- 2016年01月19日 11:42
おとりつぶしに怯える財団メーカーたち 護送船団方式の国産ワクチン 化血研・隠ぺい問題の背景 - 村中璃子
一般財団法人の化学及血清療法研究所(化血研、熊本市)が約40年にわたり国の承認とは異なる方法で血液製剤を製造し組織的な隠ぺいを図っていた問題で、政府は1月8日、化血研を110日間の業務停止処分とした。同日午前の記者会見で塩崎恭久厚生労働大臣は「本来であればただちに医薬品製造販売行の許可を取り消すべき事案。今後については製造販売を化血研という組織で継続することはしない前提で検討することを要請している」として化血研の解体を示唆する発言をした。
1月14日には非公開の第1回ワクチン・血液製剤産業タスクフォースが開催された。出席者リストには塩崎大臣や事務次官までもが名を連ね、事態の重さを窺わせる。タスクフォースは業務停止の110日間の間に話し合いを終わらせ、4月にもその結果を発表する見込みだ。
化血研は血液製剤だけでなく、日本における主要なワクチン製造者としても知られている。塩崎大臣が化血研の医薬品製造販売許可を直ちに取り消しとしない理由を「化血研だけが製造している国民の健康確保に不可欠な血液製剤やワクチンがあるため」としているとおり、化血研は定期接種である4種混合ワクチンやインフルエンザワクチンを製造するほか、国内で使用されるA型肝炎ワクチンの100%、B型肝炎ワクチンの80%を生産している。
日本では定期接種ワクチンの大半を、民間の製薬会社ではなく、財団である化血研、阪大微生物病研究会(微研)と、北里第一三共ワクチン株式会社の3組織に製造させてきた。北里第一三共ワクチンも2011年4月以前は学校法人・北里研究所であり、財団と学校法人は非営利法人として似た組織文化があるといわれている。
定期接種用ワクチンは、自治体が買い上げる仕組みになっているが、その本数は安定しており、納入価はどこの製品であってもなぜか同じ。カルテルではないかとの声もあるが、「価格変動も競争もない日本のワクチン市場は統制経済に基づく国家事業のようなもの」と業界関係者は口をそろえる。
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(出所)日本ワクチン産業協会、各法人開示資料よりウェッジ作成
いま業界では化血研の血液製剤部門は日本血液製剤機構(JB)に統合されるだろうとの見方が強いが、ワクチン部門はどうなるのか不透明だ。
あるワクチンメーカーの幹部は「化血研をそのまま引き取りたい民間企業なんてどこにもいないですよ。中に居るのは九州の決まった有名大学の出身者ばかりで、人の出入りもほとんどない。そんな硬直化した組織の公務員みたいな人たちとビジネスなんてできるわけない」と語る。また、先述の3つの非営利法人のひとつと提携したある製薬企業の社員も「設備投資分をどう回収するかといったコスト意識はゼロ。助成金を得たらそれで終わりという意識で、利潤を追求する気は全くない」と語った。
そもそも国はなぜ民間企業とはいい難い特定のメーカーにワクチン製造を寡占させているのか。厚労省内では、ワクチンは国のセキュリティに関わるものであるから国産を原則とすべきという考えが以前より強かった。2007年3月に発表した厚労省の「ワクチン産業ビジョン」でも、ワクチンは国内で開発・安定供給することが不可欠であり、そのためには国が一定の関与を行う必要があるとしている。
しかし、非営利法人に承認前検査と国家検定を課して政府の監督下に置き、そこで独占的に作らせ、国内外の競争から保護することは、本当にワクチンの安全性の確保と安定供給の実現につながったのだろうか。こうした一見安全で安定的な体制こそが、化血研を約40年にもわたる隠ぺい行為を問題としない組織にさせたのではないか。
日本の官僚的な許認可行政を批判する声や、審査・管理体制の甘さを批判する声も上がっている。業界関係者によれば「日本の認可や審査は、メリハリなく大事ことも瑣末なことも並列にリスト化してしまうため、かえって本質的なリスクが発見できなくなる」。また、これまで国が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に委託して実施してきた審査はすべて事前通告をしてから行う形であり、ここへきてようやく抜き打ち検査の実施を検討しているのだという。
「カスを集めて何か変わるのか」
となると、問題は化血研独自のものということもなさそうだ。業界内には「同じ問題が他の非営利法人にもあるに違いない」と囁く声もある。80年代までは、世界をリードすると言われていた日本のワクチン。これを機にまずは化血研をはじめとする財団を解体させることで国内市場に競争原理を取り戻し、さらには外資との提携や競争を通じてグローバルな市場原理にさらすことで息を吹き返すのだろうか。
塩崎大臣は、14日の第1回タスクフォースの冒頭挨拶において「化血研の名称のもとでの製造販売はなくなる」と8日よりも踏み込んだ表現をした上で、「わが国のワクチン血液製剤は規制を中心にいわゆる護送船団方式で守られて国際的な商業化から取り残されているといわれてもいる。それが結果的に産業競争力の停滞を招いて日本国民への質の高い安全な薬剤を安定供給するという本来の目的を損なうことにつながりかねない」として、日本のワクチン血液製剤産業における「ビジョンと戦略の欠如」を自覚する発言をした。
抜本的な産業構造の改革を望む姿勢を見せる大臣に対し、官僚サイドは、供給リスクを理由に解体や抜本的な再編に対して慎重なトーンで記者に説明するなど腰が引けている様子だが、大臣発言は具体策に結実するだろうか。
ちなみに化血研の血液製剤部門を引き取ると噂されている前述のJBは、日本赤十字社の血漿分画事業部門と薬害エイズ問題を起こした旧・ミドリ十字をひとつのルーツとする田辺三菱製薬の子会社を統合させてつくった組織であり、「似たようなカスを集めて統合して何か変わるのか」(関係者)とする厳しい指摘もすでに上がっている。
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