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2016年ロシアの展望やいかに - 廣瀬陽子

2015年も残り僅かとなり、来年の展望を見据える時期となった。ロシアにとっての2015年はかなり厳しい1年であったが、ロシアを苦しめた諸問題の多くは来年も継続すると考えられる。

 そこで本稿では、2015年のロシアの諸問題をざっと振り返り、その上で2016年の展望を検討していきたい。

ロシアにとって厳しかった2015年

 2015年はロシアにとって極めて厳しい年であったという評価に異論はないだろう。 

 第一に経済の停滞である。2014年末から深刻になっていたウクライナ危機による対露制裁およびロシアの報復、そして石油価格の暴落とそれに比例するかのようなルーブルの下落などで、ロシアの経済パフォーマンスは極めて悪化した。それでも、政府のプロパガンダが功を奏し、国民は、経済悪化の原因は全て欧米(特に米国)にあるとして、欧米に対する敵意を強めていく一方、愛国心を高めており、プーチンに対する支持率も85%前後を維持している。

 第二に、ウクライナ問題およびその余波である。ウクライナ問題は2015年もロシアを悩ませ続けた。2月12日にいわゆる「ミンスク2」合意が成立し、その後は、ロシアの軍事的関与は徐々に収まっていったが、ウクライナ東部の情勢が安定したわけでは決してない。

 そもそも「ミンスク2」の合意は、年内の和平プロセス完了を想定していたが、パリで10月2日に行われたウクライナ東部情勢に関するフランス、ドイツ、ロシア、ウクライナの4カ国首脳会談は、親露派武装勢力の支配地域で予定されていた独自選挙の先送りなどに合意し、紛争沈静化へ向けて一定の成果を上げた一方、「ミンスク2」を期限があいまいなまま引き延ばした。

 ウクライナ東部がロシアへの編入を求める一方、ロシアはウクライナ東部を不安定なままウクライナに残すことを最善としており、ウクライナ東部情勢は当面、不安定な現状を維持する形で推移しそうだ。ロシアにとってウクライナ東部情勢の不安定化の継続は望ましいことだが、それが故に欧米諸国による対露制裁は現在も継続している。EUは今年9月14日に「149人の個人と37の団体を対象とする資産凍結と渡航禁止」に関する対露制裁を6ヶ月延長した。なお、別の対露制裁も2016年1月まで延長されている。それでも、EUは制裁の強化は行っておらず、停戦順守の状況次第では制裁緩和の道もあるという立場をとっている。

 一方、強硬姿勢を貫いているのが米国だ。米国は制裁を継続させているだけでなく、2015年12月22日には、追加制裁も発動させたのである。この対象は22人の個人と12の企業であり、それら個人のうち14人は、これまでの制裁措置の対象となっていた人物や企業を幇助した者であり、うち6人はウクライナの親ロシア派で、2人はウクライナのヤヌコーヴィチ前大統領の高官、12の企業にはクリミアに進出したロシアの3銀行なども含まれており、米国財務省は今後、さらに制裁の対象が拡大される可能性にも言及している。このような経済制裁の継続は、石油価格下落とともにロシア経済に大きな打撃を与えている。

シリア空爆では被害受けつつ利益も

 第三にシリア問題である。ロシアは2014年夏頃から、国連を含む国際的な場で対ISIS(イスラム国)大連合を呼びかけてきた。だが、その呼びかけへの欧米からのポジティブな反応を得られないまま、9月末からシリア空爆に着手し始めた。シリア空爆のインセンティブとしては以下の通り、幾つかのファクターがある。

 第一に、アサド政権を守るためである。シリアにはロシアの旧ソ連諸国以外で唯一の海外軍事基地があり、盟友アサドを守ることはロシアの利益に直結する。さらに、アサド本人のみならず、イランやイラクもロシアに介入を要請した。

 第二に、ウクライナ問題から世界の目をそらすとともに、シリア問題解決で世界に貢献し、制裁を解いてもらうとともに、あわよくばクリミア併合も認めて欲しいという、ウクライナ問題とのトレードオフである。

 第三に、ISISにロシア人(特に、ムスリム系)が多く参加している現状に鑑み、それらがテロリストとして養成され、ロシアに戻ってテロを起こすことを警戒しているということがある。

 ロシアのシリア空爆はかなりの効果をもたらしていると言われる一方、欧米はロシアが反アサド派を攻撃していると激しく批判している。また、11月にはISISによるエジプト・シナイ半島上空でのロシア旅客機爆破事件、また、トルコによるロシア軍機の撃墜(トルコ側は領空侵犯と注意喚起の無視を主張する一方、ロシアはそれらを否定)という事件も起きるなど、ロシアも甚大な被害を受けている。

2016年の展望は?

