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- 2016年01月14日 22:22
特集:地政学的リスクと2016年の日本経済
3/3●安い石油価格は日本経済を潤す
とはいえ、普通に考えれば石油価格の下落は消費国にとってはグッドニュースである。さしあたって、日本は真っ先に恩恵を受ける側である。日本の輸入84.6兆円(2013年度)のうち、鉱物性燃料は約28.4兆円、そのうち石油が約14.8兆円であった。つまり国全体として、エネルギーが輸入全体の3分の1を占め、石油が6分の1を占めていた。燃やしてしまえば、後はCO2と灰しか残らない化石燃料に、これだけの大金を払っていたのだからもったいない話である。しかるに1バレル100ドル時代はずっとそういう状態が続いていた。
それが2015年度にはどうなるか。毎度恒例、日本貿易会が昨年12月3日に発表した最新予測を確認してみよう4。輸入全体が77.9兆円、鉱物性燃料が17.7兆円、うち石油は8.6兆円ということになっている。ちなみにこの予測は、原油入着価格が1バレル56ドルを前提条件としているから、実際にはもっと下がると見て構わないだろう。つまり燃料費が激減して、2年前の半額くらいになる。結果として輸入全体も減.し、その間に輸出が.し増えるから、日本の貿易収支は若干の黒字に転じたとしてもまったく違和感がない。
○貿易動向調査(日本貿易会予測)

吉崎達彦
言うまでもないことだが、安い石油価格は消費者の可処分所得を増やし、日本企業の生産コストを下げて競争力を高めてくれる。何しろ鉱物性燃料の価格が、2年に比して10兆円も減.するのである。毎年、産油国に支払ってきたお金が国内に残ってくれるのだから、いわば10兆円規模の減税のようなもの。しかも、前述の通り石油市場をめぐる変化が構造的なものだとしたら、この減税は「恒久減税」に近いということになる。
●円高に向かう日本経済
さらに貿易会の予測を見ると、貿易収支の劇的な改善を受けて、経常収支の黒字は2015年度には17兆円を超える見込みである。GDP比で3~4%に達してしまうのだから相当な水準だ。経常黒字が8000億円まで減.し、「もうすぐ日本は『双子の赤字』国になる」と喧伝されたのは2013年度のこと。わずか2年でここまで戻ってくるのだから、日本経済に劇的な変化が起きていることになる。こうしてみると、年初から為替レートが円高に向かっているのは、「地政学的リスク」などのせいではなく、単に貿易収支の改善に伴って実需の円買いが増えているからではないかと思えてくる。
また、今年の世界経済における前述の3つの注目点は、いずれも円高方向に効いてくる。
1. 石油価格下落(貿易収支の改善で実需の円買いが増える)
2. 米国利上げの遅れ(日米金利差は、市場予測ほどには広がらない)
3. 中国経済の二面性(人民元安により、安全資産として円が買われる)
このまま円高方向に進むとしたら、以下のようなデメリットが考えられる。
・ 株安(日経平均は史上初めて、年初から6営業日連続で下げた)
・ 企業収益の下方修正(12月日銀短観によれば、大企業製造業の想定為替レートは119.40円であり、現行水準を下回っている)
・ デフレ脱却の遅れ(消費者物価2%の目標がさらに遠ざかるので、日銀の次の一手が難しくなる)
とはいえビッグマック指数などから行くと、120円台のレートはやや行き過ぎた円安になっている。1ドル110円台の為替レートは、実体経済にとってはむしろプラス効果が多いのではないだろうか。重要なことは、石油安に伴って生じる家計と企業のゆとりを、個人消費と投資に振り向けていくことであろう(それもできれば国内に!)。
逆に「地政学的リスク」を云々することは、あまり生産的ではないと思うのである。
1http://www.eurasiagroup.net/pages/top-risks-2016
2 ただしアジアの地政学のうち、「台湾と香港は例外」であると述べている。特に総統選挙と立法院選挙を今週末に予定している台湾は、2016年の焦点の一つと言えるだろう。
3 ”Understanding the new global oil economy” Financial Times (2015年12月1日)
4 http://www.jftc.or.jp/research/index2.html
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



