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【提言】これまでのパチンコ政策の4つの課題、課題の解決に向けて。

パチンコは“依存症ビジネス”──必然的に必要となるアクセス制限政策


パチンコ政策、4つの問題と課題

ここ十年来、パチンコの売上は減少し続けている。その対策としてパチンコ業界は、あいも変わらず射幸性を高める方向をとってきたため、いまでは短い時間で1万円札を幾枚も使う遊びになってしまった。市民の娯楽からはまた一歩遠ざかり、また客が減る悪循環にある。利用者が減っているのに、売上があまり下がっていない理由は、一定のヘビーユーザーによって支えられているからである。パチンコは“依存症ビジネス”という性格を帯び始めている。

以上を踏まえてギャンブル依存症のための対策を考える基礎として、問題の全体像をまとめてみよう。 第一に、これまでのパチンコ政策における主要課題は、日本社会がパチンコを庶民の娯楽として受容している現状を認めたうえで、これと賭博罪との線引きを行うことにあったのであり、必然的に大がかりな警察行政の体制を生み出してきた。戦後の風営法を一新させて1984年に成立した風適法は、その政策立案の価値原理として、①射幸性の限度内の維持、そして②少年の保護を置いている。①については前章でみたが、②については、パチンコホールの従業員は18歳以下と思われる客に気づいたときは年齢を確認しなくてはならない。

第二に、21世紀社会に入って、個人の楽しみや時間消費の形は一段と多様化し、競合するサービスも著しく増え、若者はパチンコに興味をもたなくなった。これに対してパチンコ業界は、さらにギャンブルの魅力を考え出すか、これとはまったく別に、時間消費のサービス産業として女性・年金受給者・高齢者などを対象にした1円パチンコ(貸玉料は1個4円以下ならいくらでも可)という、ふたつの方向を模索してきている。このことは、かつては労働者やサラリーマンの一時の娯楽として社会に浸透したパチンコが、ポスト産業社会における余暇産業としての地位をめざすことであるが、それはまた新たな社会的弱者をギャンブル依存症の危険にさらすことでもある。

第三に、1980年にアメリカ精神医学会がギャンブル依存症の診断基準を提示して以降、病的ギャンブルを精神疾患の一類型とする考え方が確立し、世界的に広く浸透した。ただし現在の日本の医学界は、行動学的診断による疾病を全面的に認めるのには消極的である。しかし、他方で日本では、パチンコによるギャンブル依存症が純粋な形で多数現われていることを示すおびただしい証拠がある。

第四に、以上を踏まえると、賭博罪との線引きのうえに組み立てられてきた現行のパチンコ規制は、ギャンブル依存症問題の対応策としては、まったく不十分であるという結論に達する。新たに採用すべき政策論的な価値原理は、①ギャンブル依存症の予防・早期発見・治療・ケア・救済と、②安全な余暇サービスを享受するための消費者保護、のふたつになる。

タバコ規制との類似

商品としてのパチンコの魅力は、本質的にギャンブル性を拭えないものだとすると、一面でタバコ規制の歴史と似てくる。かつて、挨拶代わりに「1本どうですか」と言うのが常識であった時代があった。しかし20年以上前から「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と表記することが義務づけられ、いまでは喫煙が許される空間は厳しく制限されるまでになった。

パチンコ規制のための新しい政策的な価値原理のなかで、消費者保護については、パチンコのめり込みを注意するステッカーが貼られるようになり、安全な商品の提供という原則は、少しずつだが認められてきている。

しかし、ギャンブル依存症が深刻な疾病であり日本社会に大きな影響を与えているものであるという認識は、まだまだきわめて低い。この事実を社会に広く知らせ、ギャンブル依存症の予防・早期発見・治療・ケア・救済という角度から、パチンコ規制を現実のものとしていくためには、多くの説得力のある研究が必要となる。そのためにはまず、①日本におけるギャンブル依存症の実態を明らかにするための実証的研究と、②パチンコを世界のギャンブル産業のなかに位置づけ、そのなかでギャンブル依存症問題のための政策を組み立てることである。そしてその中心には、依存症の症状に応じたパチンコへのアクセス制限が置かれるはずである。

早期発見、早期介入。モデルとしてのスイス賭博法

この点で世界を見渡してみると、参考になるのがスイスの賭博規制の政策とその実績である。

スイスでは、賭博場開設を禁止していた憲法条項を1993年に廃止し、これを踏まえて1998年に、賭博法が制定された。こうしてスイスは20世紀末に、ギャンブル産業の導入を決め、これを導入するに当たっては、考えうる副作用を多面的に検討し、その最小化を図るための政策をとってきた。スイスの賭博法には、現代社会が特区を設けて賭場(日本ではこれをカジノと言い換えており、以下カジノとする)を運営する際に必須の、鍵となる政策が、ほぼすべて書き込まれている。つまりスイスは、現代におけるギャンブル政策のモデルと考えてよいのである。この法律にしたがって、2002年1月に21のカジノが開業し、一部改廃を経て、現在は19のカジノが運営されている。

ギャンブル依存症対策からみると、スイス賭博法の基本には、依存症を早期発見して早期に介入するという明確な原則が置かれている。これを踏まえて、その後の治療や自助グループへの参加などが法律のなかに細かく定められている。特筆すべきは、カジノには「社会的枠組み」(賭博法第73条)と呼ばれる、ギャンブル参加者の保護を目的としたプログラムを、個々に用意することが法律的に義務づけられていること、国レベルでギャンブルを統括・監視する委員会が置かれ、これとはまた別にギャンブル依存症問題に特化した諮問委員会が設けられていることである。

