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日本企業のグローバル化、周回遅れの実態 - 大前研一の日本のカラクリ

小川 剛=構成 大橋昭一=図版作成

今さら手も足も出ない「日本勢」

2015年10月、「バドワイザー」で有名なビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が、同2位のSABミラー(英国)を約13兆円で買収することで基本合意したと発表した。

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ビール最大手と同2位の合体は、再編のクライマックス。

この合意によってアンハイザー・ブッシュ・インベブ(20.8%)+SABミラー(9.7%)で約30%のシェアを占めることになり、2位のハイネケン(9.1%)を大きく引き離す。(図を参照)この巨大M&Aを産業の独占を規制するアメリカとEUの公取がどう判断するかという大きな問題があるが、放っておけば中国人に買われるのが関の山ということで認可される可能性は少なくない。近年、世界のビール業界は再編に向けた動きが目立っていた。「バドワイザー」と「ミラー」の合従連衡は再編のクライマックスであり、しばらく余波が続きそうだ。

日本国内ではアサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの4社が熾烈な競争を繰り広げてきたと言われるが、世界シェアで見ると地ビールなどと同じく「その他」に分類されるレベルにすぎない。キレやのど越し、ゼロだ、フリーだとテイストや健康志向をきめ細かに追い求めてきた日本のビールのイノベーションは世界一だろう。オーストラリアで日本のノンアルコールビールのブラインドテストをやったら、普通のビールとの違いがまったくわからなくてオーストラリア人が舌を巻いたそうだ。糖質ゼロやプリン体ゼロで、しかも美味しいビール系飲料を一生懸命開発しているのは日本のメーカーぐらいのものである。

そうやって国内市場で熾烈な競争を繰り広げて、ふと気が付けば世界はグローバル競争で一変、グローバル化に完全に乗り遅れた日本勢は今さら手も足も出ない――という業界は案外多い。ビール業界はその代表格なのだ。

かつてアサヒビールがオーストラリアのビール最大手フォスターズの株式を20%弱保有していたことがあった。樋口廣太郎さんが社長だった時代で、カナダ最大手のモルソンの買収まで視野に入れていたのだ。だが当時はキリンと激しく鍔競り合いをしていて、買収先の経営に送り込む人材も乏しく、結局は樋口さんの後継者たちがフォスターズの株式を手放してしまった。

海外M&Aで同業他社に先行してきたのはキリンで、ニュージーランドとオーストラリアで過半のシェアを持つライオン・ネイサンを完全子会社化している。フィリピントップシェアを持つサンミゲルや(今は泥沼となっている)ブラジルのスキンカリオールを買ったり、昨年あたりはミャンマーの最大手を買収している。しかし、なかなか利益に結びついていない。

今や世界最大のビール市場である中国に日本勢で最も早く参入したのがサントリーで、12年には中国2位の青島ビールと提携して合弁会社を設立、上海、江蘇エリアのビール事業を請け負った。だが目立った業績は残せず、昨年には合弁を解消。結局は中国に入り込むことを断念した。中国市場のスケールは確かに魅力的だが、華潤雪花、青島など現地の大手メーカーがM&Aを梃に巨大化し、さらにアンハイザー・ブッシュ・インベブ以下の欧米勢も本格参入して市場をガッチリ固めつつある。日本勢が入り込む余地はほとんどない。

同じことはビール消費を伸ばしている他の新興国にもいえる。たとえば、ロシアの若者はウオツカからビールにシフトしており、そこにはカールスバーグがガッチリ食い込んでいて、「バルチック」という現地ブランドが圧倒的な人気を得ている。ハイネケンにしても技術提携や資本提携で自社ブランドと現地ブランドのビールを世界中で売りまくっている。母国はいずれも小さい。ハイネケンはオランダ、カールスバーグにいたっては人口約600万人のデンマークだ。生き残るためには海外に打って出るしかないわけで、国内でパイを取り合っても商売が成り立つ日本のメーカーとは腰の入り方が違うのだ。

日本国内に追い詰められた食品メーカー

日本の食品会社で一番大きいのは味の素で、売上高は1兆円以上。創業間もない1910年に台湾に進出し、戦後も50年以上前からタイやフィリピンなどの新興国にいち早く進出してきた海外事業の売上高比率は今や5割を超えている。世界化の苦労をいろいろ重ねてきた味の素で売上高がようやく1兆円なのに、世界には10兆円規模の食品メーカーが沢山ある。世界最大の食品会社はネスレだが、これがアメリカではなく800万人の胃袋しかないスイスの企業というのがまた面白い。

