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特集:台湾の選挙と米国の選挙 in 2016

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1月15日から17日にかけて、台湾の選挙を見物してきました。結果はご存じの通り、野党・民進党の大勝利。初の女性総統となる蔡英文氏が大差で当選し、立法院選挙でも民進党が単独過半数を獲得しました。劇的な結果でしたが、現地で体感した選挙戦の熱気は以前ほどではなく、台湾の民主主義が静かに成熟しているように見受けられました。

他方、今年行われるもう一つの選挙、米国大統領選挙は来週からいよいよ予備選プロセスが始まります。こちらは民意が収斂するというよりも、むしろ両極端に分かれる傾向になっています。よく似た2つの選挙、2つの民主主義を比較してみました。

●シンクロする2つの選挙

うるう年、もしくはオリンピックイヤーに必ず行われる選挙が2つある。台湾と米国である。2つの選挙は、非常によく似たシステムで運営されており、なおかつ結果も連動しているように見える。

○よく似た2つの選挙

吉崎達彦
米国大統領選挙は、18世紀から続く世界最古の選挙システムである。これに対し、台湾における民主的な総統選挙は1996年から始まり、その歴史はわずか20年に過ぎない。それ以前は、中華民国の最高機関たる「国民大会」において総統が選ばれていた。それを李登輝総統の時代に民主化したのだが、米国に似た形で制度設計が行われたらしい。

 2つの選挙には、以下のような共通点がある。

* 投票は4で割り切れる年(うるう年)に実施。台湾は年初(1~3月)に、米国は「11月の第1月曜日の次の火曜日」に投開票を行う。

* 大統領(総統)の任期は4年。最長2期8年まで。近年は8年ごとの政権交代が多い

二大政党制(米国は民主党と共和党、台湾は国民党と民進党)。

* “Ticket”と呼ばれる正副の大統領(総統)をペアで選出する。

* 総統の就任式は5月20日、大統領は翌年1月20日とそれぞれ引き継ぎ期間がある。

* 議会選挙も同日に実施する(台湾の立法院選挙は、以前は別々に行われていたが、2012年から同日選で実施するようになっている)。

* ポリティカル・アポインティ(政治任用制度)があって、政権交代があると政府の高官たちも入れ替わる。台湾の場合は、電力会社などの政府系企業も含めて5000人くらいが交替すると言われている。

米大統領選挙といえば、本誌にとっては古くからの「定番ネタ」だが、台湾の選挙についても過去に何度も取り上げている1。それというのも、米国と台湾の選挙がどうしても重なって見えるからである。

 特に二大政党が激しくぶつかり合う点が米国流で、中国寄りの国民党がブルー、台湾本土派の民進党がグリーンとシンボルカラーも決まっている。島の北部は国民党が、南部は民進党が強いという「地域差」もあって、かつては島を二分する過激さで選挙戦が行われていた。投票日の直前に、候補者が狙撃されるという事件が起きたこともある。そうかと思うと、まことに今日的で洗練された選挙戦術が展開されていたりもする。

そして今年は6回目の総統選挙となったわけだが、台湾政治は早くも3回目の政権交代を迎えることとなった。こういうとき、歴史の浅い民主主義国では得てしてトラブルが生じるものだが、台湾では僅差の票数で決まった際にも秩序は保たれている。

そして前頁の表の通り、台湾と米国の選挙結果は「8年ごとの政権交代」でシンクロしている。もしもこのジンクスが今年も健在であるならば、米大統領選挙は共和党の勝利ということになる。もっとも、台湾で「史上初の女性総統」が誕生することになった点に注目すれば、ヒラリー・クリントン候補の勝利を予言しているようでもある。

●2016年台湾選挙の地殻変動

そんなわけで台湾選挙をどうしても見たくなり、2泊3日で台北に乗り込んでしまった。余談ながら筆者は、2008年選挙は台北経済文化代表処の招きで投開票を視察したし、2012年選挙はテレビ東京『未来世紀ジパング』の台湾報道編でレポーターを務めている2

ところが前2回の選挙に比べると、2016年選挙における現地の熱気はかつてほどではなく、やや拍子抜けする感があった。論より証拠、かつては8割を誇った投票率の低下がそのことを物語っている。

