記事

武力衝突危機高める中国“曖昧戦略” - 岡崎研究所

デンマーク王立国防大学校准教授のオドガードが、12月10日付ニューヨークタイムズ紙掲載の論説にて、南シナ海での主張の法的説明を曖昧にしながら武力行使を公言する中国の政策は非常に危険である、と中国を批判しています。

曖昧な主張が状況を一層危うくする

 すなわち、南シナ海緊張の最大の要因は中国の硬軟両様戦略にある。中国は意図的に領有権主張を避けるが、他方で、厳密に定義されていない領有権の主張を守るために武力の行使にコミットしている。

 中国は過去数十年、南シナ海の約8割をカバーする九段線の地図を公布している。習近平は11月7日に「南シナ海の島々は古代から中国の領土だった。領土と正当な海洋の権利・権益を守ることは中国政府の義務である」と述べた。

 10月27日の米イージス艦ラッセンのスビ礁の12海里内航行に関する対米抗議に当たり中国は曖昧な言葉しか使用しなかった。中国国防省は領海、排他的経済水域を侵犯したとは言わず、「中国の主権と安全保障権益に脅威を与え、地域の平和と安定を危うくした」と述べた。人工島を建設したスビ礁に対して領有権を主張することは避け、スビ礁の周辺海域について中国が権限を持っているかどうかについても言及を避けた。

 自らの主張を明確に定義しないでそれを守るために武力を行使するという中国の意図的な曖昧さは、状況を一層危険なものにする。本年の国防白書は、周辺国が中国の環礁や島嶼に軍事的プレゼンスを強める場合、軍事力を使用する旨述べている。或る退役軍人は、中国軍は戦争の準備ができていると述べている。

 インドネシア、ベトナム、タイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポールなど東南アジア諸国はヘッジ政策で対応している。対中経済関係の緊密化により中国の影響力を受け入れ、他方で、米との防衛協力の強化を図っている。米中のどちらにも味方しないように見られることが優先事項になっている。

 中国は米の同盟システムに対抗するため他国の艦艇や航空機の自由な航行に介入したいと考えている。中国による国際海域への規制は許さないことを示す必要がある。中国が緊張を和らげたいのであれば、米国が今後もアジアの一部であることを受け入れ、緊張を高める現状変更はしないことが必要である、と論じています。

出典:Liselotte Odgaard,‘China’s Dangerous Ambiguity in the South China Sea’(New York Times, December 10, 2015)
http://www.nytimes.com/2015/12/11/opinion/chinas-dangerous-ambiguity.html?partner=rssnyt&emc=rss&_r=0

*   *   *

中国が曖昧戦略を採る理由

 中国の曖昧戦略の問題点を突く論評です。経済利益のために対中関係を強める欧州において、中国の動きを批判的に観察、分析している学者がいることは良いことです。

 国際政治、軍事政策の中で曖昧政策は一つの重要な手段となりますが、それは必然的に誤算などのリスクを生み出すことにもなります。それを防ぐためには、戦略対話や、時に応じて相手国の出方を試すことも必要になります。筆者が、中国が南シナ海についての法的考えを曖昧にしたまま、武力の行使も厭わないとしていることは非常に危険だとするのは、理解できる議論です。中国が意図的に法的議論の曖昧化に転じているとの分析は10月頃から言われています。

 何故中国は法的説明を曖昧にしようとしているのか、敢えて推測すれば、第一に、九段線(国際法上受け入れられるものではない)や今まで中国が採ってきた措置、海洋法の規定などを理路整然と中国に有利なように説明するのは難しいことが分かってきたのではないでしょうか。法的議論は極めて複雑であり中国はそれに勝てないことが分かってきた可能性があります。第二に、法律論は曖昧にして問題を政治問題にしておくほうが有利だと判断したのではないかとも思われます。政治問題であれば勝ち負けははっきりしないですし、二国間の外交交渉に持ち込むこともできます。第三に、時間を稼ぐことが出来れば南シナ海で既成事実を固めることも出来ると判断した可能性があります。

 「東南アジア諸国は経済で中国の影響力を受け入れ、防衛では対米関係強化を図っている(ヘッジ政策)」との筆者の説明は的を射ています。しかし、その間に中国の影響力は忍び寄っており、中国の主張が既成事実化していくことに注意しなければなりません。

 南シナ海の問題についてのオバマ政権の認識は当初甘いものだったと言わざるを得ません。しかし、関係国の働きかけや9月の米中首脳会談の不調によりオバマがラッセン派遣を決断したのは意味があります。ただ、航行の自由作戦は継続することが宣言されていますが、やはりオバマ政権が積極的であるようには見えません。

 関係国は引き続き協力を強めコアリッション(連合)を維持していくことが重要です。11月の東アジア首脳会議で各国首脳がこの問題につき発言し、大きな議論になり共同声明にも反映されたことは成功でした。日本も良い役割を果たしたと言われています。中国にも一定のインパクトを与えたものと思われます。

あわせて読みたい

「中国」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。