しかも、社会的枠組みには「入場停止」という措置がある。この仕組みを実施するために特別の登録簿が設けられ、ギャンブル依存症や、自分の経済力以上の賭けをする人など、いろいろな理由でギャンブル停止が相当と判断されると、この登録簿に名前が記載される。登録は自己申請も認められる。そしてここに名前があるかぎり、その人は、スイスの全カジノに入場できなくなる。これによる入場停止者数は、カジノ開設の直前に、すでに4559人が登録されていた。カジノが開始された後、毎年、3000~4000人が登録され、2014年末現在で4万3094人に達した(図4)。

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われわれの立場から注目すべきは、入場停止の理由の58%がスロット型のEGMであり、テーブルゲームとの合併も合わせると、78%にのぼることである(図5)。つまり日本のパチンコは、ギャンブルのなかでもとくに依存症を引き起こしやすい型のものであることが、スイスのデータでも実証されている。

国際的視点からわれわれが取り組むべき問題は次のように要約できる。日本のパチンコは、希釈されたギャンブル代用物内におさまるよう、風適法の管理下に置かれている異色のEGMであり、このEGMが、出入り自由のパチンコホールの形で全国に大量に設置されているのである。スイス賭博法において、カジノは「租界」という一般社会からは切り離された特区であり、スロット・マシンはこの中でのみ利用できる。

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今後に向けての提案──自助グループとの連携、課題明確化のため研究を推進

日本のパチンコが21世紀の余暇産業として生き残ろうとするのであれば、社会の側はそれを前提に、このサービス商品の特性であるギャンブル性を正面から見据え、ギャンブル依存症の予防を目的としたアクセス制限の仕組みを考え出すべきである。現在は18歳という年齢制限だけであるが、アルコールやたばこで採られてきているのと同様の、公衆衛生政策の一部として、国際水準に見合ったギャンブル依存症対策を組み立てることである。それは、ギャンブル依存症の予防・早期発見・治療・ケア・救済という目的に沿った形で、提供者と利用者の双方に対して制限を設けるものになるはずである。

時間がかかるであろうが、当面、われわれの活動目標は以下のふたつとする。

第一には、ギャンブル依存症の実態を明らかにし、並行してこの問題に関する世界の研究の現状を調べ、問題を俯瞰的に描き出すことである。また、ギャンブル依存症問題が日本社会にとって深刻なものであることを明らかにする実証的研究を鼓舞し、これらの成果を社会に向けてわかりやすいかたちで発信する。

第二に、ギャンブル依存症に対するもっとも確実な対応策である、さまざまな自助組織との連携を強化し、これらの活動を支持し、ギャンブル依存症のための社会的なセーフティー・ネットワークを張りめぐらすことをめざす。

これまでに『ビッグイシュー日本版』は、この問題でいく度か特集を組んできた。第59号「依存症をこえて:自助を支える人々と家族の物語」、第178号「セルフヘルプ:社会を回復する力」、第261号「ギャンブル障害:人間破壊に至る病」がそれである。『ギャンブル依存国家・日本:パチンコからはじまる精神疾患』などの著書がある精神科医・帚木蓬生氏を含め、ほとんどの医者は自助グループに定期的に参加することを奨めている。帚木氏は、ギャンブル依存症について「進行性の病で、完全に治癒することはないが、回復する(ギャンブルが止まった状態になる)ことは可能」で、当事者に「最も効くのは、ギャンブル症者の自助グループ『GA(ギャンブラーズ・アノニマス)のミーティング』」だと指摘している(『ビッグイシュー』第261号)。自助グル―プには、当事者を主体としたGAと、依存症の家族や友人を主体とした「GAM--ANON(ギャマノン)」のふたつのタイプがあり、前者は全国に154のグループ(2015年9月現在)が、後者は127のグループ(2015年3月現在)が活動している。

女性のためのリハビリ施設「ヌジュミ」も重要である。2014年の厚生労働省調査では、ギャンブル依存症の有病率は男性8.7%に対し女性は1.8%と、一見したところ低い。しかし、「女性は助けを求めにくく、顕在化しにくい」(『ビッグイシュー』第261号)のが現実である。「ヌジュミ」代表の田上啓子さんは、女性だけに限定した理由を、こう語っている。「ギャンブルにはまるのは寂しがり屋の人。男性参加者の身の上話に同情して男女関係に陥ると、そこから男性への依存が始まってしまう。加えて、ギャンブル障害は人間関係に起因する病ですから、背景にある出産や育児、夫婦生活、介護、身体のことなど、女性ならではの悩みは男性がいないほうが正直に話しやすいんですね」(同上)。

言うまでもないことだが、ギャンブル依存症問題に取り組んでいるのはビッグイシュー基金だけではない。この深刻な問題を少しでも緩和させる目的で広範な努力が積み重ねられてきており、ビッグイシュー基金は、これら多くの活動と連携し、ともに生きるネットワークをより強靭なものにするために、力を注いでいく。

(ギャンブル依存症問題研究グループ:澤正輝、八木孝之、米本昌平、水越洋子、佐野章二)

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