- 2016年01月01日 11:10
イノベーションもたらすFinTech 日本の金融はどうなる? - 渡辺竜士
FinTechベンチャーとして企業数が最も多く、海外の金融サービスにおいて破壊的なイノベーションが見られる分野として前回コラム(FinTech伝統的な金融業界を破壊)では「貸付け(ローン)」を挙げた。
Marketplace LendingやP2P Lendingと呼ばれる新規参入ベンチャーは、インターネット経由の透明かつ合理的なプラットフォームを使い、伝統的な金融機関よりも良い金利や投資リターンで借り手と貸し手(又は投資家)を合致させている。ただ、このコラムのタイトルが正しいのならば、果たしてこれが何を破壊しているのだろう?説明するにはこの新種サービスの起源に遡る必要がある。
90年代から存在したマイクロファイナンス
時はミレニアム(2000年)、森喜朗内閣の時代。記憶のキーワードはIT革命、シドニーオリンピック、そして慎吾ママなどだろうか。海外ではマイクロファイナンス(小口金融)やマイクロクレジット(小口融資)が盛り上がっていたのを覚えているだろうか?
アフリカ、東南アジア、中東の途上国における貧困緩和策としてNGOが始めたマイクロファイナンスは、1990年代にMFIs(Micro Finance Institutions、直訳:マイクロファイナンス機関)として規模の経済を獲得し、2000年には成熟期を迎えた。
あまり知られていないのは、こういったファイナンスの対象が先進国・途上国という区分に関係無く、貧困層をターゲットしたものとして進展した事である。貧富の格差が激しい米国では当時230万~350万人(人口の1%前後)ものホームレス生活者を抱えており、慈善事業としてのマイクロファイナンスが拡大していた。そこまでの生活困窮者でないにしても、初期のP2PやMarketplace Lendingは、伝統的金融機関でローン申請が通らない小口資金ニーズに対応するべく、チャリティ・プラットフォームとして始まったのだ。「必要は発明の母(プラトン)」である。
P2P、Marketplace Lending初期から現在、そして未来へ
初期のP2PやMarketplace Lendingの金融における役割は次の図のようになる。管理コストが高く、伝統的金融機関が取り扱わなかった対象群(高金利・低信用・小口)を切り開いた。ただ、赤の点線で表現したように、貸し手と借り手それぞれのリスク・リターンが明確な自己責任となっており、伝統的金融のようにブラック・ボックス化されていない。
画像を見る図1.2005年~10年頃、初期のP2P/Marketplace Lending拡大画像表示
近年では、赤線の箱で表現されたプラットフォーム(低コスト、透明な運用)が上側の伝統的金融で賄われていた分野を浸食して来ており、伝統的金融機関との合併・吸収・提携が盛んになっている。数年後には海外の殆どの金融機関がこういった新プラットフォームを自らのサービスの一環として提供している状況になるだろう。
画像を見る図2. P2P, Marketplace Lendingと伝統的金融機関が融合
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金融リテラシーの向上が課題である日本
さて、日本ではどうなるのだろう? 2つの理由から全く異なる展開が想定される。
理由の一つ目は、金融リテラシー(お金の知識・判断力)の違いだ。日本の大人の金融リテラシーレベル[1]は世界148カ国中38位(英国9位、米国14位)。OECDが現在行っているさらに詳しい統計・分析の発表(来春予定)が待ちわびしいが、個人金融資産の運用が極めて保守的である点からも金融リテラシーの向上が重要視されて久しい。金融経済教育推進会議[2]は日本人が最低限身に付けるべき金融リテラシーとして「金融リテラシー・マップ」を2013年4月に発表したが、そこではリスク・リターン、自己責任、流動性・安全性・収益性、景気・金利・インフレ・デフレ、そして為替等の理解が必要知識として挙げられている。
小口とはいえ、オンラインでお金を貸し付ける(又は投資する)対象の選別、そして約定・決済を可能にするP2PやMarketplace Lendingでは、開示情報を理解し、さらに自分の資産との適合性を自己責任で行う事が求められる。前述のリテラシー水準にある日本では、欧米に比較してより慎重な取組が必要であり、勝手な想像ではあるが、金融庁が銀行の業務範囲規制を緩和する方向(銀行の業務範囲規制を緩和へ、フィンテックの活用促す [12月16日 ロイター])なのも、欧米とは異なるFinTechへの一歩と理解している。
熟成段階へと進んだ欧米金融市場
2つ目の欧米との違いは、金融市場の成熟度の違いだ。資金ニーズを貨幣や有価証券で橋渡しする事を金融市場の生業とするならば、欧米市場は”完熟”から今後”熟成”ステージへ、日本は”未熟”と”完熟”の間にある。赤身肉の話をしている訳ではないので、具体例を挙げる必要があるだろう。細かい突っ込みは控えて欲しいが、図3の比較はどうだろうか。(英国はヨーロッパ地域単位の資本市場へと大きく移行したため、ここでは日米比較にする)
画像を見る図3.日米比較
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米国では大型株だけでなく、小型株やベンチャー投資でもしっかりと資金が潤沢だ。非上場ベンチャー企業で市場価値が10億米ドル(約1200億円)を上回るものは”ユニコーン”企業と呼ばれているが、この数は今、過去最高の145社に達している。近年ではベンチャー投資に(資本家と云われる特殊層だけでなく)機関投資家の参加率が高まっている。株式公開しなくても資金調達ができる仕組みができあがったのだ。
一方日本におけるベンチャー企業投資は(統計手法によって20%前後誤差はあるが)年間約1000億円。毎年1兆円以上のODA支出をし、20兆円を超すM&A(2015年)が行われている国としては極めて規模が小さいが、FinTechでベンチャー投資市場が突然充分な規模に変わる訳でもない。終身雇用、安定給与、そして大企業趣向の国民性や文化にも深く関わっているので、時間を掛けて成長を促す根気が必要だ。
金融市場が“完熟”していない日本においては、ベンチャー企業が中心になって事が進む欧米とは異なり、伝統的金融機関や既存のIT企業の出方が鍵となる。前述した金融庁が検討しているとされる銀行業務範囲規制の緩和も、最近頻繁に発表される大手金融機関や大手企業とベンチャーFinTech企業の提携・出資も、日本独自のFinTechへと繋がる素晴らしい取り組みだ。
FinTechは手段・機能・ツールに過ぎず、目的はより良い金融サービスの提供だ。FinTechという言葉がBuzzワード(流行語)となり、言葉に踊らされる心配があったが、しっかり本質を理解した実業家・起業家・大手企業経営陣・監督官庁の動きが多く頼もしい。
おことわり:本コラムの内容は全て執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式的な見解を示すものではありません。
[1] 2014年、世界148カ国・約15万人を対象に行われたMcGraw Hill Financial社のグローバル・フィナンシャル・リテラシー統計
[2] 関係省庁(金融庁、消費者庁、文部科学省)、有識者、金融関係団体(全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会、生命保険文化センター、日本損害保険協会、日本FP協会、日本取引所グループ、運営管理機関連絡協議会)金融広報中央委員会がメンバー
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