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全従業員の給与額公開は是か否か-米で増加中

もし同僚があなたの給与額を知ることができるとしたら、どう思うだろうか。もらい過ぎだと思われるのが怖いだろうか。それとも、稼いでいる額があまりにも少ないと考えているため、その額を正当化しようとするだろうか。

 現在、全従業員の給与に関する情報を社内で公開する雇用主が増えつつある。9万1000人の従業員を抱える自然食品チェーン大手のホールフーズ・マーケットから、ソーシャルメディア・データ分析会社のサムオール、旅行保険比較サイトのスクエアマウス、交流サイト(SNS)予約投稿サービスのバッファーといった中小企業に至るまで、さまざまな雇用主だ。給与額を公開する狙いは、給与とパフォーマンス(勤務などの業績)に関する問題を話し合いのテーブルに乗せ、給与の不公平さを排除して、より良いパフォーマンスを引き出すことにある。

 しかし、給与公開は、給与額を比較する同僚の間に気まずい会話をもたらすほか、給与額が自分のイメージに合わない人々の自尊心を傷付ける。

 ニューヨークにある従業員42人のサムオールに勤めるオリビア・ウェインハウスさんは昨年、新たに採用された同僚が自分より稼いでいることを知って不満を抱いた。営業担当のウェインハウスさんは「競争心がむらむらと沸いてきた。『ここで何が起こっているのか』と思った」という。

 彼女は社内のランチで、当の新同僚のエメリー・デラクルーズさんに「あなたは私より1万ドル(約120万円)多く稼いでいるけど、どうしてそれができたのか聞かせて」と話しかけた。2人はローズマリーチキンとローストポテトを食べながら、フレンドリーな会話をした。この会話の中で、デラクルーズさんは採用される前に同等な技能と経験を持つ人の平均給与に基づいた希望給与額を会社に提示し、ソーシャルメディアマーケティング責任者として自らが活用できる技能を説明したことを明かした。この後、ウェインハウスさんは、デラクルーズさんにならって給与を研究し、交渉能力の向上に努めているという。

 サムオールの共同創設者兼最高経営責任者(CEO)のデーン・アトキンソン氏は、給与情報の公開が、給与非公開のときに生じる嫌なサプライズを防ぐことにつながると話す。例えば、ある従業員が同僚より稼ぎがずっと少ないことをたまたま知ってしまったが、従業員が本来知るべきでない情報のため、それについて会社と話し合うことができないという場合だ。同氏は、給与記録の公開は「給与に関する会話を促し、正当な給与が払われるようにしようと思うことにつながる」と述べる。

 2012年に法律雑誌のペン・ステート・ロー・レビューに掲載された論文によると、給与公開は女性や少数派に対する差別をなくすのに役立つ場合がある。前出のサムオールのデラクルーズさんは、他人の給与額を知ることは、過去の職場で感じていたような「漠然とした不安」を排除してくれると話す。それは「『他の人はどのくらい稼いでいるのか。私の稼ぎは十分なのか。彼らは私を低く評価したのか』などと思い悩む状態だ」という。アトキンソン氏によると、女性や少数派の応募者は採用時に希望する給与額が少なすぎる場合がある。全社に給与情報を公開すると、このような不公平さが明白になる。このため同氏は、女性や少数派の人々の給与を希望額より多くすることがしばしばだという。

 アトキンソン氏によると、給与はときに下方修正されることもある。パフォーマンスが芳しくない同僚への不満を他の従業員たちが募らせ、職場のチームリーダーないし同氏にその同僚の給与を減額するよう圧力をかけてくることがあるからだ。アトキンソン氏によれば、それは、「あなたは自分を高く売り込み過ぎた」というメッセージだ。その結果引き下げられる額は少なく(5000ドルから1万ドルくらい)、減額の対象になった人で同社を辞めた人はいない。だが、「それは簡単にできる話ではない」と同氏は語る。

 コーネル大学産業・労使関係学部のケビン・F・ハロック学部長は、大半の雇用主が給与額を公開しないのは、従業員による他の従業員ないし経営幹部との給与比較を許すことが「あまりにも破壊的で、そうする価値がない」からだと指摘する。また同氏によると、非公開にするのは「なぜこの給与額なのか、給与を上げるにはどうすべきかを雇用主が従業員たちにうまく説明できない」ためでもあるという。

 また、一部の雇用主は、ライバル企業がより高い給与を提示して最優秀の人材を引き抜こうとすることを恐れている。

 従業員たちが情報漏えいやうわさを通じ、他の従業員と比較してどのくらい稼いでいるかを知る公算はますます高まっていくだろう。さまざまな職種の平均的な給与額は、グラスドア、サラリー・ドット・コム、インディード・ドット・コムやペイスケールといったウェブサイトに掲載されている。人材サービスのロバート・ハーフ・インターナショナルが昨年、1000人以上を対象に行った調査によると、59%はそれまでの1年間に自分の給与を市場平均と比較したことがあると答えた。また、1980年以降に生まれた従業員は給与情報をオープンにして共有する傾向が強いという。

By SUE SHELLENBARGER

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