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黒田イニシャティブ世界を救うか

(1)  世界に先駆ける黒田イニシャティブ

世界株安底入れの曙光が

1月の急激な世界株安を経て、世界の中央銀行は協調的危機対応、という新たな段階に入っていくかもしれない。それは一段の世界的金融緩和を促進することになる。春先以降は原油価格下落のプラス効果により先進国経済成長が加速することも期待され、世界株式の急反発の可能性が浮上してきた。そうなると投資家はこぞって見込みある投資対象を模索し始める。日本株はそうした時に最も有望な投資対象の一つとして浮上し得る。

際立つ黒田イニシャティブ

この世界的危機管理作戦において、黒田日銀総裁のイニシャティブが際立つ。第一に、マイナス金利導入という「奇策」を打ち出し、日銀の無能化説を打ち消し、かつ世界的金融緩和を先導したこと、第二は、中国の資本逃避加速を阻止するために、資本規制の導入を提唱したことである。

中国危機の発現により現在の世界経済の最重要リスクは依然としてデフレであり、先進国中央銀行の最大の任務はデフレ回避であることが鮮明になった。その際、デフレの病が最も深刻で、対デフレ戦争の経験が最も豊富な日本が先導を務めることは自然である。とは言え、黒田氏の覚悟に基づく大胆さも敬服に値する。「諸悪の根源はデフレであること、デフレの制圧はどのような犠牲を払っても実現するべきであること」に照準を絞り、目的合理的にことを進める。政策決定会合での票決が5対4であっても動じないリスクテイキングこそ、黒田氏が金融市場と共有したいスピリットなのであろう。それは平時ではなく対デフレ戦争という戦時の司令官に求められる資質であろう。

(2)  「コロンブスの卵」になるか、QEと負の金利との併用

評価が低いマイナス金利

今回の日銀の金融緩和政策は、2015年後半から始まった投機筋の市場売り崩しに対しての、先進国の中央銀行としての初めての対応である。今後日銀に続きECB、FRBが協調的金融緩和姿勢を鮮明化するだろう。ドラギECB総裁の3月追加緩和を示唆しているが、FRBも従来の利上げ路線を後退させるものと思われる。

マイナス金利導入に対する批判は多い。各社の社説は「マイナス金利、苦しまぎれの冒険に」(毎日新聞)、「マイナス金利導入、日銀頼みの限界忘れるな」(産経新聞)、「マイナス金利、効果ある政策なのか」(朝日新聞)、「日銀頼みにせず市場安定へ協議を」(日経新聞)と批判的であり、唯一肯定的なのは読売新聞「日銀追加緩和、脱デフレの決意示す負の金利」だけであった。実際、最近まで黒田総裁自身がマイナス金利には否定的であった。そして黒田氏の会見においてもマイナス金利の波及経路を述べるよりは、「金融政策の詳細を国民が理解しないと効果がないということではない。重要なことは物価目標に向け、必要なことは何でもやると示すことで人々のデフレ心理の転換を進めることだ」、と心理に働きかける説明に重点が置かれていた。いみじくもフィナンシャル・タイムズ紙は「Kuroda reasserts deflation-fighting stance 」とその戦闘姿勢を評価している。金融政策(量的金融緩和)では経済は回復できない、デフレ脱却できないという、諸々の批判を断固として認めるわけにはいかないとの、原点に戻ったのである。

マイナス金利が意外に有効である可能性

とは言え、コロンブスの卵かもしれないが、マイナス金利は意外に大きな効果があるかもしれない。第一は、究極の安全資産としての日銀当座資産からの資金の押し出し効果である。

これまでの量的金融緩和批判論の論理の核は、借り手が(経済の先行きに自信が持てず)借りる気がないのに、マネーの供給量を増やしても無理、という論理である。確かに量的金融緩和が当初の狙い通りに進展しているとは言えない面がある。当初の期待は、投資家や金融機関が保有する国債を日銀が買い、投資家や金融機関は国債保有を減らした分、他のもっとリターンの高い資産保有や貸付を増やせば、リスク資産に資金が回り投資増・資産価格上昇・インフレ期待上昇という好循環が生まれるというもの(ポートフォリオリバランス)であった。しかし、消費税増税による成長のとん挫、中国危機の発現、世界的株安と円高観測の台頭などの環境変化があったと言いえ、投資家ポートフォリオのリスク資産への押し出しは行き詰まりをみせている。国債売却代金がそのまま日銀への当座預金として滞留しているのである。当座預金に対するマイナス金利の導入は、この滞留資金をリスク資産や貸し出しへと押し出す効果があると期待される。

