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「生産性革命」に踊らぬ市場、諦めムード強く株安再開

[東京 26日 ロイター] - 長期投資家が年初から続く株安の背景として、生産性の低下に注目している。投資機会が減少することで過剰貯蓄が発生、景気悪化を防ぐ金融緩和も加わって、あふれたマネーが金融市場に流入し、相場が乱高下するという構図だ。日本政府は「生産性革命」を成長戦略の目標に掲げるが、市場の諦めムードは強く、日本株は再び大幅安となっている。

<政権4年目の「生産性革命」>

「生産性革命を引き起こす」──。安倍政権は25日、産業競争力会議を開き、6月をめどにまとめる新たな成長戦略の検討方針を決めた。

名目国内総生産(GDP)600兆円の達成に向け、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)活用による「第4次産業革命」を通じた生産性革命の実現を柱に据え、「生産性革命を引き起こし、人口減少に伴う成長制約を打破しなければならない」とした。

長期投資家からは「生産性の行方は、長期の金融市場を左右するもっとも重要なテーマ」(米系投信の運用担当者)との指摘は多い。

しかし、26日の市場では、ほとんど話題にならず、日経平均<.N225>は400円を超える下落となった。

市場が、アベノミクス政策に期待したのは、超金融緩和策によって経済が上向いている間に成長戦略によって生産性が上昇することだった。

だが、政権4年目を迎えた今でも「生産性革命」が俎上(そじょう)に上るのが現状だ。成長戦略が効果を発揮するには時間がかかるとはいえ、日銀の量的・質的金融緩和(QQE)政策の限界が懸念され始めてきていることも、日本株の大幅調整の背景となっている。

<日本の生産性は10分の1に>

ブラック・ロックの調査では、世界主要国の労働生産性は、リーマン・ショック前と比べ大幅に低下している。1950年から2007年までの平均で、米国は毎年2%ずつ伸びていたが、11─15年の平均は0.5%に低下。ドイツは4%から0.8%、日本は4.6%から0.4%と10分の1以下の水準に落ち込んでいる。生産性低下は各国共通の現象だ。

生産性の低下は、経済に大きな影響をもたらす。米国の場合、生産性が1%低下し、10年間の国内総生産(GDP)平均伸び率が3%から2%に低下した場合、イタリアの経済規模とほぼ同じ約2兆ドル(約240兆円)、経済が小さくなる計算だ。

生産性低下の原因は各国でまちまちだが、先進国においては、労働者1人あたりの設備投資の鈍化が主な要因とブラック・ロックでは分析している。

英国で始まった産業革命時の蒸気機関のような革新的な技術発明が、みられなくなったことも大きな影響を与えているという。また、先進国を中心とした高齢化により、製造業より生産性を上げにくいサービス産業に産業構造がシフトしていることも一因だ。

<過剰貯蓄と金融緩和>

足元で起きている金融市場の大混乱は、こうした生産性の低下が大きな背景との見方がある。生産性の低下で投資機会が減少、貯蓄は過剰になり金融市場にマネーがあふれる一方、景気悪化を防ぐために金融緩和が強化され、そこで生み出された過剰流動性がマーケットに流入しているという構図だ。

米国が利上げに踏み切る昨年末までは、金融(流動性)相場が世界的な株高をもたらしていたが、日米欧の金融緩和トライアングルから米が離脱。「新しい時代を迎えて世界中の投資家が、一斉にポートフォリオを作り直している。そのことが、年初からの市場波乱の背景」(野村証券・投資情報部エクイティ・マーケット・ストラテジストの村山誠氏)とみられている。

トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーが公表したデータによると、1月13日までの1週間に、米国を拠点とする株式ファンドから差し引きで90億ドルの資金が流出した。国際金融協会(IIF)は20日、新興国市場の債券や株式からの資金流出が、今年は4480億ドル(約53兆円)になるとの見通しを示した。

<イノベーションの期待低下>

今後はどうなるか。それは生産性低下をもたらした原因が何かによる。ブラック・ロックでは、生産性低下の原因は、3つの可能性があるとしている。

1つは計測誤差だ。最近の技術革新による変化を経済指標が取り込めていない可能性がある。そうであれば、当面は経済の緩みが残るため、金融政策は短期的には変更ないが、投資家は計測誤差が修正されるに従い、高い成長率と将来的な高い政策金利を予想するので、金利はスティープ化、株価は緩やかに上昇する。

もう1つの可能性は循環的要因だ。生産性がいずれ長期トレンド水準に戻るため、物価上昇率は低位で推移することになり、中央銀行は緩やかなペースでの利上げが可能になる(ただし、最終的な金利はより高い水準に着地する)。利回りカーブはスティープ化。株価は上昇する。

一番厄介なのは構造的要因による生産性低下だ。そうであるなら、現在、市場が織り込んでいるよりも、低い経済成長率と高い物価上昇率をもたらす。この場合、中央銀行は市場が予測するよりも速い利上げ(終着点は低い)を強いられる。利回りカーブはフラット化、株価は低迷する。

構造的な生産性低下であれば、長期停滞を脱するためにはイノベーションが必要になる。しかし、「政治的状況から各国ともイノベーションを生み出すようなベンチャーよりも、既存産業や巨大企業に重点を置きがちだ。日本も例外ではない」とニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は話す。

「生産性革命」の看板は派手だが、市場の目は冷ややかだ。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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