 上述のように、2015年はロシアにとって大変な年であったが、これらの問題は2016年においてもロシアの問題であり続けると考える。

 まず、石油価格は当面、停滞が予想されており、またウクライナ問題が解決しない限り、対露制裁も継続されると考えられる。加えて、近年経済関係を強めてきた中国経済も悪化してきた上に、世界全体の経済状況も低迷していることから、ロシアの2016年の経済展望はかなり暗いと思われる。

 特に石油価格の低迷はロシア首脳にとって極めて頭の痛い問題であろう。ロシア経済の低迷については、1月の拙稿「ロシアの経済危機はウクライナ問題がなくとも予想されていた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4626)」 で述べた通りだが、石油価格の下落は、ロシアのみならず他の資源保有国の経済に打撃を与えていることもご理解いただきたい。

 たとえば、カザフスタンでは、通貨テンゲが2015年8月19日に1年半前に実施した切り下げ以来の大幅下落を記録し(なお、この下落については、石油価格の問題よりも、むしろ中国の人民元下落の余波が大きく響いたという見方もできる)、9月には完全変動相場制に移行していたが、12月18日には、1ドル=345.5テンゲと、史上最安値を更新してしまった。変動相場制への移行前には、1ドルが182〜188テンゲあたりを推移していた事を考えれば、その価値は約半分近くに下落してしまった事になる。

 また、アゼルバイジャンも12月21日にペッグ制を採用してきた通貨マナトの変動相場制に移行させることを決定した。同日、マナトの対ドルレートは、1ドル=1.55マナトとなり、前週末の終値と比較すると約32%の下落と大きな動きを見せた。なお、2015年の初頭のマナトの相場と比較すると、対ドル下落率は約5割であった。このような通貨の下落について、アゼルバイジャン側は、石油価格の低迷に加え、ロシアなど経済関係が強い国通貨下落の余波を受けていることをその理由だと説明している。ちなみに、今年の2月まではアゼルバイジャンはマナトについて、ドルとの固定相場制をとっていたが、通貨バスケット制に移行したばかりであった。アゼルバイジャン中銀は、買い支えに躍起になってきたが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げで、買い支えももはや無理であると判断したと考えられる。

 このように旧ソ連の資源保有国の経済は軒並み悪化している。とはいえ、前述の拙稿でも述べたように、2013年くらいから経済の低迷は予測されていたし、過去8年に渡り、基本的に経済パフォーマンスは停滞してきた。

打開困難な経済状況で鍵握る“国民の忍耐力”

 ロシアは、2016年は、国内の備蓄を切り崩すことで、経済はなんとか維持できると思われるが、経済を回復させることは極めて難しそうだ。ウクライナ危機発生前の2013年の段階でも、経済成長率が1.3%でありながら、原油価格は常に1バレルあたり100ドルを大きく上回っていたことを考えると、石油価格だけでロシア経済の低迷を打開することは難しそうだ。

 特に深刻なのは、投資が引き続き減少していることだろう。最近、財政支出削減が行われた結果、非軍事部門の一連の投資削減が行われ、特に産業建設や住宅建設の投資が大きな打撃を受けている。2016年には、財政支出は実質ベースで3-5%減少すると予測されているが、全企業利益の2/3を生み出しているのは原材料を輸出する企業であるにもかかわらず、それら企業は国内投資に暗い展望を持っていることから、利益を投資ではなく配当に向けるであろうことが想像されている。加えて、対露制裁が継続する中、海外からの投資は、特に新規の案件については当然期待できない(「モスクワ・タイムズ」2015年12月10日)。

 このような状態で、ロシアの安定の鍵を握るのは国民の忍耐力だろう。ロシア国民は、通貨ルーブルが約50%下落し、国内の消費水準も約10%低下している状況の中で、確実に経済の悪化を感じてはいる。

