- 2016年01月13日 10:03
陸上選手として直面した世界の壁 転向で第二の競技人生歩む ゴールボール日本代表 天摩由貴さん - 大元よしき
2/2立ちふさがる世界の壁
天摩の出場種目は100m走と200m走だった。しかし、そのどちらも記録が伸びず、予選敗退を余儀なくされた。パラリンピックという大舞台の凄さをまざまざと見せつけられた気がした。
「ロンドンを目指して、練習して、実際にロンドンに出場して、世界と戦ってみて、自分なりに頑張ってはみたけれど、今の自分の実力では世界のレベルで戦うことはできませんでした。世界のトップと戦うためには、これまで以上の気持ちと覚悟を持って、4年後に向けてもっときついトレーニングをしていかなければなりません。ですが、私にはその覚悟ができず、このまま続けても中途半端になると感じました。それで引退しようと、先生に気持ちをお伝えしたところ……」
「自分のことは自分で決めればいい」と近藤は理解を示したものの「でもな」と続け、「今、日本記録は天摩が持っている。やっと記録が伸びてきて、本当に少しずつだけれど世界との差も縮めてきているし、これからのブラインド女子の短距離はおまえが引っ張っていかなければいけないと思うぞ」と諭された。
「先生はロンドンに行きたいという夢をいっしょに追い掛けてくれた恩師です。だから恩返しのためにも結果を残したかった。頑張って記録を伸ばさなければならないという気持ちもありました。それが競技者としての私の課題であることも理解していました」
しかし、覚悟がない以上、競技を続けても中途半端になりかねない。
近藤からは「タイムイズマネー。おまえはおまえの時間を使っているのだけれど、おまえが走るということは俺たち周りの人たちの時間も使っているということを常に忘れないように」と言われてきた。
自分だけで練習ができるわけではないのだ。時間は無駄にできない。天摩は悩んだ末に「今の自分ではリオで結果を出すことなどできないだろうし、先生にもご迷惑を掛けてしまう」と引退を決意した。
第二の人生へ歩み出す
画像を見る「IBSA ゴールボールアジア・パシフィック選手権大会2015」での天摩選手(右端)
陸上競技を引退した天摩は日大文理学部の大学院に進学。大学院に通いながら、半年間、母校である筑波大学附属視覚特別支援学校の数学の非常勤講師を務めた。そんな矢先にゴールボール顧問の寺西真人から「センスがあるからゴールボールをやってみないか?」と誘われた。それがキッカケとなって、陸上競技引退から1年半後の2014年1月にゴールボールへ転向した。
「長く個人競技をやってきたこともあってか、自分中心的な考え方をしてしまうところがありましたし、皆と足並みを揃えて何かをするということが苦手でした。また、ゴールボールはチームスポーツですので、チームメイトのことを常に意識して行動したり話したりしなければならず、最初はそれに戸惑いを覚えました」
「日本代表に選ばれるようになってからは、『仲間意識を持つことが課題だ』と監督に指摘され、それからは常にチームを意識して、コミュニケーションを取るように心掛けました」
ゴールボールにおける天摩の強みは、陸上競技で養った瞬発力や俊敏性である。コート内の移動やボールを持ってから立ち上がって投げるまでの動きには定評がある。
ただ、天摩自身は「はじめて数か月の私が日本代表にいていいはずがない」と感じていた。さらに、3人で戦う競技なので「自分が足を引っ張ったらどうしよう」「自分のミスで負けたらどうしよう」と怖かったとも振り返っている。
天摩がチームスポーツに馴染むまでには約1年が必要だった。
「今ではコートの3人、ベンチの仲間やコーチ陣も含めて、みんなで戦う競技なんだとわかってきました。仲間をもっと頼っていい。信頼していい。自分がミスをしても仲間がカバーしてくれるし、仲間のミスは自分がカバーすればいい。そう考えられるようになりました」
「また経験に違いがありますので出来ることに差があるのは当然です。それに焦っても仕方がないという気持ちにもなりましたし、少しずつできるようになればいいと思えるようになりました。選手ひとりひとりに個性がありますので、自分の強みを生かせればいいんじゃないかと思っています」
時間は掛かったがチームスポーツというものを身体が理解し始めた。天摩はそこが自分の成長だと感じている。
「チームの目標はリオで金メダルを取ることです。またその先の2020年の東京も見据えて、自分の強みを活かして、チームの勝利に貢献できる選手になりたいと思っています」
ゴールボール女子日本代表は、2015年11月の「アジア/パシフィックゴールボール選手権大会」に優勝し、リオデジャネイロパラリンピックへの切符を掴み取った。
世界の壁をまざまざと見せつけられたロンドンから4年、天摩は2度目のパラリンピック出場を目指して日々精進を重ねている。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



