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健康な今から「がん」に備えるべき3つのこと

鈴木優子=構成 本野克佳=撮影

がんに罹る、そのショックは計り知れないものだろう。しかし、現実は病人にも容赦ない。病院・治療法の選定、仕事の引き継ぎ、休職期間、治療費……今から備えるべきことを、がん患者会を主宰する松本陽子さんに訊いた。

ネット情報の鵜呑みはとても危険です

あなたが「がん」と診断されたら、まず何をするでしょう。「◯◯がん 治療法 完治」などをキーワードに情報を集めようとするのではないでしょうか。私も14年前にがん告知を受けたとき、同じことをしました。しかし、ネットは情報で溢れかえっています。その情報は玉石混交、鵜呑みにしては大変危険です。

膨大な情報から本当に必要なことを選別するには、見極める力が必要になります。具体的には、情報が科学的根拠を持った情報か否かを選別する力です。しかし、残念なことに高いITリテラシーのある人でも、危うい選択をすることがあります。

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NPO法人愛媛がんサポート おれんじの会理事長 松本陽子氏

たとえば、「○○医学博士の末期がんが治った奇跡の治療法!」などと書かれたサイトを見たら、医学博士が勧めるから大丈夫と、思ってしまうかもしれません。しかし、世の中には医学博士は大勢います。その医師は何が専門で、どんな研究を根拠に勧めているのかが問題です。医学博士や有名病院という肩書に振り回されないことです。書籍も同じですが、有名人の闘病記にも要注意です。資金力や環境の違いがあるので、その記述が自分に当てはまるとは限りません。

情報を集めるときに大事なのは、科学的根拠のあるものかどうか、そして自分の状況に合ったものかどうかを見極めることです。

いきなりそこまで情報を精査する力を持った人は、そう多くありません。まして自分ががんになったショックの中、冷静な判断は難しい。だからこそ、元気なうちから力をつけてほしいのです。近道はありません。見て、慣れること。これはがんに限らず、ビジネスのうえでも同様ですよね。取引先を調査し、自分の企業とマッチングするか検討することと変わりないと思います。

ネットで、私がお勧めしているのが国立がんセンターのHPです。がんとは何かから、最新の臨床研究などの情報までわかりやすく解説されています。これを入門編に、慣れてみてはどうでしょうか。

ほかにも、全国に397カ所あるがん診療連携拠点病院の相談窓口で、無料で相談や情報提供に応じてもらえることも覚えておいてください。

セカンドオピニオンも情報収集の一つですが、まずはファーストオピニオンです。自分の病気はどういう状況で、どんな治療法を勧めるのか、その効果とデメリットは何か、最初の診断内容をしっかり聞き、考えたうえで他の医師の意見を聞くべきでしょう。

そのときには何を聞きたいのか明確にしましょう。セカンドオピニオンは保険がききません。30分約3万円かかるところもあります。無駄にならないよう、準備していきましょう。

患者に必要なのは、励ましではない

次に、がんと向き合うにはやはり、家族や友人のサポートが力になります。

患者に必要なのは、励ましの言葉より、「寄り添い」だと感じています。私が入院したのは33歳で、仕事もプライベートも充実していたときでした。先のことが見えなくて苦しんでいる私に、「前向きにならないとダメよ」といった人がいました。励ましだとはわかっていましたが、自分を否定されたように感じました。

日本人は東日本大震災で、辛い思いをしている人に「がんばれ」といってはいけないことを学びましたよね。不安や苦しみを感じていることを否定せずただ寄り添ってくれる人の存在が、むしろありがたいのです。自分がサポートする立場なら、具体的に何かできることがなくてもいい、黙ってそばにいるだけでもいいのです。できるだけ自然に寄り添ってください。ささやかに見えますが、それが患者には病気と闘う大きな力になるのです。

これは、患者だけでなく、患者の家族に対しても同じです。第2の患者と呼ばれる家族も、さまざまな不安や苦しみを抱えています。周囲の人は家族にも心を寄せてほしいと思います。

人間関係を備えるということは現実には難しいですが、日頃から、寄り添い合う関係とはどういうものか、考えておくべきだと思います。

最後に、がんは長く付き合う病気であり、金銭的な備えも重要になります。さまざまな治療法の選択肢があり、保険のきかない高額な治療もあります。お金の話は避けて通れません。

2010年に愛媛県で実施した「がん患者満足度調査」では、回答してくださった入院患者さんの約3割が、経済的な理由で治療の継続が危ぶまれているという結果が出ました。

金の切れ目が命の切れ目、悲しいことですが、現実に起こりうることなのです。

がんの治療は、年々、治療スタイルが様変わりしています。入院期間は短縮され、抗がん剤や放射線治療も通院でする場合が増えています。民間の保険に加入されている方も、現在の治療形態にあっているかどうか保障内容を見直すべきでしょう。

それと、民間療法。ほかに治療法がないといわれ、藁にもすがる思いで民間療法に走る人もいます。しかし、大半は効果が不確かなうえ、費用が高額になる場合もあります。本当に必要なのかどうかよく考えてほしいです。

患者、または家族にとって、体験者のアドバイスが頼りになることもあります。全国にはがんの患者・家族会があります。医療機関や地域の保健所などで紹介してもらい、活動内容や目的などを確認したうえで参加してみることをお勧めします。同じ経験をした仲間と話すだけでも、心が軽くなることもあります。

元気なうちから病気になることを想定するのは、楽しくありません。でも、がんはもはや、珍しい病気ではないのです。がんは治す時代から、備える時代になりました。その備えが、いざというときにわずかでも心に余裕をつくってくれるはずです。

▼健康な今から備える、3つの大事なこと▼

【1】正確な情報を探す力をつける
ネットなど洪水のような情報の中で、科学的根拠のある情報なのか見極める力を備える。1日やそこらで身につく力ではないから、健康なうちから始めよう。

【2】寄り添ってくれる人との人間関係
いざというとき欲しいのは励ましではなく、否定せず受け止めて寄り添ってくれること。そういう人と人間関係が築けているか、考えてみよう。

【3】経済面の備えを始める
治療費はがんの種類・ステージによってさまざま。経済的な理由で治療が継続できない、ということが現実に起こってくる。備える気持ちが重要だ。

NPO法人愛媛がんサポート おれんじの会理事長 松本陽子
1965年、愛媛県生まれ。19歳のとき父親をがんで亡くし、自身もNHK松山放送局に勤めていた33歳のとき子宮頸がんを経験。2008年、がん患者・家族会「おれんじの会」を設立。患者力の向上を目指す。厚生労働省の緩和ケア推進検討会構成員。

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