高いプーチン支持率の裏で強まる反欧米志向

 しかし、少なくとも今は、怒りの矛先をプーチン政権ではなく、欧米に振り向けることで、むしろプーチンへの支持を弱めることなく、欧米への対抗心で一体感を深めている。現在は、欧米がロシアを叩けば叩くほど、国民が反欧米志向を強め、プーチン支持の気持ちを強めている状況だ。

 プーチンに対する支持率は、2014年のクリミア編入後、85%前後と一貫して極めて高い。そして、この支持率は、ロシア経済の悪化に対する国民の忍耐力の大きな源となる。ロシアの有識者がこぞって今後数年のプーチンに対する支持の盤石さを力説する現状においては、来年については国民の忍耐力は保たれると思われる。つまり、経済状況は引き続き悪いが、プーチン支持率は高いままで、社会の安定も保たれると考えられる。

 しかし、ルーブルの貨幣価値の低下などで海外旅行好きのロシア人の海外旅行がかなり制限されている中、制裁下にあってもロシア人に人気があったトルコやエジプトへの旅行についても、ロシア機撃墜事件での対土制裁の一貫におけるトルコ旅行の自粛要請、飛行機爆破テロ以後のエジプトへの渡航自粛勧告などで、ロシア人のフラストレーションはますます高まると思われる。そのため、プーチンが少しでも戦術を誤ると、大きな社会不安が襲ってくる可能性は否めない。

 次に、ウクライナ問題であるが、こちらも当面膠着状態が続きそうだ。ウクライナ東部の問題は引き続きくすぶると思われ、ウクライナ東部の選挙もしばらくは実現しないと考えられる。

 その一方で、ウクライナの親欧米路線の深化やプーチンが嫌うサアカシュヴィリ元ジョージア大統領をウクライナ・オデッサの知事に据えていること、またクリミアに対して経済封鎖や送電停止などを行っていることなどにロシアは反感を強めている。

 ロシアはただでさえ経済状態が悪い中、シリアでの戦争に国の軍事資源の多くを投入せざるを得なくなっているため、ウクライナへの軍事介入を強める可能性はかなり低いと思われる。このため、ウクライナの不安定な現状を維持することを重視しつつも、国際社会からの制裁解除を模索していくと考えられる。だが、上述のように、欧米は対露制裁を継続しており、特に米国は制裁のレベルをさらに上げていることから、ロシアもウクライナ問題での対欧米姿勢を軟化させることが難しくなっており、交渉も困難となることが危惧される。

シリア問題がロシアにもたらすものとは

 そして、シリアやISIS(イスラーム国)の問題であるが、ロシアにチャンスと同時に深刻な脅威をもたらすと考えられる。

 まず、チャンスは、ロシアが切望してきた「対 ISIS大連合」が生まれることである。特に、フランスで同時多発テロが起き、フランスとロシアの対テロ協力体制が生まれてから、その可能性は高まってきた。そして、実際に対ISIS大連合が成立し、またロシアがシリア問題の解決に貢献できれば、ロシアの世界における立場は強くなり、さらに、ウクライナ問題でも良い影響を導けるかもしれない。

 だが、米国がロシアの動きに依然として反発していること、後述の通り、トルコとの関係が悪化していることは、このチャンスの可能性を低下させていると言えるだろう。

 加えて、ISISの問題はロシアに大きな脅威をもたらしかねない。実際に2015年は甚大なテロがロシアに大きな被害をもたらしてきたが、この傾向は今後も続く可能性が高い。ロシアが再度テロの被害を受ければロシア国民に不安を巻き起こし、社会の安定に悪影響を及ぼしうるばかりか、プーチンの支持率にも影響しかねない。このようなテロはロシア当局としてはなんとしても防がねばならない。

 そして、ロシアがアサド政権を支持し続ければ、いくらロシアがISIS壊滅に貢献しても、世界からの批判をかわすことが難しい。他方、アサド政権支持をやめれば、現在、協力関係にあるイランやイラクとの関係が悪化しかねないだけでなく、シリアの軍基地を失う可能性が高まる。さらに国民に「憎むべき欧米に屈した」という印象を与えかねず、やはり国民からの支持率低下を引き起こしかねないことから、外交的にも内向的にも大きな悪影響を引き起こす可能性が高いのである。

トルコ関係悪化でロシアが被る悪影響

 また、トルコによるロシア機撃墜で悪化したトルコとの関係もロシアには大きなネガティブな影響をもたらしそうである。

 第一に、ロシアが新しい欧州向けガスパイプラインとして計画していた「サウスストリーム」パイプラインの代わりとして計画を発表していた、トルコ経由の「トルコストリーム」の実現性が極めて低くなっている。そうなるとロシアは欧州への確実なガス輸送路を確保できなくなる。

