- 2016年01月19日 11:41
「世界初の人を乗せられるドローン」中国企業が「嘘」の発表 「最もエキサイティングな発明」という賞賛が一転 - 土方細秩子
今年のCESで最も話題を集めたブース発表のひとつが、無名の中国のドローンメーカーによるものだった。1月6日に行われた記者発表で、EHang社は「世界初の人を乗せられるドローン」の映像を展示、翌日米メディアの中にはトップニュースとしてこれを取り上げたところもある。
画像を見る「人が乗れる」と注目されたドローン
ビデオ映像のナレーションでは「EHang184は最も安全でスマートかつエコフレンドリーな、低空飛行用の自動運転航空機で、人の短距離移動を目的としている」と語られている。映像の中でこの人搭載型ドローンは大自然の中や都市上空を飛行しているが、実はこれはすべてCGによる「やらせ」だったことが発覚した。
元々UA (Unmanned Aircraft=無人機)は車の自動運転よりも長い開発の歴史を持つ。一時はボーイング、ノースロップ・グラマンなども開発に乗り出し、カリフォルニア州にあるアエロバイロンメント社ではソーラーパネルを搭載したUAの実験飛行まで行った。
結局、現時点でUAは実用化されることなく、ドローンへと姿を変えて消費者市場に登場しているが、開発の歴史を考えれば人が搭乗できるドローンというのは「なぜこれまで誰も発表しなかったのか」が、不思議に思えるほど。アマゾンなどは独自の「デリバリー専用ドローン」を開発しており、数十キロの荷物を運ぶドローンはすでに存在するのだ。
CESで「最もエキサイティングな発明」 という賞賛が一転
UAは車の自動運転と比べると、地上の交通、という障害がない分開発は容易でもある。もちろん既存の航空法など、様々な規制をクリアする必要はあるが、人を乗せたドローンが自由に行き来できるならば、「空とぶ自動車」として人々の通勤や移動の足として大きな可能性がある。しかも自動運転で目的地まで勝手に乗り物が人を運んでくれるのだ。CESで「最もエキサイティングな発明」と賞賛されたのももっともなこと。
それが全くの嘘だった、と露呈し、EHang側も「空を飛んでいる映像はCGだが、ビデオの中で見せた人が乗り込んで空中をホバリングしている映像は本物」との苦しい釈明を行う羽目になった。しかし空中ホバリングは地上わずか数メートルのところを10秒ほど。都市上空を飛ぶのとは大違いである。
実はドローン業界にはこうした「大げさな約束」を掲げて消費者を失望させる企業が非常に多い。まだ産業として生まれたばかりということもあり、開発側が投資を募るために実現していない機能をアピールするケースが多い。
画像を見るEhang社のホームページ
今回のCESでも「人の後をジェスチャーのみで追跡するドローン」というものも発表されたが、これも実際にはまだ実現できていない技術だ。人の後を追跡できるドローンがあれば、例えばスポーツ、アドベンチャーなど、様々なシーンで思い通りの映像撮影などが可能だ。しかし、フォーブス誌のレポートによると、英国のトーキン・グループという企業がキックスターターでこうしたドローンの映像を公開、世界中から360万ドルのマイクロファンディングを集めたが、実際のドローンは制作されず、1万2000人に投資額も返還されていない。
嘘はマイナス効果を高めるだけ
それでも、EHangの手法はCESのような舞台でデビューする無名の企業としては「あまりにも杜撰」との批判を浴びている。映像がやらせとわかった瞬間に、同社に投資しようとする企業は皆無となるだろうし、同社の信頼性にも大きく傷がついた。人を乗せたドローンの自社開発、という壮大なプロジェクトだけに、発表の場での嘘はそれだけマイナス効果を高める。
UA開発の時代から、「いつか人を乗せられる自動運転で電力を使った飛行機の開発」は夢でもあった。世界には少数のEA (Electric Aircraft)が現実に存在するが、自動運転を標榜するものは皆無だ。EHang社が零細企業ながらこれにチャレンジした姿勢は評価できるが、やらせ映像によって却って「自動運転で人が乗れるドローン」と現実の大きな隔たりを露呈する結果となった。
まだ若い業界であるドローンの今後の適正な成長のためにも、「大げさすぎる約束」を提示する企業のモラルが問われるべきだろう。
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