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患者には救われる権利がある――医療用大麻の有効性 / 「カンナビノイドの科学」監修・佐藤均氏、編集・新垣実氏インタビュー

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佐藤  基礎研究レベルなら、都道府県知事から許可を受けて大麻研究者免許を持っていれば実験も可能です。ただ、日本の法律では大麻草そのもの及び草・花から抽出した成分は人を使った臨床試験ができません。ですので、化学的にピュアなものを購入して基礎研究されている方は結構おられます。

新しい農業への期待

――カンナビノイドの利用による経済効果は大きいのでしょうか。

新垣 実際には製薬業界というより、大麻産業(ハーブとしての利用)における影響が大きいです。アメリカを例に挙げると医者が直接処方するのではなく、推薦状のようなものを書いてもらい、患者は自分自身でディスペンサリーというハーブの売店などで購入できます。医療機関にかかり薬を処方してもらうのに比べるとハードルが低く流通しやすいし、医療費の削減にもつながります。

医療用大麻は、アメリカでは2018年までに1兆円産業になると言われています。最も推進しているのはコロラド州です。コロラド州は年中気温が低く、木が育ちにくい気候で、さらにハリケーンの影響も受けやすいためハゲ山になっています。そのような土地で生産性のある植物をつくりたい、ということで大麻に目を向けたのです。

大麻はほとんど環境に左右されず、栄養のない土地でも育ちます。「これは日本でも新しい農業として活用できるかもしれない」ということで、いま北海道は産業用の大麻の規制緩和を国に陳情しているところです。また、日本では法律で認められている部位以外は全て捨ててしまいます。その中には燃料にもなるオイルや、医学研究に使える成分も含まれているので、これらも有効活用できるよう、働きかけているところです。

「無防備なままの流入」は阻止しなければならない

――日本でも、健康食品を扱う販売店などで輸入品の「CBDオイル」(CBDを主成分にした抽出液)というものを見かけます。これらはなぜ輸入と販売が許されているのですか。

佐藤 日本で売られているCBDオイルは茎と種子由来のものに限定されています。輸入に関しては「原料は大麻草のどの部位か」を証明する書類がないと違法となります。しかし、これらの多くは成分が国内で分析されないまま野放しにされているのが現状です。

我々は現在、カンナビノイド含有製品に含まれる成分の分析法を開発しています。成分が科学的に証明されていなければ商品としても成り立ちませんし、医者が使うこともできないからです。将来、日本でカンナビノイド医薬品が認められるようになったときに、分析条件を定めてきちんと測れるようにするために準備しているところです。

たとえば日本で手に入るCBDオイルに含まれる成分はTHCが□%、CBDが△%……というように、質量分析装置を使って分析をはじめています。精巧にどれだけの成分が入っていて、それが本当に安定的に存在できるかどうか。温度条件などによって分解してしまうもの、化学的に変化してしまうものもあるかもしれない。また、人間の体内に入った時にちゃんとそれが消化吸収されて血液中に入るかどうか、入った後はどうなるか。薬理動態学の分野での研究を進めています。

新垣 これから準備を進めておかないと、この先TPPの影響で海外からの医療用大麻の流入も起こりえます。もし海外から医療用大麻を買うよう圧力がかかってきた場合、日本は「法律で禁止されているから」といって拒否できるでしょうか。あるいは輸入するとなると法律はどうなるのか。そうした可能性も踏まえて、あらかじめ理論武装しておく必要があります。

両手を広げて大麻を推進しようというわけではありません。青少年時代からの摂取に関して、マリファナの成分は危険な面もあるので、医療関係者はその点もしっかり認識しておく必要がある。そして科学的データに基づいたルールを作り直さなければなりません。

リンク先を見る カンナビノイドの科学: 大麻の医療・福祉・産業への利用
出版社:築地書館( 2015-10-12 )
定価:¥ 3,240
Amazon価格:¥ 3,240
単行本 ( 215 ページ )
ISBN-10 : 4806715018
ISBN-13 : 9784806715016
画像を見る 佐藤均(さとう・さとし)
昭和大学薬学部教授 薬学博士・薬剤師

1959 年生まれ。
東京大学薬学系研究科(製剤学教室)修士課程修了後、金沢大学薬学部助手、富山医科薬科大学付属病院薬剤部助手、アメリカ国立衛生研究所(NIH)・癌研究所(NCI)奨励研究員、スイス・バーゼル研究所(Sandoz Pharma)客員研究員を経て、東京大学医学部助教授となる。
2000 年から昭和大学薬学部教授(臨床分子薬品学教室)。

画像を見る 新垣実(あらかき・みのる)
医師・医学博士

1959 年、沖縄県那覇市生まれ
1984 年、長崎大学医学部卒業
長崎大学医学部形成外科入局を経て1994 年に医学博士取得
中部徳州会病院形成外科部長を経て、1998 年にスキンクリニック新垣開設
2015 年現在、(医)新美会 新垣形成外科理事長
所属学会:日本臨床カンナビノイド学会理事長、日本形成外科学会専門医/国際形成外科学会正会員、 日本美容外科学会評議員/国際美容外科学会正会員、日本抗加齢医学会専門医、日本臨床栄養学会正会員、 日本統合医療学会正会員、日本臨床毛髪外科学会正会員、国際個別化医療学会正会員、NPO 法人分子整合栄養医学協会認定医

日本臨床カンナビノイド学会(JCAC)(Japanese Clinical Association of Cannabinoids)

世界で注目され研究が進むカンナビノイドについて日本で研究を進めていくために、医療従事者を対象として、2015 年9 月に設立。
現行法上の制限があるため、CBD に関する臨床研究および機能性食品としての評価からスタートする。
今後は日本国内でのカンナビノイドの研究者および関心のある医療従事者と連携して、特区制度を利用した臨床研究を計画している。
カンナビノイドの普及および研究に関心のある医師、歯科医師、薬剤師、看護師、研究者など医療従事者の入会を受け付けている。

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