 また、ロシアにとってトルコは重要な食料輸入元であった。特にウクライナ危機後に行われている欧米からの制裁とロシアの報復措置で、欧米との貿易がほとんど不可能になっていた中、ロシアにとってトルコの存在は以前にも増して大きくなっていた。トルコとの貿易を取りやめることで、ロシアはさらに食料輸入が困難になり、インフレも強まる可能性が高い。そして、トルコが NATO加盟国であることから、トルコとの関係悪化はロシアが諸外国との対ISIS大連合を結実させることも極めて難しくしたと言って良い。

 またトルコとの関係悪化はロシアの国内問題や「近い外国(旧ソ連諸国)」にも悪影響を与えそうだ。

 そもそも、トルコ軍がロシア軍機を撃墜した背景には、ロシアがシリア・トルコ国境付近のテュルク系少数民族のトルクメン人居住地域を空爆していたことがあるとされる。同地域のトルクメン人は反アサド派であり、トルコとは利害を共有している一方、アサドを支持するロシアにとっては都合の悪い存在であったわけである。だが、ロシア国内には去年併合したクリミアに居住するクリミア・タタールやタタール人をはじめとした多くのテュルク系民族がいる。また、ロシアに「近い外国」である、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギスの主幹民族もテュルク系である。

 テュルク系民族とは、シベリアからアナトリア半島にいたる広大な地域に広がって居住する、トルコ語に代表されるテュルク諸語を母語とする諸民族を指すが、彼らは言語、歴史、文化などの共通性を根拠に、政治や経済での連帯意識を持つ傾向があり、そのような動きは「汎テュルク主義」(その期限は19世紀後半のロシア帝国)などと呼ばれ、時代の流れの中で、幾つかの顕著な運動も起きてきた。

 ソ連解体後もこのような傾向が強まり、一時テュルク系諸国首脳会議などが頻繁に開催されたこともあった。現在、大きな「汎テュルク主義」の動きはないが、ロシアがトルクメン人、すなわちテュルク系民族を攻撃している事実が、再び汎テュルク主義を刺激するのではないかという危機感を表明しているテュルク系の専門家も少なくない。そうなれば、クリミアを含むロシア国内や近隣諸国から、またロシアにとって都合の悪い動きが出てくる可能性もあるのである。

 このようにロシアにとっては難しい課題が多い2016年だが、ロシアは米国に対しては強硬姿勢を貫くだろう。なぜなら、米国のオバマ大統領の任期が迫る中、オバマ大統領が何か大きなことをする可能性は低く、そのような大統領と何か大きな交渉ごとをすることは徒労であると考えている節があるからだ。

 また、上述の通り、ロシアの経済が極めて厳しい状況であることは間違いないとはいえ、ロシア政府は(国内的・対外的なポーズかもしれないが)資金不足を否定している。もし実際に、ロシアの経済状況が改善すれば、ロシアの内政・外交の自由度はかなり高まるだろう。

日本はロシアと緊密化を

 最後に、日本は2016年にどのようにロシアと付き合うべきかを検討したい。

 日本は米国との関係を重視するため、ロシアと米国の関係が悪化している状況下では、ロシアと距離を置く傾向があり、本来であれば2014年に予定されていたプーチンの訪日もウクライナ危機によりずっと延期してきた。しかし、日本はロシアとの関係を重視すべきである。2016年はなんとしても首脳外交を密にし、プーチン訪日を実現した上で、日露関係の緊密化に努力するべきだろう。

 良い兆しもある。たとえば、日露の共同軍事演習や共同クジラ類調査の計画である。このような協力体制は両国関係に良い影響をもたらすだろう。

 他方、2015年6月に可決していた「流し網漁」禁止の法案が2016年に発効することは、日露関係に大きな亀裂をもたらすだろう。特に、日本の漁師が直接に大きな打撃を受けることから、本問題は日本政府がなんとか解決すべき重要な課題である。

 このように多くの不安定要因がある中で、日露関係の強化は難しい。しかし、日本は政府レベルのみならず、民間レベルやビジネスレベルなど様々なレベルでロシアとの関係を深め、長期的視点で両国関係を深めていくべきだろう。

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