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ラグビー日本代表「打倒・南アフリカの1500日」 - 歴史的勝利は、周到で猛烈な準備から生まれた

嶺 竜一=構成 松本昇大=撮影

前回W杯敗退後、日本代表の組織改革を託された岩渕健輔氏。勝利を義務付けられた彼が南ア戦に仕掛けた方策とは──

勝つことに徹底レフリー対策まで

──イングランドW杯での南アフリカへの勝利を含む3勝という結果を率直にどう評価されていますか。

昨年秋にベスト8に修正しましたが、エディー・ジョーンズヘッドコーチと私がGMの新体制でスタートした約4年前、2015年大会の目標はトップ10でした。しかし、周囲もファンもそれは無理だと思った。なぜならそれまでのW杯7大会で、日本は1勝しかしていないからです。

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日本代表W杯の歴史

そこで、エディーと私は、「日本が世界で勝てない原因は何か。原因を究明し、真摯に受け止め、できるすべての準備をしよう」と話し合いました。

代表合宿を増やし、選手のフィジカルを鍛え抜きました。本番に向けてはレフリー対策が大きかった。ラグビーはレフリーとの相性が勝敗を大きく左右するスポーツです。南アフリカ戦の主審となるジェローム・ガルセス氏を今年8月に日本に呼び、日本代表の試合で笛を吹いてもらいました。そこで選手は世界レベルのジャッジを学ぶとともに、レフリーとコミュニケーションを取ることができた。それが今回の勝利に繋がったことは間違いありません。一方、スコットランド戦のレフリーは呼ぶことが叶わなかった。

また日本代表は今年4月、開催国のイングランドに全員で視察に行きました。資金がいるため協会でも議論になりましたが、押し切りました。「日本の選手は初めての環境ではいいパフォーマンスが出せない」という結論が出ていたからです。さらにW杯直前には、試合予定のスタジアムでテストマッチもしています。

細かな準備を4年間、一つひとつ遂行してきた。その成果として今回の3勝があったと思っています。

──今回、日本代表は31人中10人が外国人または国籍取得選手です。しかし、“助っ人外国人”という印象はなく、チームの結束を感じました。
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ラグビー日本代表ゼネラルマネージャー 岩渕健輔氏

エディー・ジョーンズは私に、「チームに最も大切なのは、チームとしてのアイデンティティやカルチャーをつくることだ」と話しました。人種や国籍は関係ないと。重要なのはチームをまとめるリーダーをいかに育てるかでした。ラグビーという競技は試合中、監督やコーチはベンチに入れませんから、選手は多くの判断をフィールドでしなければならない。エディーの指導は猛烈なスパルタです。その一方で選手の自主性を育て、リーダーを育てることを考えていた。エディーはリーダーに指示し、選手に落としこむプロセスはリーダーにやらせるということを徹底しました。

──マイケル・リーチ主将のリーダーシップは素晴らしかった。

ニュージーランド出身で高校から日本に住み、英語と日本語を話し、外国人と日本人の両方の考えがわかるリーチの存在は非常に大きかった。バイスキャプテンの五郎丸歩も、堀江翔太も、非常に成熟したリーダーに育っていった。五郎丸が大活躍したのは、猛烈な練習の成果であることはもちろんですが、人間的な成長が非常に大きい。エディーが五郎丸に役割を与えて自覚を持たせ、パフォーマンスが向上した面はあると思います。

──南アフリカ戦の終盤、ペナルティゴールで同点に追いつく場面。コーチからゴールの指示が出ていたところを選手は従わず、スクラムでトライを狙いました。

あのとき、マイケル・リーチが現場でスクラムの判断をしたそうです。あれには伏線がありました。南アフリカ戦の日の朝にカフェで、エディーがリーチに「最終的な判断はおまえに任せる」と伝えていたのです。

スタッフにも求めた勝つための準備

──エディー・ジョーンズと選手に軋轢などはなかったでしょうか。

ずっとギリギリのチーム運営でした。その証拠に、日本代表のスタッフも4年間でかなり入れ替わっています。彼のスタンスは常に、結果がすべて。勝たなければ好かれても意味がない。目的のためには衝突も全く厭わない。練習量も、スタッフへの要求も、エディーがチームをギリギリのところに追い込みながら、最後までやらせ切った。だからこそ勝てた。そこが彼の最も優れた能力かもしれません。

──岩渕さんも12年、36歳の若さでGMに就き、日本ラグビー協会で大胆な改革を推進されてきました。

私が幸運だったのは、19年に日本でW杯の開催が決まっていたこと。大会の成功のためには日本代表が予選を突破し、トーナメントを勝ち上がることが必須の条件でした。今こそ変わらなければという認識が日本協会の中にあった。そうでなければ私にGMのオファーは来なかったでしょう。変革を実行する中で代表チームがウェールズ、イタリアといった格上の強豪に勝ち、結果を出してきたことで期待感が高まったのも大きかった。

“強豪国に勝つ”という文化の継承

──次のW杯、東京五輪に向けて。

これからが大変になりましたよね。日本に対して油断して戦うチームはなくなり、研究もされる。世界のトップクラスとの差はまだまだある。その差を縮めるために、強化のシステムをつくらなくてはいけない。強豪国と試合をすることは重要ですが、欧州の6強(イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、イタリア)、南半球の4強(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン)は毎年定期戦を行っている。そこに入れない日本は、決定的な差をつけられている。仕組みをなんとかしなければなりません。

南半球4強国のリーグ、スーパーラグビーに、来年から日本チームのサンウルブスが加わる。一つの大きな転換点。サンウルブスは日本代表に近いチームになります。

──エディー・ジョーンズが日本代表監督を離れてしまいます。

選手がより主体的になり、どんな相手に対しても勝つという文化を継承しなければいけない。私もかつて日本代表でプレーしましたが、強豪国と試合するとき、お客さんは絶対勝てないと思って見に来るし、私たちもどこかでやる前に負けていた。しかし今回、“強豪国に日本代表が勝つ”という文化ができた。ファンも勝利を期待して見に来てくれる。指導者が代わっても、この文化は絶対に継承しなければいけません。

ラグビー日本代表ゼネラルマネージャー 岩渕健輔
1975年、東京都生まれ。青山学院大在学中に日本代表に選出。神戸製鋼へ入社後、ケンブリッジ大学修士課程を修了。2000年に日本人で初めてイングランドプロリーグのサラセンズでプレー。09年日本ラグビー協会に入り、12年より現職。

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