第二に、金融緩和拡大の手段が格段に広がったことが指摘できる。量的金融緩和は、流通国債の3割以上を日銀が保有することになり、買い増しの余地がなくなりつつあるとの観測があった。ETFやREITなど国債以外に日銀が買っていた資産は池の中の鯨に例えられるごとく、流通市場の規模に比し日銀保有が著しく大きくなっている。それに対してマイナスの金利は当初は0.1%からスタートするが、いくらでも上げることは可能である。中央銀行が無限の弾丸を保有していることによる威圧感は大きく高まる。

第三に、マイナス金利は自動的に金利構造を変化させ、投資家の採算変化に影響を及ぼすので、量的金融緩和の実効性は大きく高まるかもしれない。第四に、黒田日銀総裁の失敗や副作用を恐れない大胆な姿勢は、市場心理を大きくリスクテイクに誘導するだろう。無限の弾丸を持つ日銀の覚悟が鮮明である以上、リスクアバーターはポジションを落とさざるを得なくなる。

マイナス金利により当座預金からの資金の流出が起これば、マネタリーベースの縮小をもたらし、インフレ期待が弱まる懸念もある。その場合、国債買い入れ額の増加が必要になる。あくまでもマイナス金利は量的金融緩和との併用により効果を高めていくのではないか。

(3)  資本規制に初めて言及した黒田総裁、中国危機封じ込めにイニシャティブを

中国危機管理に資本規制提案

黒田氏はまたダボス会議において、「中国は通貨を守るため資本規制を使うべきだ、とタブーを破る発言をした」(1月28日FT紙)。「その発言に対する同意を聞かれたラガルドIMF専務理事は、直接の回答をかわしつつも、中国が人民元の価値を維持するために外貨準備を使い果たすことは賢明でない、と述べた」(同)。ダボス会議ではメキシコ中銀総裁や、一部の研究者が新興国の危機に際しては資本規制など非常識的手段が必要だという議論が出された。

黒田氏の議論は規制緩和と透明性ある通貨、外貨管理運営、市場原理の尊重を基本としつつも、リーマンショック時に見られたような危機封じ込め策、つまりContingency Planにおいては、資本規制が有用だというものであろう。当然、黒田氏の思案の中には、中国において資本流出危機が深刻化しているという認識があったはずである。

1月12日のロイターは「どちらが提案したかは不明だが、日銀と中国人民銀行が通貨スワップ協定の締結交渉をしている」と報じている。日本円と人民元の通貨スワップ協定はアジア通貨危機後の2002年にスタート、日中関係が悪化した2013年に期限切れとなっていた。水面下で日銀による支援体制が進展していることをうかがわせる。

ダボス会議ではジョージ・ソロス氏が「中国のハードランディングは不可避」と発言し、人民元や香港ドルなどのアジア通貨売りを宣言した、と伝えられる。それに対して中国共産党機関紙人民日報や、国営新華社通信は、「中国はハードランディングしない、人民元売りは失敗する」と応酬している。まるで デジャヴ、1997年アジア通貨危機当時のマレーシアのマハティール首相とソロス氏との応酬の再現である。ただし今回の違いは、投機筋の中国人民元売りが功を奏したら、中国経済の巨大さ、とその4兆ドルに上る対外債務の巨大さから容易に世界金融危機が巻き起こされる、ということである。

当面、中国当局の介入と限定的な資本規制により人民元相場は小康状態である。しかし急減する外貨準備、急増している資本流出に歯止めがかからなければ、人民元の先安観は強まるばかりであろう。2014年6月にピークを付けた外貨準備高の減少傾向には歯止めはかからず、むしろ加速、2015年12月は単月で過去最高の1,079億ドルの減少になった。中国の最近の経常黒字は月平均200億ドル程度なので、差し引き月間1,300億ドル程度の純資金流出が起きているのである。2014年6月から2015年12月末までの18か月累計では、外貨準備高減少6,600億ドル(3.99兆ドル→-3.33兆ドル)、経常黒字額4000億ドル(推計)、合計で1兆ドル以上の巨額資本流出が続いているのである。①中国人による対外直接投資の増加、②外国人による対中投資の回収、③中国人の対外資本逃避、等が考えられるが、中心は②と③、つまり急速に中国から資本が逃げ始めているのである。

いま加速しつつある株安(資産価格下落)、通貨安、資本流出はまさしく1997年のアジア通貨危機を引き起した3点セットである。中国発国際金融危機回避のための、緊急策(Contingency Plan)策定が急務となっている。黒田日銀に期待される役割は大きい。

もっともよりラディカルな資本コントロールの導入、本格的中国危機の封じ込めが整備されるには、中国の国内ポリティクスなど乗り越えるべき障害は、大きい。前回レポートした中国「毒(toxic)」の遮断は未だ不確かである。シートベルトを、締め続けることは必要であろう。

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