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ミャンマー支援の一層の強化を

(産経新聞【正論】2016年1月28日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 


昨年11月の総選挙で最大野党・国民民主連盟(NLD)が大勝したミャンマーの新政権の発足が目前に迫った。次期大統領の候補者名はまだ明らかになっていないが、誰が大統領になろうと新政権の最大の課題が国民和解と民主化、経済発展にあることに変わりはなく、日本に対する期待も極めて大きい。

和らぐ国軍の警戒感



大勝したとはいえNLDが国軍や官僚機構の協力なしに政権を運営するのは難しく、アウン・サン・スー・チーNLD議長も総選挙後、まずは国軍との和解を目指し、手を打ってきた。
昨年12月には自らを15年近く自宅軟禁した旧軍政のトップ、タン・シュエ元国家元首に会い、「過去を問わない」と伝え、NLDの支持者に対しても敗者となった現政権関係者への心遣いを求めた。

昨年10月、15の少数民族武装組織のうち8組織が停戦協定に応じたのを受け年明けに首都ネピドーで開催された連邦和平会議の開会式でも「一部とはいえ停戦が実現したことに感謝する」とテイン・セイン大統領や国軍に対する配慮を見せた。

一連の言動に、スー・チー氏に対する国軍の警戒感も和らぎ、テイン・セイン大統領も総選挙の成功を「ミャンマー民主化のマイルストーン」と位置付けた上、「政権移譲を秩序正しく行う」と表明している。

少数民族、とりわけ停戦協定を見送った7組織との和解はNLDの勝利、さらに「国民和解を最優先課題とする」としたスー・チー氏の発言を受け、双方の歩み寄りに拍車が掛かりそうだ。
しかしコーカン族やワ族、さらにイスラム系のロヒンギャといった15組織とは別の存在もあり、国際社会は性急な結論より、長い目で見守る姿勢が必要だ。

全民族との和解は、今も建国の父と慕われるスー・チー氏の父、アウン・サン将軍の夢でもあった。少数民族の自治権の拡大や連邦制度の在り方など難問も多く、筆者もミャンマー国民和解担当日本政府代表として一層の努力をしたい。


スー・チー氏の指導力に期待



「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーへの各国の外交攻勢は今後、激しさを増す。特に隣国・中国は長い間、軍事政権とも親密な関係にあり、2011年に棚上げされた中国資本によるミッソンダム(北部カチン州)開発など懸案問題も多い。昨年6月にはスー・チー氏が中国を訪問、習近平国家主席と会談しているが、どのような話が交わされたのか、ベールに包まれたままだ。

スー・チー氏は父に対する国民の尊敬、長年、軍政と闘ったカリスマ性を生かしNLDを大勝に導いた。しかし憲法が定める資格条項の制限で今のままでは大統領になれない。

大統領は上院、下院と両院の4分の1を占める軍人議員から計3人の候補者を出し、連邦議会の全員投票で決まるが、2月1日の議会召集を前に、いまだに候補者名が公表されていないのは、スー・チー氏の立場をどうするか、憲法との兼ね合いも含め、検討されているのが一因とみられる。

ミャンマーでは、資格条項を凍結して大統領に就任する、といった“うわさ”も流れているようだが、スー・チー氏は「私がすべてを決める」とも述べており、いかなる結果になるにせよ、スー・チー氏がこの国を引っ張っていくのは間違いない。

スー・チー氏は1980年代に京都大学東南アジアセンターの客員研究員として来日した経験もあり「民主化を進める上でも日本を見習うべきだ」との考えを持つ。


積極的平和外交のモデルに



日本は欧米各国が経済制裁を行った軍政時代も含め長い間、人道支援に取り組み、民政化後も3千億円を超す債権を放棄する一方、 政府開発援助(ODA)を通じた手厚い支援を続け、各国の債権放棄にも筋道を付けた。

今月23日にはNLDの経済委員会メンバー15人が日本財団の招待で各国に先駆け日本を訪問、財務省や日本銀行、金融庁などを視察、意見交換を進めている。日本に対する信頼の高さを示しており、日本外交の特筆すべき成果と言っていい。

与党・連邦団結発展党(USDP)が大敗したとはいえ、テイン・セイン大統領は政権発足後わずか5年間で国際社会も驚く民主化、経済発展を実現した。インド、中国という巨大市場に隣接するミャンマーは、アジア最貧国から豊かな国へ脱皮する大きな可能性を秘める。スー・チー氏が現政権の路線を継承・発展させ、豊かな国づくりを進めるよう期待する。

総選挙と前後して、一部メディアは政権による不正選挙や、大敗に反発した軍が動く可能性を指摘した。この国ではこのような事態がもはや、起こり得ないところまで民主化が進んでいる。

日本は引き続き、ミャンマーに手厚い支援を続けるべきである。それが、安倍晋三首相が目指す積極的平和外交のモデルともなる。

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