようにゲイアプリと付き合っていけば良いのかを考えていきます。

実践案1『ゲイアプリで多角形的な人間関係を築く』

実践案の一つ目は、まずゲイアプリ上で友達をつくり、その友達を足掛かりに人間関係を広げることです。お互いが初めから恋愛を前提としてつながった場合、その関係は直線的になりやすいですが、友達を介して知り合うことでその直線性が解消され、多角形的な人間関係の中で親しくなっていくことが可能です。

僕の周りの彼氏持ちの友達は、『友達の友達』が彼氏になったケースがほとんどです。使用する目的を「将来彼氏をつくるための土台づくり」という長期的なものに設定することで、一喜一憂することなくゲイアプリを使っていけるでしょう。

実践案2『自分が既に所属しているコミュニティの中でゲイを発見するツールとして使う』

次にできることは、思い切って会社や学校でゲイアプリにログインしてみることです。自分が所属しているコミュニティでゲイを発見することで、彼と「よくある恋愛」を実践できる可能性があります。

実践案3『様々なITツールを併用する』

Jack’dがユーザーに提供している価値観は、外見重視であったり、高望みを引き起こしてしまったりと、持続可能な関係の構築に向いていません。一方で他のオンライン・デーティング・サービスでは、ユーザーに性格と外見を同等に扱わせようとしている「okcupid.com」や、高望みを是正する機能を備えたものなど、それぞれユニークな価値観をユーザーに提供しています。それらを併用することで、ある一つのゲイアプリが提供する価値観にとらわれることなく人間関係を構築することが出来るかもしれません。

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おわりに

以上、IT時代を生きるゲイがどのような恋愛活動をしているかを分析し、その問題点と解決策を考察しました。ゲイの皆さんは、今自分が置かれている状況を理解することができたでしょうか? また異性愛者の皆さんは、来るべき日への準備はできそうでしょうか? この論考が少しでも皆さんの課題解決に役立てたならとても嬉しいです。Jack’dの問題点の解決に向かっている他のゲイアプリの分析や、Jack’dのアプリ設計の改善案、またゲイ界に必要な新たなプラットフォームについては、いずれ稿を改めて論じることができればと思います。

ITツールは便利です。しかしそれを使って、僕たちはどこに行こうとしているのでしょうか。右手の中で何もかもを可能にするその魔法の道具は、いつの間にか樹海の中のコンパスのようにクルクルと回っていて、僕たちは何も知らずにそれを使っているのかもしれません。ゲイであろうとなかろうと、皆さんがテクノロジーに翻弄されることなく、現代を生き抜くことができるように願っています。それでは今夜もリアルが控えているので、僕はこの辺で。

※本稿は、『にじいろわせだ Vol.6』(早稲田大学セクシャルマイノリティサークルGLOW フリーペーパー制作班発行, 2014)掲載 「ゲイとITの社会学」を改稿したものです。リンク

画像を見る かずかず(かずかず)
フリーランス・エッセイスト
1991年生まれ。首都大学東京都市教養学部卒業。生まれてから20年間の暗黒の完全ノンケ生活を経て、アメリカ留学を機にゲイライフスタート。サンタモニカ大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて、マイノリティの人権について学ぶ。外資系IT企業勤務を経て、現在エッセイ執筆や映像制作などの表現活動を行っている。現在の関心は、オンライン・プラットフォームや都市空間の設計によって生まれる弊害や、マイノリティ・コミュニティ内部の問題。ブログ「かずかずのたまご」を運営中。

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