記事

JTは進駐軍にならない M&Aの秘訣を新貝副社長に聞く - 中西 享

JT(日本たばこ産業)が海外企業の買収をテコに事業規模を拡大、たばこメーカーとして世界ナンバーワンを目指している。1980年代から海外の買収に関わり、いくつもの企業買収と統合を成功させてきた新貝康司副社長にインタビューし、M&A(企業買収・合併)の秘訣を聞いた。

「選択と集中」

 M&Aの調査会社レコフの発表によると、2015年1月から11月8日までで、日本企業による海外企業の買収金額が初めて10兆円の大台を超えた。人口減少で国内市場が縮小する中で、主要企業が海外に活路を見いだそうと、海外の企業を買収して事業拡大に取り組んでいる。

 JTはこうした潮流を先取りし、これまで米RJRナビスコ社の米国外たばこ事業、英ギャラハー社という2度の大型買収をはじめ、10件以上のM&Aに取り組み、事業拡大に成功してきた。この結果、売上規模では米フィリップモリス・インターナショナル(PMI)、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)に次いで世界第3位の地位を確固たるものとした。14年は連結ベースの営業利益のうち6割以上を海外たばこ事業で稼ぎ出している。

 海外だけではなく国内の買収にも積極的だ。08年1月には冷凍食品大手の加ト吉を約1000億円で買収、その以前には旭化成の食品事業、鳥居薬品などを買収、食品、医薬品分野の事業基盤を強化してきた。買収の一方で、既存事業からの撤退も実施している。15年7月には飲料自販機オペレーター事業などをサントリー食品インターナショナルに1500億円で売却、同年9月には「Roots」「桃の天然水」などのブランドを持っていた飲料の製造販売事業から撤退、経営資源の「選択と集中」を断行してきている。

任せるところは任せる

Q たばこ事業の今後をどう見るか。また、買収により世界ナンバーワンを狙うのか

A 伝統的なシガレットビジネスについては、先進国では減少傾向にあるものの発展途上の新興市場では成長余地が大きい。今後ともJTのプレゼンスが小さい新興市場への地理的拡大を進めていきたい。

画像を見る
新貝康司(しんがい・やすし)1980年京都大学電子工学課程修士課程修了後に日本専売公社(現JT)に入社、財務企画部長、財務責任者(CFO)などを 経て2006年から11年まで海外たばこ事業の世界本社であるJTIの副社長兼副CEO。2011年6月からJT代表取締役副社長。59歳。大阪府生ま れ。15年6月に『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』(日経BP社)を出版した。

 シガレット以外で新たに成立している商品、例えば電子たばこなどのカテゴリーを強化していきたい。電子たばこ市場は世界で50億ドルと推定され、特に最大市場の米国では14年から18年までの間に年率40%伸長するとの外部調査がある。引き続き市場動向を注視していく。

 また、電子たばこではないが、たばこ葉を電気で加熱して味・香りを楽しむ「プルーム」という製品をオンラインなどで販売しており、市場開拓に向けて期待を込めてトライしている。

 いつまでに世界で首位になるという目標を定めているわけではないが、利益をはじめ商品の革新力、人財力など、有形、無形の要素を含めてナンバーワン企業を目指したいと考えているし、常々社員にもそう伝えている。上位メーカーに短期間で追いつけ、追い越せと号令をかけているわけではない。

Q 買収するに当たってのJT本社と、海外の買収を統括するJTI(ジュネーブ、Japan Tobacco International)との関係は

A 一般的に欧米グローバル企業は、明確な戦略フレームワークを作成し、その実現のためのオペレーションは現地に委ねるスタイルを採用している。一方で日本のグローバル企業は、個々の国のオペレーションに対して、「カイゼン」といったベストプラクティスの共有に軸足をおく傾向にある。私は12年間M&Aの仕事をしてきたが、グローバル化を進める中で、日本流ベストプラクティスを押し付けるのではなく、欧米流・日本流の長所をブレンドすることが重要だと考えてきた。

 その結果たどりついたのが、買収企業との統合を進める中で、「こういう例はうまくいった」という事例を紹介して、それをJTIが自発的・主体的に採用してもらう手法だ。JT本社が適切にガバナンスしながら、現地に任せるところは任せる。そうしないと現地は不満と言い訳だらけになる。

Q JT本社とJTIとの意思疎通を良くするために具体的にどういうことをしているか

A 意思決定の見える化をしている。JTIの役員は世界中を飛び回っているため定期的に経営会議などは開催できないが、その代り、すべての意思決定は原則として「電子意思決定システム」で実施している。このシステムでは、JTのたばこ事業本部長がその気になれば、JTIの意思決定を全て端末上で閲覧することができる。意思決定に際しては明確な責任権限規程が定められており、かつJTI側にとっては「見られている」ことで透明性の高い良質な意思決定が実現できる。

