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次世代ヘルメット、ハイテク技術で脳の損傷防止

 アスリートが頭部に受ける度重なる衝撃を原因とする後遺症が、世の中で公に認知され始めてから10年がたつ。頭部に受けるそうした衝撃が、脳振とうを繰り返し引き起こし、それが重篤な健康問題につながる場合があるのだ。

 この問題は現在、かつてないほどの注目を集めている。俳優のウィル・スミスがベネット・オマル医師に扮(ふん)した映画「コンカッション(原題)」が公開されたからだ。オマル医師は実在の病理学者。米プロアメリカンフットボールリーグ(NFL)でラインマンとして活躍し、後に死亡したマイク・ウェブスター元選手の脳を最初に調べ、長期にわたる神経の変化について検証した(訳注=オマル医師は10年前の2005年にこの関連性を指摘した)

 脳損傷への認知度と治療法は改善しているものの、頭蓋骨と脳を実際にもっとうまく保護するヘルメットなどの器具の進化は遅々としている。

 オレンジバーグ・リージョナル・メディカル・センター(米サウスカロライナ州)の放射線科医エリック・モーガン博士は、「脳振とうの発見と治療のための取り組みが盛んだ。それはそれで素晴らしいことだが、脳振とうの減少にもつながるような器具があれば良いと思う」と述べる。同博士は、より安全なヘルメットの開発に取り組んでいる数少ない企業の1つ、テート・テクノロジー社に助言している。

 バージニア大学の応用生体力学の専門家で、NFLの頭部・首・脊髄委員会の委員長を務めるジェフ・クランドール氏は、最も激しい衝撃を20%軽減できる器具が登場するだけでも有意義だろうと指摘している。

 次世代ヘルメットを開発する人はみな、それで全てのスポーツに関連する脳外傷を防げるわけではないことを認めている。なぜなら、脳は基本的に液体に浮かんでいるからだ。このため、アスリートが激しい衝撃を受けると、その力によって脳が頭蓋骨と衝突したり、脳組織が切断されたりする場合があるからだ。これは重篤な損傷につながる。

 シカゴの神経外科医で、初期の脳振とう研究でオマル医師と協力したジュリアン・ベイルズ医師は、「ヘルメットは大いに役立っている。顔面や頭皮の損傷、頭蓋骨骨折や脳出血などを防ぐからだ。ただし、脳のスロッシュ(液体内などで激しく動いたり、強打したりすること)を防ぐことはできない」と述べる。同氏は「このスロッシングが損傷を引き起こす」と指摘する。

 ベイルズ医師の理論に基づいて、ある独創的な器具の開発が行われている。それは首輪状器具によって頭部の液体の量を増やすことで脳をより安定的に維持しようとするものだ。これに対し、他の大半の器具は、衝撃時に受けた力を分散しようとするものだ。

 以下に開発途上の最先端のアイデアをいくつか紹介したい。もしヒットすれば、もうかる商品になる可能性があるものだ。

 コイル状の安全技術

 ジェニー・テート・モーガン氏は自らの体験から、ヘルメットの安全性に執着するようになった。スポーツ器具業界の先駆者であるジョン・テート・リデル氏の孫である彼女は2011年、ポロをしているときに頭部と脊髄を激しく損傷し、一時的にまひ状態になった。回復後、彼女は金融業界でのキャリアを捨て、テート・テクノロジー社を創設した。彼女によれば、これはスポーツの安全性を注視し、医師、エンジニアと器具の専門家を集めた「テクノロジーのシンクタンク」だ。

 同社は過去1年半にわたって、鋼鉄製の24ゲージ(太さの単位)の針金でできたコイル(渦巻き)状のシェル(殻)を中に埋め込んだヘルメットの試験を行っている。このコイルは1インチの48分の1(約0.5ミリ)の太さで、衝撃を受けた際、その力を吸収して多方向に拡散させるよう設計されている。

重層デザイン

現時点では、ワシントン大学(シアトル)と関連のあるシアトル地域在住の科学者グループが21世紀型のヘルメットの発売に一番近い位置に付けているようにみえる。

医療技術業界で4半世紀を過ごしたデーブ・マーバー氏の協力を得て、このグループはVicis社を創設した。Vicis社は来春、NFL選手に同社のヘルメットを試してもらい、早ければ来季にも試合で着用してもらうことを目指している。

 マーバー氏とこの科学者チームは1000万ドル(約12億円)を調達してヘルメットを設計した。ヘルメットは来年1月に発表の予定だ。このチームには、ワシントン大学の機械工学科の責任者を務めるパー・レインホール氏や、シアトル小児病院の神経外科医で、同院のスポーツ脳振とう研究プログラムの責任者を務めるサミュエル・ブラウド氏が入っている。このヘルメットには4つの層があり、それらが一体となって頭部を保護する。Vicis社が地元で製造する計画だ。

 ヘルメットの外側シェルは衝撃を受けると圧縮する。シェルの内側には、自動車および航空宇宙業界から入手した素材を使用している。寒いグリーンベイでも、暑いマイアミでも強さを維持できるような素材だ。

 同社は、1月中旬の公表を控えて、その他の設計内容をほとんど明かしていない。ただし、同社はNFLから50万ドルの助成金を獲得しており、特定の安全性基準を満たせば、最大100万ドルを受け取る見込みだ。

 首輪と血流

 脳の血流を増やす器具の効用を理論化したベイルズ医師は、ヘルメットの設計者に悪意を持っているわけでは決してない。ただ、脳振とうの問題は外側からではなく、内側から解決する必要があると考えている。

 ベイルズ医師(映画「コンカッション」ではアレック・ボールドウィンが演じている)は、どんなヘルメットでも、スロッシングによる損傷から脳を保護することができないのではないかと疑っている。しかし、彼によれば、体を使って自分自身を保護することが可能だという。心拍1回につき、体内の血液の25%が脳に行き、25%が脳から出ていく。ベイルズ医師は、血液をほんの少し余計に残るようにできれば、その余分な液体が脳の安定性を向上させ、スロッシュを減らせると論じる。

 同医師は「ティースプーン1杯分の余分な血液が、状況を一変させられる」と話す。

 このスプーン1杯分の余分な血液を得るため、彼は首輪のような器具の設計を手助けした。頸(けい)静脈の付近で血流を調整する首輪のようなものだ。この器具が血流を遅くし、衝撃時の脳の動きを制限する可能性があるという。

 ベイルズ医師は、自然界には保護を提供している生物の生態の例がたくさんあると述べている。キツツキは生涯にわたって自分のくちばしで木をつついているが、脳損傷を起こさない。カツオドリ(海鳥の一種)は時速60マイル(約96キロメートル)で急降下し水中に突入する。

パフォーマンス・スポーツ・グループの1部門であるバウアー・ホッケーは首輪のような器具の技術を獲得した。数年後の商品化をにらんでいる。

By MATTHEW FUTTERMAN

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