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新時代迎えた石油取引 政策変化迫られる各国 - 岡崎研究所

フィナンシャルタイムズ紙のマーティン・ウォルフ副編集長が、12月1日付同紙にて、「石油は有限の資源で価格は長期的に上昇する」などの従来の考えはもはや当てはまらず、石油をめぐる世界経済は新しい時代を迎えた、と論じています。

シェール革命により変わる石油取引

 すなわち、BPの主任エコノミスト(元イングランド銀行の主任エコノミスト)のSpencer Daleは、油価がいかに形成されるかにつき、石油は有限の資源で価格は長期的に上昇する、石油の需要、供給は急速に変わる、石油は主として西側諸国に流れる、OPECは市場を安定させようとする、といった従来の考えの多くは間違っている、と言っている。

 これらの考えを揺るがせている一つの理由は米国のシェール革命である。米国のシェールオイルの生産量は、2010年にはほぼゼロであったのが、1日あたり450万バレルに増加した。Dale氏によれば、ほとんどのシェールオイルはバレルあたり50ドルと60ドルの間で採算が合う。

 そのうえシェールオイルの生産性は2007年と2014年の間に30%以上上がった。昨年油価が暴落した決定的な要因はシェールオイルの急速な増加であった。

 その意味するところは何であろうか。一つには短期的な石油の供給の価格弾力性が以前より高くなる。シェールオイル生産の投資も収益も短期であるので、生産のコストは比較的高い変動コストである。その結果、通常の石油の固定コストが高く、変動コストが比較的低いのに対し、供給は価格により敏感である。供給の価格弾力性が高ければ、これまでより市場が価格を安定させるはずである。しかし、シェールオイルの生産は融資の利用可能性により多く依存しており、融資が行われれば供給は増える。

 さらに石油の取引の方向が大きく変わる。米国の純輸入が減る一方で、中国とインドが決定的に重要な輸入国になるであろう。2035年までに中国は必要な石油の4分の3を輸入し、インドは90%を輸入することが予想される。そうなれば、中東の安定に対する米国の関心は減り、中国とインドの関心は高まるだろう。地政学的影響は少なからざるものがある。

 もう一つは油価の安定に果たすOPECの役割である。2020年に油価がバレルあたり80ドルという見通しと、50ドルという見通しがある。後者は米国の供給が続き、OPEC加盟国、特にサウジが生産のシェアを維持し続けるという2つの前提に立っている。ただ、低価格戦略は、長期にわたり公共支出が石油収入を上回るという苦痛を、長期にわたり産油国に与えることになり、いつまで持ちこたえられるであろうか、と論じています。

出典:Martin Wolf,‘Understanding the new global oil economy’(Financial Times, December 1, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/368e73a6-9775-11e5-95c7-d47aa298f769.html#axzz3thOfbqUo

*   *   *

原油価格低迷常態化でどうなる?

 論説は、油価の低迷は構造的なものであり、それは長期的に続くであろうと指摘しています。その大きな要因はシェールオイル革命です。

 シェールオイルの生産は、論説も指摘するように価格弾力性が高く、価格が下がれば生産が落ちるはずです。サウジなど湾岸の産油国が油価の大幅下落にもかかわらず生産を減らさない一つの有力な理由は、油価の下落が米国のシェールオイルに打撃を与え、シェールオイルの生産が減ることを期待したからでした。ところがシェールオイルの供給の価格弾力性は高いはずなのに、油価が50ドルを切っても、米国のシェールオイルの生産量は落ちていません。これは、リグの数は減っても、大規模生産への集約が行われたり、生産性の向上が続いたりしているためと考えられます。シェールオイルの高生産レベルが構造的なものであるならば、低水準の油価が新常態(ニューノーマル)になるということになります。

 今後当分油価の低迷が続くと、いろいろな影響が出てきます。一つは産油国の財政困難です。サウジは既に油価の下落が続くと見て、財政の大幅な見直しを始めています。国民に対するばら撒き的歳出を止める一方で、従来なかった国民への種々の課税を考えています。これはサウジにとり画期的なことで、サウジが対処しきれるかどうかの問題があります。ベネズエラでは12月6日の総選挙で野党が勝ちましたが、最大の理由は油価急落による経済危機であるとみられます。ベネズエラの政変をきっかけに、中南米の左翼政権の連帯が崩れる可能性があります。ロシアも財政が逼迫し、プーチンが今のような軍事支出の大きい対外政策を続けられるかが問われるでしょう。

 論説はシェールオイル革命で米国の中東石油への依存度が減り、他方中国とインドの中東石油への依存度は高まる一方なので、中東の安定に対する米国の関心は減り、中国とインドの関心は高まるだろう、と言いますが、米国は世界の指導的国家として、中東の安定に関心は持ち続けるでしょう。中国とインドの中東への関心が高まると言っても、これまでの米国のように中東に軍事介入することは考えられません。地政学的影響は大きいでしょうが、論説が示唆するほどのものではないのではなでしょうか。

 さらに、地球温暖化対策への影響も考えられます。油価が中期的にあまり上がらないとすると、新エネルギー開発のインセンティブがそれだけ弱まり、地球温暖化対策に影響が出てくるかもしれません。

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