 また経営情報についても見える化を推進している。例えば、主要マーケットでの売上数量実績を毎週、対前年比、対計画比でどう進捗しているかをブランド単位で確認することができる。こうした情報共有を前提にして年に2回、JTとJTIは経営計画について議論する。

 買収を手掛けた日本の企業からは、「買収した会社から情報が取れない」という声をよく聞くが、まずは買収完了時にこのような意思決定や情報共有ルールを約束事として決めておくことが肝要だ。

買収会社に配慮

Q 買収が成功するかどうかは被買収企業をいかに統合するかだといわれるが、統合する際の基本的な方針は

A 買収には3つのステージがある。結婚に例えれば、買収の発表は婚約、買収の成立が結婚式、買収後の統合が結婚生活に相当する。買収は統合まで成功しないと、買収が成功したとは言えない。統合が成功するためには3つのことが重要だ。

 まず1つ目は、買収、統合にかかわる社員に対して、当事者意識を鼓舞し続けることだ。統合計画策定をコンサルタント会社などに任せると、社員が策定にかかわっていないため、計画通りに事が運ばす、困難な状況に遭遇するたびに言い訳の材料にされることが多い。社員は日々の業務もこなしながら統合作業にも従事することで、当事者意識が生まれてくる。

 2つ目は、人的な側面を大切にしなければならないという点だ。買収側企業は、ややもすれば被買収企業に上から目線で対応しがちで、RJRインターナショナルの買収の際、まさにそうした事態が起きた。この教訓を生かし、ギャラハーの時は買収完了前にギャラハーの幹部約50人と個別面談して、じっくり話し合う機会を設けた。買収側、被買収側が将来の不安を抱えたまま日々のビジネスを行うと、下手をすれば競争力が落ちて他社の「草刈り場」にはなりかねない。買収側は謙虚な姿勢で、被買収側の心の機微をくみ取ることが重要だ。JTは「進駐軍」にはならない。

 3つ目は常に顧客や事業から目を離さないことだ。ギャラハーは株主への還元を重視するあまり高配当を行ったが、商品への投資を怠ったため、商品の革新力を失う結果になった。JTには、顧客をはじめ株主、従業員、社会の4者の満足度を高めていくとする経営理念「4Sモデル」があるが、それを踏まえ、いま市場の中でJTがどのような状況にあるかを、日頃の仕事の中で考えていなければならない。

Q JTは自前で財務能力の向上を行ってきた。買収に際してファイナンシャルアドバイザー(FA)をあまり使わないそうだが、その理由は何か

A  FAに期待しているのはインテリジェンス(情報収集)だ。発展途上国などで、地元の投資銀行でしか得られない情報はFAの力を借りて補完する。FAは買収までのプロセスは知っているが、事業内容までは把握していない。助言を受けるのは買収が成立するまでで、その後は自分たちが主体的に買収後経営の青写真を描かなければならない。

「アメスピ」は勝算あり

Q 昨年9月に発表した米国のたばこ大手のレイノルズ・アメリカンの人気ブランドであるナチュラル・アメリカン・スピリット(アメスピ)の米国外事業買収については、買収金額が6000億円と巨額で、高値掴みではないかとの批判もあったが

画像を見る
ナチュラル・アメリカン・スピリット

A アメスピの買収発表時に株価は一瞬下げたがすぐに回復し、その後10日間で発表前の株価よりも高値となった。一つのブランドの買収額が6000億円という高額だったため一部の投資家から強い懸念が寄せられたが、われわれとしては確たる裏づけがあった。6000億円はアメスピの成長性やシナジーを保守的に算定した結果であり、先般も投資家説明会で詳しく説明し、納得してもらったと考えている。

 売れているブランドには独特の世界観がある。世界一のブランド「マールボロ」が米国の開拓精神につながるイメージがあるように、アメスピにも独自のブランド力、世界観がある。これはJTが作りえなかったブランドだ。アメスピの日本での販売本数は2011年が6億本、12年が8億本、13年が11億本、14年が15億本と成長が加速しており、15年は20億本までになると予測している。シガレットの市場規模が縮小する中で、これだけの驚異的な伸びを示しているのは、アメスピが独特の世界観を有し、顧客と情緒的に結び付いているからだ。数年後には採算に見合うと確信している。

あわせて読みたい

「JT」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。