- 2016年01月27日 00:00
脳インプラントに「光」のアプローチ ハイテク治療法にも
かつて脳は「ブラックボックス」と考えられていた。脳という体内器官はあまりに謎めいていて、脳が何をしているか人間行動の観察によって推測できるだけだと考えられていた。脳のアウトプット(データを処理して出した結果)とグリッチ(ノイズ)を記録できるかもしれないが、そのコードは決して解析できないと考えられていた。だが今や科学者たちは、脳に電気化学的な会話をさせる段階にずっと近づいている。そしてそれは、脳卒中や視力喪失、老人病など各種の疾患に対する新時代のハイテク治療法につながる可能性があるのだ。
このような脳との会話には2つの側面がある。神経科学者たちは1つめを「writing in(書き込み=脳に情報を送る)」、2つめを「reading out(読み出し=脳から出された指示を理解する)」と呼んでいる。われわれ人間の五感は通常write inに当たる。それは周囲の世界から情報を収集して脳に送る。すると脳がそれを解釈する。
これまでのところ、人為的な技術を通じて脳内に情報を送り込むことは、「不正確な科学」だった。
研究者はしばしば脳を森にたとえる。ニューロン(神経細胞)が木のように密集しているからだ。ニューロンにはそれぞれ軸索があり、細胞体から木の根のように伸びている。ニューロンのコミュニケーション(やりとり、連絡)は、シナプスと呼ばれる電気化学的な結合を形成したり、断ち切ったりすることで行われている。ある神経細胞の軸索から次の神経細胞の樹状突起に情報を渡すのだ。樹状突起は小枝に似たようなものだ。
ごく初期の脳インプラントの中には、電極を使って脳を刺激するものがあった。例えば米食品医薬品局(FDA)は2002年、パーキンソン病に伴う震えに対してこのような装置を承認した。しかし、人工神経研究の草分け的存在であるスタンフォード大学のクリシュナ・シェノイ博士は電流を川になぞらえて、こう指摘する。「水の流れを制御できなければ、どの木に水を届けられるかも、どの根が最も多く水を吸収するかも分からない」。そこで、あまりに多くの種類の神経細胞をやみくもに刺激すると、治療の効果に曖昧さが生じかねない。薬物にも似たような問題がある。
しかし、光はより正確に個々の細胞を刺激し得る。この新たな技術はオプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれ、科学者たちが熱心にその探究に取り組んでいる。そのアイデアはこうだ。まず遺伝子治療を通じ、光感受性タンパク質を細胞内に注入する。その後、インプラント(埋め込み)された光ファイバーを通じて伝えられる光のパターンによって、神経細胞を微妙に活性化ないし沈静化させる、という考え方だ。こういったパターンは、脳言語(brain’s language)の電気化学的信号をより正確にまねたものとなる。
シェノイ博士の研究所は現在、連邦政府から支援を受ける「ブレーンゲート」研究チームの一角として、思考によって制御される人工義肢を開発中だ。これは冒頭で言及した「read out」技術の一例だ。これらの極小の脳インプラントは人間の意図を読み取って人工義肢を動かす。人間は義肢が反応することを念じるだけで良い。同様のインプラントは、脳卒中や筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)でまひ状態になった人がコンピューターのカーソルを動かして意思疎通するのに役立つかもしれない。しかし、はるかに複雑な「write in」タッチ(触感)技術の開発(例えば、人工義肢がどのくらい物体を強く握っているかを患者自身が理解したり、他人の手のぬくもりを感じたりできるようにする)には、研究者たちにとって、脳に語りかけるもっと正確な方法が必要になるだろう。しかも光を通じて語りかけるのだ。
次世代インプラントは、いつか脳そのものの病気を治療できるようになるかもしれない。とりわけ老齢化に伴う疾患だ。このような病は人々の寿命が長くなるとともに多く見受けられるようになっているが、治療が途方もなく難しい。いつの日か、脳インプラントが脳卒中や神経変性疾患によって損傷を受けた分野を「当て布」のように継ぎ合わせて接続し、脳の健全な部分によるコミュニケーションを可能にする日が来るかもしれない。
(筆者のケーラ・プラトニ氏は「We Have the Technology(われわれにはこの技術がある)」の著者。最近ベーシック・ブックスによって出版された)
By KARA PLATONI
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