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中国も匙を投げた台湾総選挙 台湾総統選挙、民進党の「歴史的大勝」なるか - 野嶋 剛

4年に一度、行われる台湾の総統選挙には、いささか、常軌を逸した熱気がある。投票率はいつも7割を超える。一種のお祭りであり、選挙ビジネスと言われるような、選挙集会の出し物や音楽、屋台などを含めた膨大な経済効果を生む。台湾の選挙は寒いときに行われることが多い。そうなると、南方の台湾といえども、夜はかなり冷え込んでくる。

 選挙集会の取材は、完全防寒の出で立ちで臨み、現場では、屋台で売っている熱々の「杏仁茶(アーモンド茶)」を飲みながら、生ニンニクのついた「香腸(中華ソーセージ)」をかじって暖をとりながら、熱い戦いを観戦するのが台湾選挙の楽しみ方である。

熱気のない総選挙

 しかし、今年1月16日に行われる総統選は、肝心の熱気がそこまでは感じられない。その理由は、すでに大勢が判明しているからに外ならない。

 民進党候補の蔡英文の勝利がほぼ確実で、同日に行われる立法院選挙でも、民進党は史上初の単独過半数をうかがっている。この流れは、突発的な大事件でも起きない限り、覆らないだろう。「歴史的会談」と大騒ぎになった昨年11月の馬英九総統と習近平・国家主席の中台トップ会談も、民進党有利、国民党劣勢の選挙情勢には、ほとんど影響を与えることはできなかった。

 いまは、民進党の勝ち方が、「歴史的」と呼べるほどの大勝になるのかならないのかという点に、台湾社会の関心は集中している。

 ここまでの世論調査の結果は、かなり衝撃的である。台湾の世論調査は投票日前2週間で打ち切られるが、蔡英文の支持率は終止、40%以上を維持し、20%ほどで頭打ちする国民党の朱立倫を20%前後引き離している。

 第三の候補で主張は国民党に近い親民党の党首・宋楚瑜の支持率がかえって伸びており、国民党が分裂して民進党の陳水扁に敗北した2000年の総統選挙に似た構図になっている。2000年と違うのは、陳水扁が得票率39%で当選した「漁夫の利」だったのに比べて、今回はこのままの世論調査を反映したと仮定した場合、蔡英文の得票率は過半数どころか、過去で最高得票率を得た08年の馬英九の58%までも超えてしまいかねない可能性が生まれている。

 過去の選挙と比べても、世論調査でもここまで差が開いたことは珍しく、リードしている蔡英文が冷静沈着、優等生で知性派というキャラクターで安全運転に徹していることもあり、盛り上げ役がいないのである。

 もともと民進党の実力は、総統選においては、だいたい40〜45%であり、国民党の固い地盤を突き崩すには、04年のときのように現職という有利さと、投票日前日の陳水扁への銃撃事件のような、何らかの「加点」が必要であるということが、伝統的な台湾選挙観察の基本条件だった。

 しかし、今回は、そんな既成概念を崩すような結果になりそうだ。民進党の蔡英文は現職ではなく、直近の台湾で民進党に何か大きな得点があるような問題が起きたわけではない。蔡英文は08年ごろの馬英九のようにカリスマ的に光を放っているわけでもない。では、いったいどうして民進党がここまで有利に戦いを進めているのか。自分たちを「台湾人」と考える人々の台湾アイデンティティーの成熟や中国への過度の接近を恐れる気持ち、14年のヒマワリ運動で大きく変わった人々の政治意識の影響など、選挙結果を見たうえで詳しく分析されるべきだろう。

 それにしても、現時点ではっきり言えるのは、本来は優勢である地力を持っているのにもかかわらず、その力を発揮できないでいる国民党の不甲斐なさである。まるで8年前の民進党を見ているような思いにとらわれてしまう。

 13年に起きた馬英九総統と立法院長の王金平との間で起きた「9月政争」と呼ばれる内紛に始まり、今日まで、国民党が一致団結して民進党に戦えるようなムードが作られることは一度もなかった。総統候補選びでは、本来出馬の候補となるべき朱立倫・党主席、呉敦義・副総統、王金平の大物3人がそれぞれ相手の出方をうかがったり、不利な戦況に怖じ気づいたりするなどして誰も声を上げず、予想外の形で、女性の洪秀柱・立法院副院長が候補に躍り出た。

 その洪秀柱が中国問題などで従来の国民党の路線を逸脱するほど中国寄りと取られる発言を連発すると、朱立倫は「洪おろし」を仕掛けて自らが候補に取って代わった。しかし、選挙戦は最終盤ともいえる10月に入っていたほか、朱立倫が選んだ副総統候補のスキャンダルが話題になったこともあって、劣勢を回復させる形にはほとんど至っていない。

中国の敗北宣言

 国民党の影の支援者である中国も完全に諦めムードで、何か選挙に影響を与えるような行動を取ることはあり得ないだろう。年末には高名な台湾研究者である上海東亜研究所の章念馳所長が「民進党が勝ったからといって、世界の終わりが来るわけではない。独立ができるわけでもなく、台湾は(経済的に)大陸にここまで依存しているのだから、必ず大陸に近づいてくるはずだ」と語っているが、一種の負け惜しみ、あるいは、敗北宣言に等しい。

 蔡英文も「現状維持」を掲げており、一定程度、馬英九政権の対中融和路線を引き継いでいく考えを示しているが、それにしても、中国から台湾に多くの「善意」を提供し続けた馬英九政権の8年間はいったい何だったのかと思わせるような負け方をすれば、経済によって台湾を引き寄せるという中国の従来の戦略は、抜本的な見直しを求められることは避けられないだろう。

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