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新日本監査は「相当の注意を怠った」のか? 東芝事件・監査法人に対する課徴金手続について - 河本秀介

東芝が、不適切な会計処理により長年にわたり営業利益の水増しを行っていたことが発覚し、大きな波紋を呼びました。

 これに関連して昨年末、金融庁は、東芝に対して、有価証券報告書に虚偽の記載をしたことなどを理由に、金融商品取引法に基づき、73億7350万円の課徴金の納付を命じることを決定したことを公表しました。 

 また、金融庁は、東芝の会計監査を行った新日本監査法人(正確には「新日本有限責任監査法人」)に対し、財務書類に虚偽の記載が含まれることを見過ごし、重大な虚偽のないものとして証明したとして、公認会計士法に基づき、21億1100万円の納付を命じることについて審判手続を開始したことを公表しています(新日本監査法人には同時に3カ月の新規契約締結の停止と、業務改善命令が下されています)。

 一連の事件に対する課徴金額は、有価証券報告書の虚偽記載事件としては過去最高額だという点でもインパクトが大きいのですが、同時に、監査法人に対する初の課徴金手続という点でも非常に注目を集めています。今回はこの監査法人に対する課徴金手続について解説したいと思います。

監督官庁による課徴金納付命令

 まず、「課徴金」は、独占禁止法や金融商品取引法、あるいは公認会計士法といった法令に違反した場合に、監督官庁から納付を命じられる金銭です。課徴金はあくまでも行政上の措置ですので、刑事罰には含まれません。

 東芝の場合は、虚偽の内容が含まれる有価証券報告書を提出したことや、虚偽の内容が含まれる有価証券報告書に基づき社債の募集をしたことが金融商品取引法違反にあたり、課徴金納付命令の対象と判断されました。

 これに対して、新日本監査法人の場合、東芝の有価証券報告書の前提となった財務書類の内容に「重大な虚偽」が含まれていたにもかかわらず、これを見過ごして「全ての重要な点について適正である」という意見(無限定適正意見)を表明し、重大な虚偽が含まれていないと証明したことが公認会計士法違反にあたり、課徴金納付命令の対象と判断されたものです。

違反等を認める場合には実質的な審理は行われない

 さて、東芝と新日本監査法人に対する課徴金について、同時期に公表された内容をよく見比べてみると、東芝に対しては「課徴金の納付命令を決定した」と発表されているのに対して、新日本監査法人に対しては課徴金の納付について「審判手続が開始した」とされているという違いがあります。

 実は、新日本監査法人に対する課徴金納付命令はまだ正式に「決定」されていません。これは、東芝と新日本監査法人とで、課徴金納付命令の審判に対する対応が違うことによるものです。

 金融商品取引法や公認会計士法では、課徴金の対象となる法令違反があるとされた場合に、当事者の意見などを聴くための「審判手続」が開始されることになっています。審判手続は、金融庁が指定した審判官(裁判でいうところの裁判官にあたるもの)が、当事者の意見や証拠などを踏まえ、課徴金納付命令を出すかどうかを判断する手続です。

 ここで、課徴金命令の対象者が、「法令違反にあたるようなことはしていない」と考えている場合や、「法令違反は認めるが課徴金額が高すぎる」と考えているような場合には、審理のための期日(審判期日)が開催され、そこで反論をすることになります。

 もっとも、課徴金命令の対象者が課徴金命令に不服がない場合には、審理を省略するのがスムーズです。そこで、審判手続の開始にあたり答弁書を提出し、それら法令違反と課徴金額を認めることを表明した場合には、審判期日を開催することなく(すなわち実質的な審理が行われることなく)課徴金命令を決定することができるとされており、通常はそのまま課徴金命令が下されることになります。

 おそらく、東芝の場合は、課徴金納付命令の審判に際して「法令違反と課徴金額を認める」という内容の答弁書を提出したことで、実質的な審理を経ずに課徴金納付命令が決定されたものと思われます。

 一方で、新日本監査法人の場合は、「法令違反と課徴金額を認める」という内容の答弁書が提出されていないため、審判期日が開催され、実質的な審理に移行しているものと推測されます。

注目される審判での判断

 現時点では、今後、新日本監査法人が審判期日でどのような点を争うのか(あるいは、最終的に何も争わないと判断するのか)は明らかではありません。金融庁のウェブサイトによると、第一回審判期日は2月17日に予定されていますので(昨年12月25日時点の予定)、その時点でどのような主張が出てくるかが明らかになると思われます。

 そのうえで、どのような点が争点となるのかを予想しますと、虚偽の財務書類を虚偽のないものと証明した監査法人に対して課徴金の納付が命じられるのは、監査法人が①故意に虚偽の無いことを証明したか、または、②相当の注意を怠ったために虚偽を指摘しなかった場合に限られます。

 そして、今回の審判では金融庁としても、新日本監査法人が「故意に違反行為をした」とはしていません。

 そうすると、本件では、新日本監査法人が、監査業務を実施するにあたり「相当の注意を怠っていたといえるかどうか」が争点となる可能性があります。

 特に、本件は監査法人に対して課徴金の手続が取られた初の事例ですので、今回の審判の結果は、監査法人に対する課徴金納付命令の実務について一定の指針となる可能性があります。

 監査法人にどのような事情があれば「相当の注意を怠った」として課徴金が課されるのか、審判手続の行く末に注目したいと思います。

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