○選挙結果

1.総統選挙~めずらしい大差の決着
*蔡英文-陳建仁(民進党) 6,894,744票、56.12%=当選
*朱立倫-王如玄(国民党) 3,813,365票、31.04%
*宋楚瑜-徐欣瑩(親民党) 1,576,861票、12.83%

2.立法院選挙~民進党が単独過半数を超える
吉崎達彦


3.投票率の推移~かつての8割から減少傾向
吉崎達彦


事前の世論調査で「蔡英文優勢」が伝えられていたこともあり、「今回は民進党が立法院選挙で勝てるかどうかが焦点」と言われていたのだが、それもあっけなく単独過半数を超えた。台湾の選挙においてはめずらしい「地滑り型勝利」である3

今回の選挙では、2014年春の「ひまわり運動」で名を馳せた学生たちが、「時代力量」(New Power Party)という政党を結成して国政に挑戦した。彼らは馬英九政権の「中台サービス貿易協定」に抗議して立法院を占拠したのだが、いきなり5議席を獲得した。これも民進党の補完勢力になるものとみられている。

従って、5月20日に発足する蔡英文政権は、きわめて安定した政権基盤を持つことになる。以前の陳水扁総統(2000年~08年)が、立法院での少数という「ねじれ」に苦しんだのとは対照的である。

●投票で示された民意とは?

かくも圧倒的な支持で選ばれた蔡英文総統は、今後の政策として何を推進するのか。公約としては、「世代間正義の実現」「政府の効率性改革」「国会改革」などの5大計画を掲げている。経済政策では「安心住宅」「食品安全」「地域介護」「年金永続」などを標榜し、さらにはTPPとRCEPへの参画を目指すことになっている。

しかし大陸との関係については、はっきりした言い方を避けている。特に、馬英九政権が認めた「92年コンセンサス」(≒ひとつの中国原則)への態度は、今後の注目を集めることになるだろう。こうした「あいまい戦略」は、選挙戦では国民党の朱立倫候補から攻撃を受けたが、致命傷とはならなかった。それというのも、中国との関係を「あいまい」にしておくことこそ民意だったのではなかったかと思うのである。

今回の立法院選挙では、大陸との統一を目指す「新党」と台湾独立を目指す「台連」という左右の.数政党がゼロ議席に終わっている。これまた一種の地殻変動というべきで、「統一か、独立か」というかつての台湾選挙の対立軸は、リアリティを失っている。統一は論外だし、独立も怖い。今や「現状維持」以外の選択肢は考えにくくなっている。

特に若い世代にとっては、「台湾が独立しているのは当然のこと」(天然独)である。「本省人か、外省人か」という問いかけも、親の世代にとっては命懸けの問題であったが、彼らにとっては「ご先祖様はともかく、今は皆、台湾生まれの台湾育ち」である。

選挙で投票することも、ごく自然な権利のひとつに過ぎない。そういう彼らの関心事は経済問題であり、日々の生活である。そして「20年間賃金が上がっていない」、ところが「住居費を中心に物価は上がっている」という現実がある。

あらためてチェックしてみると、近年の台湾の経済成長率は2.1%(12年)、2.2%(13年)、3.9%(14年)と低調である。そして昨年は、四半期ベースで2.4%(Ⅰ)~▲4.5%(Ⅱ)~▲1.2%(Ⅲ)で推移している。つまり昨年春以降は、中国経済減速の影響をまともに受けて、台湾経済はマイナス成長に陥ってしまった。馬英九政権は対中接近策で景気浮揚を目指したわけだが、逆に中国のお陰で景気が悪化する状況になっていた。「これ以上の対中接近にノー」という結論になるのは、自然なことだったと言えるだろう。

それでは今後の対中関係をどうするのか。たぶん有権者は「ノーアイデア」であって、とりあえずは国民党政権にストップをかけたことに満足しているのではないだろうか。

かつては島を二分する大騒ぎであった台湾の選挙も、総統選が6回目、政権交代は3回目ともなると、どんどん普通のことになってきた。無党派層も増えたし、棄権も増えた。今回は少なからぬ数の国民党支持者が「家で寝ていた」模様である。が、その結果として「明らかな民意」が示され安定政権ができるのなら、一概に悪いことでもないだろう。

ともあれ、こんな風に二大政党制が機能しているのであれば、台湾の民主主義はある意味、日本以上に進んでいると言えるかもしれない。

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