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ソーシャルメディア時代の顔写真報道について考える

12人の大学生が亡くなった長野県で起きたスキーバス事故。私が所属する法政大学も尾木直樹先生のゼミ生3人が巻き込まれました。本当に残念でなりません。心からお悔やみ申し上げます。

大きな事件・事故があるとマスメディアは顔写真やエピソードを掲載しますが、今回はソーシャルメディアを使う世代ということもあり、バス事故で亡くなった学生たちの写真が、Facebook、Twitter、ブログからの「引用」でした。これに違和感を持った人もいたようです。なぜ分かったかというと、朝日新聞の記事に「フェイスブックから」「ブログから」と書かれていたからです。
www.asahi.com

出所を明示した朝日、しなかった読売・毎日

事件・事故で亡くなった方の写真の扱いについては色々な意見がありますが、報道現場の認識は概ね下記のような「報道目的であれば使っても良い」ということでしょう。

 ソーシャルメディアに投稿された顔写真についても同様に、報道目的であれば許諾なしで利用できる。(日本新聞協会の報道資料研究会

実はソーシャルメディアが出所であると明示しているのは朝日新聞だけ。読売新聞、毎日新聞を購入して確認したところ、出所は明示していないものの朝日と同じ写真があることが分かりました。

画像を見るスキーバス転落事故を報じる1月17日の朝刊社会面。左から毎日新聞、読売新聞、朝日新聞

 

これまでにもマスメディアは、大きな事件・事故があれば顔写真を「どこからか(卒業アルバムや友人が持っているものなど)」入手して掲載してきたわけですが、読売と毎日は、その延長線上という考え方なのでしょう。

一方、朝日が出所を明示したというのは「引用」だと捉えた可能性があります。Facebookのプロフィールは投稿が非公開であっても公開されています。公表された著作物は報道、批評、研究などの目的であれば出所を明らかにするなどのルールを守っていれば問題になりません。

朝日の記事を批判する人もいますが、「どこからか」入手して掲載したというスタイルより、朝日の記事のほうがソーシャルメディアの時代に適した記事の書き方と言えるでしょう。

個人としてこの問題を捉えるなら、誰もが見えるところに何らかのコンテンツを公開するということは、報道、批評、研究に引用されても仕方がないということです。なお引用は許可を得る必要がありません(無断引用という言葉は間違い)。もし、引用されたくなければ今のところは、ネットに一切(友人、知人も含めて)顔写真を掲載しないようにする必要があります。

報道に顔写真が必要なのか

それでも、どことなく「これでいいのか」という違和感は消えないと思います。それは、そもそも報道に顔写真が必要なのかという根本問題があるからでしょう。

顔写真については、『新聞報道と顔写真―写真のウソとマコト』という本があるぐらいですし、横山秀夫が地方紙を描いた小説『クライマーズ・ハイ』では主人公の悠木が県警キャップ時代に顔写真を取ることを命じた後輩の望月が、死者の顔写真を新聞に掲載する意味について食って掛かかり、その後自殺のような死を遂げることが描かれているように、長い間報道現場で課題となっています。

いまやよほど大きな事件・事故でなければ掲載されませんが、私が駆け出しの記者だった20年前はどんな小さな交通事故でも顔写真を入手するのが当たり前という時代でした。取材をすると罵声を浴びせられたり、追い返されたりすることがあり、「何の意味があるのか」と非常に悩みました。

取材を重ねる中で出した結論は遺族がどう考えるか、というものでした。 全員が顔写真の掲載を拒否するわけではありません。遺族の中には「多くの人に知ってもらい、最後の別れをしてもらいたいので」と顔写真を載せて欲しいと希望する方もいます。事件・事故が起きてほしくないから多くの人に考えてもらいたい、とメッセージを託してくださる方もいました。

大変な悲しみの中にあるのに、大切な人の死を社会のために生かそうとする人がいるということに、若い駆け出し記者である自分には驚きでした。

注意深く取材をするようになり気づいたことは、「顔写真なんて探しに来たのか。帰れ」などと怒るのはだいたい関係が遠い親戚とか近所の人なのです。 こういう議論が起きるときは「誰も掲載を望まない」などと一方的に決めつけた意見がネットで拡散されがちですが、これも当事者にはほとんど関係がない人が、報道をきっかけに騒いでいるパターンに過ぎません。

遺族に「事故を起こさないために社会に広く伝えたい」という考えがあり、そこに顔写真やエピソードがあるなら、批判は少なくなるでしょう。というより、何らかの批判があったとしても、当事者が社会に声を上げたいと望むのであれば、それを支えるのが報道の役割です。

顔写真を望むのは読者でもある

ソーシャルメディアの登場で、プライバシーを守るのはどんどん難しくなっています。ネットメディアやまとめサイトは、普段から勝手にキャプチャしていますし、今回のスキーバス事故でも、容姿についてタイトルに出したまとめサイトもあり、拡散されています。

このことからも分かるように、顔写真の掲載を続ける理由には読者や視聴者が望むからという側面があるのです。報道や公益性を打ち出しても、ビジネスであるという事実からは逃れることが出来ませんし、受け取る側の要求が反映されるのです。

しかし、いまや欲望を剥き出しにしたメディアはネット上に無数に存在し、気軽にアクセスが可能になっています。もし、新聞社が報道機関として信頼と価値を高めたいのだとすれば、ソーシャルメディアで簡単に「引用」できたとしてもあえて掲載せず、遺族から許可を得るなど丁寧に取材していくべきです。

遺族は、気持が落ち着くまでには時間がかかり、しばらくたってから何か話したいという場合もあります。時間が立てば人は忘れてニュースバリューが落ちてしまいますが、丁寧にニュースを扱うことが伝わっていけば、取材を受ける側にも、読者側にも変化が起きるでしょう。

現在の報道スタイルでは、手間をかけている現場取材が無駄になっている上、書いている事がまとめサイトとなどと変わらないものになっており、その価値が読者には伝わりません。ソーシャルメディア時代に合わせた取材、記事、紙面やネットでの展開を考えていく必要があるでしょう。

この問題は簡単に答えがでるものではありませんし、ブログを読んだ方にも色々な意見や考えもあると思いますが、それぞれに考えて頂ければ幸いです。下記の本が参考になると思います。

 

■『クライマーズ・ハイ』は大きな事故が記者にどのような心理をもたらすのかという点からも興味深い本です。大きな事故に関してソーシャルメディアで何かを発言する際に、この本に登場する記者と同じような心理になっていないか…

リンク先を見る

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

 

 ■マンガ『海猿12巻』。海上に航空機が墜落、事故の犠牲者名簿を電話で確認する作業を担当する浦部(仙崎の彼女、毎朝新聞社記者)。「私はいったい何をやっているんだろう」。報道の意味を考えさせられる。

リンク先を見る

海猿 (12) (ヤングサンデーコミックス)

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