昨年10月、ハウス食品が「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する壱番屋を株式公開買い付けで買収すると発表した。「CoCoイチ」は日本最大手のカレー専門店チェーンであり、海外にも積極的に店舗展開している。海外で日本式のカレーを広めて、そこからレトルトパウチの販売につなげるのがハウスの狙いだろう。この買収で海外事業強化の目途が立ったハウス食品で売上高は2000億円程度。そのハウスと国内で死闘を演じてきたエスビー食品はといえば、売上高1200億円で時価総額はたった330億円。これではハウスのような買収もできない。M&Aの唯一最大の武器は時価総額であり、これが使えなければ世界化は難しい。つまり日本国内に追い詰められてしまうのだ。エスビーはもともとスパイスの会社だが、この分野で世界的に強いのは米マコーミックだ。実は20年前、マコーミックはハウスと同じくらいの売り上げ規模だった。それが今や倍以上の差がついている。この20年、マコーミックが何をやっていたかといえば、ひたすら海外で同業者を買収してきた。買収に次ぐ買収で売上高5000億円。

しかも利益率は28%と高い。ハウスやエスビーの利益率は5%もない。国内でミクロの戦いをしているときは巨大流通企業に買い叩かれる。利益率5%しか出ないが、それでも生き残ることはできる。しかし、海外に出ていくなら利益率が20%以上なければ、資本市場から資金を調達できないので買収を繰り返す力は出てこない。

ミツカンとカルビーに学ぶ逆転戦略

日本の食品会社で一風変わっているのがミツカンとカルビーだ。ミツカンは売上高1000億円くらいだったが81年から主としてアメリカで小規模な買収を繰り返し経験したうえで14年には2150億円もの大金をはたいてユニリーバからラグーとベルトーリというパスタソースの有力ブランドを買収している。今や海外比率がちょうど半分になっている。

カルビーは創業者の死去をきっかけに外部から社長を招いて同族経営をやめた。09年には米ペプシコの出資を仰ぎ、ペプシコがカルビー株の20%を保有する一方で、カルビーはペプシコの全額出資子会社を買収。同時にジョンソン&ジョンソン日本法人の元社長松本晃氏を会長に迎えて、ファミリー経営からアメリカ式の経営スタイルに完全に生まれ変わった。日本では珍しいタイプの食品メーカーである。ペプシコは全米1位のスナック「フリトレー」などの商品を豊富に取り揃えている。カルビーとしてはペプシコのノウハウを吸収するのみならず、あわよくばペプシコの流通網で自社のスナックを世界中に売ってもらう狙いもあったのだろう。ペプシコとの提携効果もあって、同社の業績は好調に推移している。

日本企業は外資から目をつけられることを極端に嫌がる傾向が強い。米投資ファンド、スティール・パートナーズがブルドックソースやサッポロビールの買収に動いたとき、経産省までしゃしゃり出てきて意地悪をした。ペプシコが提携したがっていた日本企業はいくつもあったが、皆逃げ回って、自ら申し出たのはカルビーぐらいのものだ。

時価総額が圧倒的に少ないエスビーなどはカルビーに学んだほうがいい。マコーミックに資本を入れてもらって、マコーミックの販売チャネルで自社製品を世界に売ってもらうくらいの発想でいいのだ。エスビーにはいい商品がたくさんある。たとえば日本のワサビは世界でも人気が出てきているのだ。一歩後退、二歩前進のつもりで、20%程度の株を持ってもらう。そういうやり方をしなければ、世界化の端緒にもつけない。

考えてみれば、本当の意味で世界化できた日本の消費者商品は自動車と複写機・プリンターくらいしかない。一世を風靡した家電やOA機器にしてもチャイワン(中国+台湾)にやられて総撤退。CPG(Consumer Packaged Goods)と呼ばれるコンシューマー商品にいたっては、国内の狭くて深い穴の中で芸の細かい競争をしているうちに、世界のマーケットはM&Aを勝ち抜いた巨大プレイヤーにほぼ占められてしまった。穴から這い出したくても、今さら出られないのが現状だ。

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