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フィンテックの作る世界

「今月の賃料支払いが遅れているんですけれど」と私のテナントにこう催促したところ、「すみません、今から送りますのでメールチェックしてください」と言われ1分後ぐらいに一通のメール。そのメールを開けるとそのテナントからの振り込みのお知らせ。自分の入金したい銀行名をリストから選びテナントと私の間の共通のパスワードを入力すればその瞬間に私の口座にお金が入金しています。その間、3分もかからないでしょう。これはカナダでの話です。

同様の「事件」は駐車場部門でもありました。駐車場の出口で料金清算するにあたり、支払いたいけれど現金の手持ちはない、クレジットカードは使用不能状態。頼みの綱のデビットカード(キャッシュカード)にもお金が十分入っていません。どうするのだろうと思っていたらうちのスタッフに「ちょっと待ってください」と言い、友人に電話をして送金の依頼をしています。「今、駐車場の支払いでお金が足りないんだ。○○ドル、送ってくれる?」と言い、数分後にはその人のデビットカードに入金完了、めでたく支払いを済ませ、無罪放免、帰途につきました。

これはカナダでの話ですが、このような技術は今は世界中で普通にできるようになってきています。この送金は全部無料。そして瞬時です。24時間いつでもOKであるところもミソです。

日本でインターネットバンキングで振込み手続きをすると処理は翌日になります。その上、手数料が数百円程度かかります。この違いは何でしょうか?

90年代後半に金融ビックバンというがありました。それまでは株式の売買は証券会社の担当に電話をして売り買いの指示をしていました。その後、自動電話サービスで売買が出来るようになりました。それでもそのプロセスは数分かかり、売買できたかどうかの確認もその電話サービスに再びアクセスしないと分かりませんでした。手数料も一取引で片道万単位の金額だったと記憶しています。それがビックバンでネット証券が参入、証券取引手数料は果てしなく下がり続け、大手もそれに追従する形となりました。今では一定の棲み分けが出来ているようです。

フィンテックの目覚めは証券業界が経験した革命的変化の銀行版となる可能性があります。

銀行の業務とは何でしょうか?お金を預けたりお金を借りたりします。その貸し借り業務、あるいは支払いや振込みを銀行が介することで「お金の血液」の流れを担っています。私の日本法人の経理の勘定を見ていると支払先も入金先も○○銀行が毎月一番多いのです。つまり銀行を介してより多くの手数料を払い、我々会社も個人も「囲い込み」されていると言ったらよいでしょう。この世界がすっかり変わるとしたらどうでしょうか?

クレジットカード。これは使う方は便利ですが、提供している売り手にとってはそれなりの負担があります。それは決済に伴う費用。ビザやマスターカードの様な汎用型カードですとその手数料はボリュームにより違いますが私のところは大体1.6%程度払っています。但し、その料率は一筋縄ではなく、顧客のカードにより様々な追加費用が掛かり、結局、1.6%では収まらないようになっています。たとえ0.01%の付加費用でもカード会社の扱い金額を考えればとてつもない利益に繋がるのです。アメックスのような「高級カード」になると売り手は悲惨で決済費用が高いだけではなく、例えば客にリファンドをしても高い手数料を請求されるのです。

このクレジットカード決済も変化が見られます。先日、カナダである電機業者に単発の小さな工事を発注した際、前払い分をカードで決済してほしいと言われていました。当日、現場にトラックで乗り付けた業者が手に取ったのはiPhoneで、それに小さな決済端末を付けカードをスワイプするとあら不思議、クレジットカード決済端末に早変わりするのです。レシートはメールで送られてきます。日経ビジネスには日本で無料型も生まれていると紹介されています。つまり、かつての金融のビジネスモデルは明らかに変化してきているということです。

池井戸潤氏の小説は銀行内の審査に伴う稟議決裁に焦点を当てたものがしばしば見受けられ、ドラマを見ている人も「そうそう、銀行ってこうなんだよね」とか「晴れの日に傘貸して、雨の日に取り上げる」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし、このフィンテックが体系化されれば池井戸潤氏のドラマは「いつの時代の話?」と言われるようになるのかもしれません。

個人が起業するにもその開業資金を貸してくれないのは洋の東西を問いません。特に多いのが飲食系ですが、私の知っている会計士では「飲食系で税務申告業務を引き受けるなら費用前払いでお願いします」というところもあります。それぐらい信用度が低くても今やクラウドファンディングで資金を集めることが可能になるかもしれません。

なぜなら銀行は過去の実績を審査しますがクラウドファンディングはその会社の将来に融資するからでしょう。勿論、リスクは高くなりますが、その中から芽が出ることでビジネス界に新風を取り込むチャンスはもっと大きいでしょう。

となると日本に数多くある銀行の在り方は早急に見直さねばならなくなりそうです。NTTや電力会社が自由化の並に押され、通信や電気のインフラの提供をする位置づけに変ったのと同様、金融機関のシステムが「お金のインフラ」に変わるにはさほど時間はかからないでしょう。その時、銀行が銀行業務として維持する分野と「割譲」されてもよい分野が必ず出てきます。手数料業務は割譲対象でしょうからそれに依存する銀行が生き残る道は細くなりそうです。今のメガバンクのような海外融資や事業を含めた総合力がないと厳しくなるところが増えてくるでしょう。

これは日本の金融機関だけでなく、世界で同じ問題が発生するでしょう。フィンテックという新しい技術が作り出す金融業界への風は暴風状態となるかもしれません。金融業界の変身のスピードが生き残りを左右しそうです。

では今日はこのぐらいで。

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