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- 2016年01月25日 05:00
同性も加害者に?「マタハラ」の知られざるリスク - 丹羽教夫
■マタハラとはそもそも何か
マタニティハラスメント(マタハラ)とは、働く女性が妊娠・出産を理由として解雇・雇い止めされたり、妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的なハラスメントである。セクシャルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)と共にビジネスシーンで耳にする機会も多くなってきているのではないだろうか。マタハラを巡る裁判では、2014年10月に最高裁が、「妊娠による降格は原則禁止で、女性が自由意思で同意しているか、業務上の必要性など特殊事情がなければ違法で無効である」と初の判断を示している。結果、広島県の病院に勤めていた女性は妊娠理由による降格処分を受けていたが、175万円の賠償を受ける形で先日勝訴が確定した。■隠れたリスクが最も怖い
現行の男女雇用機会均等法においても妊娠や出産を理由に解雇や降格などの不利益を与えることは禁じている。しかし、同法は上司や同僚の言動による「セクハラ」防止措置については企業に義務付けているが、「マタハラ」は「対象外」としている。結果、以下に述べるような大きな被害が生じている。しかも表に出てきているものは氷山の一角に過ぎない点がこういったハラスメント系問題の盲点たるリスクなのである。■心をえぐるマタハラの具体的事実とは
発言による被害としては、上司からの「迷惑である」「辞めたら」といった嫌がらせが最多である。女性上司からの「私の管理下で妊娠されるのは困る」「子供は1人で十分でしょ」などの発言や人事担当者からの「子供が理由なら何でも許されると思うな」などの対応拒否やせっかく勇気を出して相談しても「余計に傷つくことを言われた」ケースもある。発言以外の被害では、解雇や雇い止めはもとより退職強要や非正規への転換強要、ボーナスカットなどがある。■相談件数は増加の一途
セクハラやマタハラ相談を取り扱っている各都道府県労働局の雇用機会均等室の発表によると、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いに関する相談はセクハラに次ぐ件数である。3年連続増加傾向にあり、労働局長による紛争解決援助申し立て件数に至ってはセクハラを抜いてトップである。(平成26年度 都道府県労働局雇用機会均等室での法施行状況)■被害者の半数は泣き寝入りの我慢?
厚生労働省が2015年9月に実施した実態調査(25歳~44歳女性対象。3500人回答)では、妊娠・出産した派遣社員の48%が「マタハラを経験したことがある」と回答している。正社員では21%だった。加害者は「男性上司」のイメージが強いが、ここは盲点である。マタハラの被害者支援に取り組む民間団体の調査結果「マタハラ白書」によると女性上司や同僚からの被害の訴えも多く、性別を問わない加害者像が浮き彫りになっている。連合が2015年5月に実施した「マタニティ・ハラスメントに関する意識調査」では、被害にあっても「我慢する」が半数弱(45.7%)であった。
■ちょっとした工夫で大きな救済策に
政府はマタハラの防止策を企業に義務付ける法整備を進めている。男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の改正案を今国会に提出し2017年4月実施を目指しているところである。立場上弱いとされる派遣社員も防止策の対象とし、違反した企業名の公表も盛り込む格好だ。労務と監査の専門家の立場から言うと、原因は2つである。社員(男女問わない点がポイント)の知識・意識不足が招く協力不足、会社の支援態勢構築と運用徹底の不備。当職の経営監査をしている経験からでは、企業においてそれ専用にリソースを確保するのはなかなか困難という向きが多いかもしれない。であれば、まずは「情報共有のしくみ」作りから手をつけてみてはどうだろうか。既存のセクハラ防止のしくみなどにちょっとした専門知識や情報(事件事実や相談窓口など)共有をプラスしてあげることで、限られたリソースを活用しつつ大きな被害者救済のリターンが得られる。最初は身近な専門家の力を借りながらコストをかけずにできることから着手していただいたらよいと思う。
女性の活躍やダイバーシティ(多様化)が叫ばれて久しくたつが、隠れていたり盲点であったりする足元の被害やリスクを見つめ直す視点をぜひ労働サイドにも経営サイドにももってもらいたいのである。
【参考記事】
■盲点です、新型セクハラ!知らず知らずの怖いリスク! (丹羽教夫 社会保険労務士/CIA)
http://sharescafe.net/47304084-20151223.html
■「パワハラ」には実は法的根拠がない? (丹羽教夫 社会保険労務士/CIA)
http://sharescafe.net/45199615-20150616.html
■退職時に有給消化をする従業員は「身勝手」なのか? (榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/40070575-20140728.html
■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩。 (中嶋よしふみ SCOL編集長)
http://sharescafe.net/45556415-20150715.html
■年収1100万円なのに貯金が出来ませんという男性に、本気でアドバイスをしてみた。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)
http://sharescafe.net/45570046-20150716.html
丹羽教夫 社会保険労務士/CIA
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